ラスベガスに仕事で出張したら「カジノで遊ぶ」のが礼儀である

ストリップ(ラスベガス大通り)沿いのカジノの様子
ストリップ(ラスベガス大通り)沿いのカジノの様子

ラスベガスにはこんなクイズがある。カジノのゲームの代表格であるルーレットに関するものだ。

ルーレットで「赤」が5回続いています。
アメリカ人は強いものが好きなので、好調な「赤」に賭けます。
ドイツ人は確率的に「赤」に偏り過ぎと考え、「黒」に賭けます。
イタリア人はテーブルの一番の美人と同じ色に賭けます。
さて日本人は、どうするでしょうか?

答えは2つ。「会社に電話して上司の判断をあおぐ」。または「ホテルに戻って会議を開く」。日本人が決断できないことをからかったエスニックジョークというわけだ。

ルーレットに興じる日本人サラリーマン

ある日、ぼくがストリップ(ラスベガス大通り)でルーレットをしていた時だ。首から名札をさげた日本人がやってきた。50 代と30代らしき男性で、家電系のコンベンションに来た上司と部下だった。

テーブルでは「赤」が続いていた。信号が赤ばかりでは困るがルーレットなら大歓迎で、テーブルの客は揃って赤に賭けていた。

上司が言った。

「やってみよう」
「はい!」

部下は元気よく返事をし、赤に賭けた。

すると上司が、

「そんなに赤ばかり続かないぞ。そろそろ黒が出るんじゃないか?」
「おっしゃる通りです」

部下は赤に賭けたチップを黒に移動させた。ディーラーが玉を投げると赤が出た。部下は顔を引きつらせた。当初のままなら当たっていたのだ。

次のゲーム。部下が赤に賭けると、上司は「今度こそ黒だろ」。

ホームランをかっ飛ばそうと、やる気満々で打席に入ったら、バントのサインを出されたような顔で、部下は渋々、赤から黒にチップを賭け直した。

玉はまた赤に落ちた。ムッとした表情が部下の顔に浮かんで消えた。上司にゴマをすらなければ2連勝していたのだ。

「不思議だよなぁ。同じ確率なのにどうして赤ばかり出るのかな?」
「不思議ですよねー」

会社でもいつもこんなに上司に気を遣っているのかと思うと、気の毒になった。赤を当てて盛り上がるテーブルで、二人だけが眉間にシワを寄せていた。

ルーレットを楽しむ人たち

やがて上司が言った。

「まだまだ赤が続きそうだな」
「私もそう思います」

やっと、といった表情で部下が赤に賭けると、いきなり黒が出た。もう、完全に裏目である。

「そう来たか……」
「予想外ですね……」

部下の表情は固まり、目はパチンコ玉のようになっている。上司もすっかり自信をなくしたようで、

「とりあえず黒かな?」
「そうしてみましょうか」

二人は恐る恐るといった様子で「黒」に賭け、不安げな眼差しで玉の行方を見守った。すると玉は一度赤に落ち、また裏目かと思った直後、バウンドして黒に止まった。

「やったぞ!」
「やりましたね! 部長!」

払い戻されたチップを手元に引き寄せ、二人は少年のように喜んだ。テーブルの客は、そんな二人を見てニヤニヤしていた。

ラスベガス訪問者としての礼儀

冒頭の日本人クイズを聞いていたので、ぼくも一緒にニヤニヤしていたが、ふと、笑ってはいけないことに気づいた。なぜなら、二人はラスベガス訪問者としての正しい行為をしていたからだ。

ラスベガスに来た日本人ビジネスマンの中には全くカジノをしない人がいる。その多くは、出張で来たのだからカジノなんかやってはならないというのが理由だ。

でも、それは大きな間違いだ。ラスベガスのおもてなしはカジノの収益が土台となっている。ショーもコンベンションも、カジノの売上げで赤字が補填されるからこそ開催できるのだ。つまり、カジノをすることこそ、ラスベガスに来た人の礼儀であり、二人はきちんとそれを実行していたのだ。

遊び方がちぐはぐなのは、初心者であれば当たり前のこと。ぼくだって、初めのうちはそうだった……。二人のことを一瞬でも笑ったことを、ぼくは反省した。

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松井政就 (まつい・まさなり)

作家。1966年生まれ。著書に『本物のカジノへ行こう!』(文春新書)『大事なことはみんな女が教えてくれた』(PHP文庫)ほか。ラブレター代筆、ソニーのプランナー、貴重品専門の配送、ネットニュース編集、フィギュアスケート記者、国会議員のスピーチライターなどの経歴あり。外国のカジノ巡りは25年を超え、合法化言い出しっぺの一人。夕刊フジでコラム連載中。

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