おひとりさま大歓迎! 鳴子温泉の宿で始める「現代の湯治」のすすめ

旅館大沼の、宿泊客のみの貸し切り露天風呂「母里(もり)の湯」。離れにあり、車で送迎してもらえる
旅館大沼の、宿泊客のみの貸し切り露天風呂「母里(もり)の湯」。離れにあり、車で送迎してもらえる

ひとり旅。それは己の魂の源泉をたどる深遠なる行為——。

世の中にはひとり旅ができないという人も大勢いるけれど、私はひとり旅をこよなく愛しています。なんてったって、行きたいところに行ける。ダラダラしていても、急に予定を変更しても誰にも文句を言われない。最高じゃないですか。

ひとりで申し込むと断られる、という伝説も今や昔。最近では、ひとり客を歓迎する旅館も増えてきています。

1200年の歴史ある源泉かけ流しの温泉に身を浸す喜び

東鳴子温泉の旅館大沼。「目の湯」の由来は混浴「薬師千人風呂」から

今回の旅先に選んだのは、1200年の歴史があるという宮城県・鳴子温泉郷の「旅館大沼」。創業100年を超えるお宿です。

こちらは、おひとりさま大歓迎のお宿として、その筋の人にはことに有名。特に女性のリピート客が多いことで知られています。この日は特に、初めての試みであるレディースデーということで、すべてのお客さまが女性でした。

レディースデーのため、日帰り入浴も女性のみ対象でした

旅館での楽しみは、なんといっても温泉。この旅館大沼は、楽天トラベルの「湯めぐりができる人気の温泉宿ランキング」で全国1位を取ったこともあるほどの実力です。

ちなみに、鳴子温泉郷は泉質が多彩で、日本の温泉泉質分類11種のうち9種類が湧き出ているという、日本でも珍しい場所。

旅館大沼には2つの源泉があり、8つの温泉があります。もちろんすべて源泉かけ流し。ああ、源泉かけ流し。このうっとりする単語の響き…。あ、ちなみに私、温泉ソムリエなんです。

薬石・天然石浴槽「陰の湯」。ルチルクォーツと水晶の原石が設置してあります

なかでも、紅茶のような色をした自家源泉は赤湯と呼ばれ、とろりとした肌触り。このお湯が最高に気に入っています。余談ですが、この湯はモール泉という温泉で、植物起源の有機質を含んでいるそうです。だからかぐわしい木の香りがするのですね。

2つの源泉を混合泉にした「薬師千人風呂」。混浴にチャレンジするのもまた楽し

「薬師千人風呂」という混浴もあります。こちらは塩分を含むさっぱりとした、少し黄色がかった温泉。毎日19時30分から21時までが女性専用となりますが、この日はレディースデーなので何時でも女性だけで入り放題で、最高でした。

「母里(もり)の湯」。とても静かな離れにある。入浴しているのは筆者

館内のお湯を楽しんだあとは、離れの「母里(もり)の湯」へ。こちらは宿泊客のみの貸し切り露天風呂で、静かな庭園の中の温泉に心ゆくまで身を浸すことができます。

誰にも邪魔されず、ひとりっきりで露天風呂に入り身体を伸ばすというぜいたくといったら! ついつい、素っ裸で浴槽のまわりをウロウロしてみたり腰に手を当てて立ってみたりと、いらぬ開放感にも浸ってみます。

また湯に入ると、思わず古典的な言葉が口からこぼれ出てしまいました。「はあ〜、極楽、極楽」。

しかし、その後にさらなる極楽が待ち受けていたのでした。

農家がつくるオードブル「農ドブル」に舌鼓

採れたて野菜でつくったサラダ。ドライトマトが甘みをぎゅっと凝縮していて美味

この日の夕食は「農ドブル」。農ドブルとは、農家さんがつくった野菜や卵などの素材を、自身の手で調理してふるまってくれる、この地域の新しいプロジェクトです。プロトタイプを経て、今回が本格デビューということでした。

素材はもちろん採れたてで新鮮。それらを知り尽くした生産者さん自身の調理ですから、おいしくないわけがないのです。プリップリの甘い卵、歯ごたえ抜群の豆、ツヤツヤでふっくらしたお米……。ああ、幸せ。

つきたて、炊きたてのごはんに、玄米を主食に育った有精卵。コクがあるので醤油は不要

農家さんがそれぞれに、自慢の素材と料理のことを説明してくださるのですが、これがまたユニークな人揃い。笑いの絶えない食事の時間は、ひとりで来たのではなく、会場にいるみんなで来たかのようなあたたかい空気に包まれます。

こんなイベントのような食事だったら、ひとり旅館の初心者でも抵抗なく楽しく過ごせそう。実際、周囲の人と「どこから来たんですか?」「どうやってこのイベントを知ったの?」などと、話も弾みました。

農家さん達。みなさん、ユニークだしおしゃべりも上手だし、何よりその野菜や米や卵への愛情がたっぷり

翌朝は、ロビーに農家さん達が来て、食べた食材や調味料などを販売してくれるプチマルシェが開かれるので、実際にお買い物をするという楽しみもあります。私は味噌と米を買って帰りました。

「現代の湯治」で自分自身を取り戻そう

湯治とは、昔、農家や漁師たちが日頃の重労働の合間にゆっくり心身を休めることでした。たとえば田植えの後の「さなぶり湯治」、暑い時期の「丑湯治」、寒い時期の「寒湯治」などがそう。

「湯治」は病気を治すというよりは、辛い日々から解放されてのんびりするかけがえのない「ハレ」の日でもあったのです。

現代を忙しく過ごす私たちにも、きっと「湯治」が効くのではないか。そのためには、温泉にもっと気軽に入りにいけばいいのではないかと思うのです。

みなさまも、おひとりさまを歓迎してくれるお宿を見つけて、「現代の湯治」を試してみては?

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池田美樹 (いけだ・みき)

エディター。マガジンハウスにて『Olive』『an・an』『Hanako』『クロワッサン』等の女性誌の編集を経験した後、2017年に独立。シャンパーニュ騎士団(Ordre Des Coteaux De Champagne)シュヴァリエ。猫5匹とともにひとり暮らし。著書『父がひとりで死んでいた』(日経BP、如月サラ名義)等。

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