「ラブホでやってることは一緒。人付き合いが楽になった」絵本を作った女子大生(後編)

ラブホテルでのバイト経験をもとに絵本を作ったカキヌマさん(撮影・齋藤大輔)
ラブホテルでのバイト経験をもとに絵本を作ったカキヌマさん(撮影・齋藤大輔)

「人と会いたくないから」とラブホテルでの清掃員のバイトを始めた目白大学3年のカキヌマさん(21)。バイト先での経験をまとめた絵本「人のセックスでご飯を食べる」が話題を呼んでいます。バイト歴2年を超え、「みんなここでやってることは一緒。きれいな人も、怖い人も、どんな人も一緒なんだ。そう思ったら少し楽になりました」と話しています。(取材・伊藤あかり」)

【前編】「人と接したくないからラブホでバイト」

女を武器にできるってかっこいい

「ラブホでバイトをして変わったことですか? 恋愛観……は変化ないですね。ただ、風俗業の女性たちへのリスペクトが強くなりました。女を武器にできるってかっこいい」

バイト先のラブホテルには、きれいな格好をした女性たちが出入りします。「○○号室、お願いします」。その言葉の迷いのなさに覚悟を感じます。

「清掃を通して事後の部屋のにおいを知っていますが、例えばワキガや体臭がきついお客さんに当たってしまっても、そういう女性たちは『帰ります!』とは言えないわけじゃないですか。密室の空間になるとわかっていて、中に入っていく。廊下ですれ違ったときとかも、その颯爽とした姿にうっとりしてしまいます」

絵本の中で、カキヌマさんの分身「ヤンちゃん」がつぶやきます。

“キラキラ~

ヤンちゃんのラブホテルにこのあいだの奇麗な人が一人で入ってきました。

「302号室でお願いします」そう言うと奇麗な人は、もう人がいる部屋に入って行きました。”

カキヌマさんが作った絵本「人のセックスでご飯を食べる」
カキヌマさんが作った絵本「人のセックスでご飯を食べる」

「きれいな人ほど、私たちへの応対も丁寧なんです。電話もガチャって切らない」

ある日、事務所で監視カメラの映像を見ていると、エレベーター待ちをしているデリヘルの女性が、レンタルしたコスプレの衣装のしわを伸ばしていました。

「お客さんも、誰も見ていないのに。ラブホほど、素が出る場所はないと思うんです。だから、この人は普段からしわが気になる人なんだなと。きちんとした生活を送っている人なのかなと、想像しちゃうんですよね」

インタビューに答えるカキヌマさん(撮影・齋藤大輔)

以前より少し強くなった気がする

パリッとしたスーツを着たイケメンサラリーマンが昼間、ラブホテルにやってくることもあれば、強面のおじさんが「メイド服のコスプレ」をオーダーすることもあります。

バイトを始めて数カ月が経ったころ、カキヌマさんは自分自身の変化に気づいたそうです。

「どんなに、かっこつけてる人でも、ここでやってることは一つなんだって。変な話、どんな怖い人でも、お客さんと関連づけちゃえば怖くなくなりました。どうせみんな、あんなことしてるんだろって(笑)」

絵本の中のヤンちゃんも・・・

“ラブホテルにはいろんな人が来るけれど、みんな同じことをしに来ている。だから、みんな違うけどみんな同じです。<

ヤンちゃんは、もう以前のヤンちゃんとは違います。<

「みんな同じだから、比べなくても、怖がらなくても大丈夫!!!」”

カキヌマさんが作った絵本「人のセックスでご飯を食べる」2
カキヌマさんが作った絵本「人のセックスでご飯を食べる」

人と接することから逃げるつもりで、ラブホでのバイトを始めたカキヌマさんでしたが、バイトを通じて、いつのまにか「人間と接するのがこわい」を克服していたのでした。

「また居酒屋バイトにぶち込まれたら怖いけど、以前より少しは強くなってる気がする。つらいことがあっても、ラブホの経験を思い出せば『大丈夫、みんな同じ』って思えるはず」

これまで、休みの日は粘土をねったり、小説を読んだり。とにかく内にこもっていたカキヌマさんでしたが、ラブホバイトを始めてから、積極的に外に出られるようになったといいます。

カキヌマさん(撮影・齋藤大輔)

「この絵本を読んで、前向きな気持ちになれる人が一人でもいればいいな。そのためには展示をしないと!と思っているので、すっごい行動しないと!って」

“ヤンちゃんは今日も、ラブホテルで働きます。

いろんなお部屋を掃除して、いろんな人とお部屋を見て、人のセックスでご飯を食べます。”

『人のセックスでご飯を食べる』の表紙

【インタビュー前編「人と接したくないからラブホでバイト」

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