観光に負けない面白さ 「カジノ」の醍醐味はどこにある?

冒頭からいきなりだが、ぼくは外国のカジノが大好きである。たぶん、三度のメシより好きだろう。

でもなぜカジノなの? と思うかもしれない。

カジノなんてギャンブルなんだから、負けてお金を損したら困るじゃないかと思う人もいるはずだ。

もちろん、ギャンブルである以上、勝つこともあれば負けることもある。勝てばうれしいし、旅費が浮けば言うことないが、負けたからといって悲しいかといえば、ぜんぜんそんなことはない。

なぜなら、誰にも気兼ねなく、一人の時間を好きなように楽しめるからだ。

こんなことを言えば胴元にニンマリされてしまうかもしれないが、そうした楽しみにお金を払ったと思えばぜんぜん損した気持ちにならない。

カジノにはその国の国民性があらわれる

それともう一つ、ぼくがカジノに行く理由がある。

カジノにはその国のお国柄や国民性がよく現れるからだ。

ある精神科医によれば、日本人は「他人と同じように出来ない」といって鬱病になるが、フランス人は「他人と同じになっちゃった」といって鬱病になるという。

それくらい、国が違えば国民性も違うが、カジノにいるとそんな違いが面白いように見えることがある。ウソかと思うかもしれないが、観光に負けないくらい面白い。

陽気なアメリカのカジノの客たち

先日、ぼくはアメリカのアトランティックシティに行ってきた。

誰も伴わず、いつもと同じ一人旅だ。

ニューヨークからバスで南に2時間半走ったところにカジノの街はある。

たびたび映画の舞台にもなり、ラスベガスと並ぶ世界最大のカジノの街として人気だったが、今はさびれて人もまばらだ。

もし誰かを連れていたら、どうしてこんな淋しいところに連れてきたのかとか、つまらないとか言われそうだ。廃墟マニアではないが、今回はあえてそのさびれた街を見たくてやってきた。

「カジノの街」として知られるアトランティックシティの通り

ホテルにチェックインすると、荷物を置いてすぐにカジノに来た。

まずはルーレットだ。

ルーレットは昔から「カジノの華」とか「カジノの女王」と言われ、鮮やかで華麗な遊びとして知られているが、そうであるならディーラーも美人がいいに決まっている。

というわけで今回もいちばん美人のディーラーがやっているテーブルを選んだ。

席につくと彼女が言った。

「メンバーズカードを出してちょうだい」

メンバーズカードとは、カジノで賭けた額がポイントとして貯まり、部屋のアップグレードをしてもらえたりお食事券がもらえたりする会員証のことで、カジノ内での身分証代わりにもなる。

ぼくはポケットから、さっき作ったばかりのカードを取り出してディーラーに渡した。

彼女は受け取ったカードをジロジロ見ていたかと思うと、ぼくに返してきた。

「これは受け取れないわ」

「どうして?」

「だって、あなたとはいま初めて会ったばかりじゃない」

メンバーズカードを受け取れないなんて言われた経験はなかったので、ぼくは動揺し、意味がわからず困惑した。

アメリカのアトランティックシティにあるカジノの外観

ところが他の客はニヤニヤしている。中には歯を見せて笑っているやつもいる。

「どうしてダメなの?」

ぼくがもう一度尋ねると、彼女はいたずらっぽい目で、

「だってこれ、部屋に来いってことでしょ? 会ったばかりなのに誘ってくるなんて、いくら何でも早すぎるわよ」

そう言われてよく見ると、ぼくはメンバーズカードと間違えて、カード式のルームキーを渡していたのだ。

彼女はカードを間違えているとはいわず、こんなジョークで返してきたというわけだ。

ぼくが自分の間違いに気づいたことがわかると、他の客もドッと笑った。

ぼくのせいでゲームが止まって待たされていたというのに、文句を言うどころか一緒になって笑うなんて、いかにもアメリカのカジノらしいと思った。

それがきっかけでこのテーブルは大いに盛り上がり、楽しいゲームになった。

どんなにさびれても、アメリカのカジノはアメリカのカジノらしいのだ。

やがて彼女に交代の時間が来たので、試しに本当に誘ってみたところ、けんもほろろにあしらわれた。

仕事とプライベートがハッキリ分かれているのもやっぱりアメリカらしいというわけか……。

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松井政就 (まつい・まさなり)

作家。1966年生まれ。著書に『本物のカジノへ行こう!』(文春新書)『大事なことはみんな女が教えてくれた』(PHP文庫)ほか。ラブレター代筆、ソニーのプランナー、貴重品専門の配送、ネットニュース編集、フィギュアスケート記者、国会議員のスピーチライターなどの経歴あり。外国のカジノ巡りは25年を超え、合法化言い出しっぺの一人。夕刊フジでコラム連載中。

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