「ちょうど良い距離感」の美容師を見つけるのは難しい 美容院でも「ひとり」を楽しみたい

美容師さんとの「ちょうど良い距離感」が大事(イラスト・古本有美)
美容師さんとの「ちょうど良い距離感」が大事(イラスト・古本有美)

普段は時間をなるべく効率的に使おうと思っているせいか、スキマ時間があるとスマートフォンでニュースを見たり、本を読んだりしてしまいます。そのこと自体は時間の有効活用として良いとは思うのですが、何も見ずぼうっと考えごとをする時間がめっきり減ってしまったようです。

そんな私にとって、美容院に行くのはいい気分転換になっています。本当は、美容院に行くのは面倒だし、当然お金もかかるので行かないで済むのであればありがたいのですが、どうせ行かなきゃならないならひとりになれる時間を楽しもうと前向きに捉えることにしています。

もちろん美容院では美容師さんと対峙するわけなので、正確に言えばひとりきりではないのですが、いかにちょうど良い距離感をとってくれる美容師を見つけるかが重要なのです。

イメージを伝えるのが難しい

そもそも私が美容院に通い始めたのは高校生の頃からで、それまでは床屋さんに通っていました。別におしゃれに目覚めたというわけではなく、近所のおばさんが美容院でアルバイトを始めた関係で、そこの美容院に通うことになり、それ以来ずっと美容院に行くようになっています。

若いうちはまだ良かったのですが、もう40を過ぎたおっさんなので美容院に行くのもいささか気が引けるのですが、今さら理容室には戻れなくなってしまっております。

さて、美容院での時間は、スマートフォンや本といった情報の介入からしばし逃れられるという意味で、私にとって貴重な時間なのですが、美容師さんとちょうど良い距離感を見い出すまでがなかなか難しいのです。

美容院に行けば、開口一番「今日はどうなさいますか?」と聞かれますが、この質問にどう答えたら良いかで難儀します。たいていは明確な完成イメージも希望条件も持たずに臨むので、本当は「お任せします。好きにしてください。文句は言いませんから!」とでも言ってしまいたいのですが、それではさすがに美容師さんも困ってしまうでしょう。

なので、大体どのくらい切りたいか長さのイメージを伝えるのですが、これが案外難しいのです。多くの場合、希望よりも長く仕上げられてしまいます。

今回はかなり短めにしたいと思い、そう伝えても「短め」というのは多分に主観的・相対的な概念なのでなかなかうまく伝えられません。仕方ないのでヘアカタログ的な雑誌を開いてイメージ共有を試みるのですが、それでも期待より長めにされてしまうことが多いのは一体なぜなのでしょうか。

一通り切り終えた後に、鏡を見ながら「いかがですか? 長さはどうですか」と聞かれるので、その時に「もう少し短くしてください」と言えばいいものの、なんとなく美容師さんに悪いなあという気持ちとこれ以上長引くのが面倒くさいのとが相まって、「これでいいです……」と伝えてしまうことがよくあります。

一度だけ、かなり短めにしたい時に何度説明しても意図が伝わらなかったので、「イメージ的にはケンドーコバヤシみたいな感じです」と言ったら「あ、そういうことですかー」と一発で伝わったことがあるにはありましたが。

ほどほどの距離感を見つけるまでが大変

希望するイメージを伝えることの億劫さもありますが、それにも増して美容師さんとの会話が難問です。いや、全く会話をしたくないというわけではないのですが、何せひとりで思索にふけるのが美容院に来る目的の一つですから、始終おしゃべりに興じたいわけではないのです。

たまに、美容師さんとひっきりなしにおしゃべりをしているお客さんを見かけるのですが、あれは一体何を話しているのでしょうか。常連なのかと思うとそうとも限らないようです。なぜ初めて会ったのにあんなに話題が尽きずに話し続けられるのか、あの会話術の巧みさはぜひとも見習いたいものです。私などはそうした技術を全く持ち合わせていないし、そこまで話したいこともないので、ほどほどの会話に留めたいと常に考えています。

全く会話がないのも気まずいので、適宜ほどほどの会話が差し挟まれるくらいだとありがたいです。美容師としての腕前はもちろんですが、こうしたちょうど良い距離感を醸し出してくれる美容師に出会えるまでが大変なのです。

やたらと話しかけてくる美容師さんに当たると、本当に申し訳ないのですが「ああ……」と思ってしまいます。ちょうど、終電を逃した後のタクシーで、疲れて寝ようとしたら運転手さんがかなりおしゃべりな人だった時のような感じです。

今お願いしている美容師さんは、私のあやふやな要望もくみ取ってくれるし、会話もほどほどにしてくれるので実に気が楽です。美容師を指名するなんて、おしゃれ意識の高い人のやることのようで抵抗がありましたが、毎回その方を指名させていただいています。おかげで美容院での時間は、気持ちを切り替えて、普段の生活で忘れがちなことに思いを馳せる貴重なひとときとなっています。

ところで美容院で席に着くと、鏡の前の台に雑誌を何冊が持ってきてくれることがありますが、どんな雑誌が選ばれるかによって、自分がどう見られているのかが間接的に見えてきます。ある時は『OCEANS』と『家電批評』と『散歩の達人』でした。なるほどなあと妙に感心しました。

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松本宰 (まつもと・おさむ)

編集者。住まいのマッチングサイト「SUVACO(スバコ)」とリノベーション専門サイト「リノベりす」の編集長。住宅に限らず、己が心地良い居場所を探し求めてさまよう日々。好きなものはお酒と生肉とラーメン。

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