「人と接したくないからラブホでバイト」女子大生が大人のための「絵本」を作成(前編)
「人のセックスでご飯を食べる」。そんなキャッチ-なタイトルの絵本が話題となっています。企画したのは目白大学3年のカキヌマさん(21)。自身のラブホテルでのアルバイトの経験をもとに絵本を作りました。「人間と接するのが苦手でラブホのバイトを始めた」というカキヌマさん。彼女がラブホテルで見た人間模様とは――。(取材・伊藤あかり)
「一度しか会わない人は、敵意をぶつけてくる」
絵本の登場人物はヤンちゃん。人見知りで恥ずかしがり屋の性格で、シーツをかぶっています。モデルは作者のカキヌマさん(21)。
カキヌマさんはこれまで、居酒屋や受付のバイトなどをしてきましたが、長くは続きませんでした。
「一度しか会わない人同士って、敵意をぶつけてくるじゃないですか。それが苦手なんです。居酒屋でバイトしても、お客さんに『おい、あれ持ってきてよ』とか言われて。こちらもおもてなしするつもりでいるんだから、そんなに強く来ないでよって思っちゃうんですよね」
そこで探したのが、ラブホテルでの清掃バイト。なるべく人に会わなくていいように、フロントが対面式ではないところ、ルームサービスのデリバリーがないお店を選びました。場所は池袋。大学と自宅の間で、乗り換えが楽だから。ただそれだけの理由でした。
4件ほど電話して、今のバイト先に決まりました。時給1030円。居酒屋バイトより時給も上がり、「これで人に会わずに接せられる」とほっとしたそうです。
カキヌマさんの絵本には、こんな文章がつづられています。
”人と関わることで嫌な気持ちになるならと、ヤンちゃんはあまり人と関わらなくても良いラブホテルで働くことにしました。
「汚いとか、そんなことはどうでもいい。人と関わらなくてもいい仕事なんて、なんて素晴らしい仕事なんだ!」
ヤンちゃんは天職だと思いました”
1日20部屋を清掃
バイトが決まってからは週に5、6日、働きました。清掃は3人1組。お風呂、洗面台、ベットに分かれて、黙々と掃除をします。1部屋にかけられる時間は15分ほど。1日で20部屋を片付けなければならず、体力勝負です。
絵本の中では、掃除前のラブホテルの様子が描かれます。
“今日は初めてのラブホテルでの仕事です。
お部屋に入ったヤンちゃんはびっくり!
崩れたベットと人の匂い、
歯ブラシも食べ物も全部そのままです。
ゴミはゴミ箱に入れられず、そのままポンって置いてけぼり。
トイレも流してないではありませんか”
廊下まで届く納豆の臭い
一番驚いたのは「納豆プレイ」。部屋に入る前の廊下にまで、納豆の匂いがあふれ出ているのです。しかも、彼らは常連組。月に1、2回は利用しています。清掃に入ると、律義にゴミ袋の中に複数パックの納豆とブルーシートがまとめられているそうです。
絵本の中のヤンちゃんも嘆いています。
“ブルーシートプレイで1番大変なお部屋は、納豆プレイのお部屋です。
ゴミはしっかりまとめて置いてくれますが、床のベタつきと匂いが取れません”
「もう、1人の人が一生で食べる納豆の数を見てるんじゃないですかね。バイト仲間の中にはあれのせいで、納豆が食べられなくなった人もいます。でも、きちんとゴミ袋に入れてくれて、きれいに使おうという気持ちが見えるので、うれしいですけどね」
嫌なお客さんも中にはいます。例えば、食べ物を食い散らかしたり、プラスチックケースを灰皿代わりに使ったりする人。
「それっておうちでもやってるんですかっていう気持ちになっちゃう。人間の本性が垣間見える場所なんだと思う」
ちなみに、うんちに当たったのは1回だけ。
「浴槽のはしっこに、ちょんちょんって置いてあった。箸でつまんで捨てました。バイト仲間で『当たった』って言ってたのは1回だけなので、2年いて2回。意外に少ないですよね」
忘れられないお客様
「何をしてくれてもいいんですが、片付けるところまでやってもらえるとありがたいですね。きれいに使ってくれる人は、記憶に残っています」
記憶に残る人とは、通称「マダム」と呼ばれる女性。もちろん、顔を見たことはない。ただ、毎回、同じ時間帯にやってきて、同じ部屋をとり、同じように延長していく。そんなマダムの素晴らしいところは、缶とビンをわけて、軽くベットを整えてくれるところ。
「絶対、いい人だと思うんです。見たこともない従業員の私たちにさえ、気を使える人なんですから!」