たったひとりで音楽レーベルを立ち上げ 48歳男性の新たな挑戦

たったひとりでレーベルを立ち上げた原田和也さん

原田和也さん(48)は2018年、長年勤めていた会社を退職し、趣味として続けてきた音楽の道に飛び込みます。それもミュージシャンとしてではなく、音楽制作のプロとして、たったひとりでインディーズレーベルを立ち上げたのです。これまでに手掛けた作品はわずかで、音楽制作のみで生計を立てるにはまだまだほど遠い状態ですが、それでも原田さんは現在の生活に満足しているようです。原田さんの挑戦の背景には何があったのか。話を聞きました。

自分が本当に好きなことは、いったい何なのか

原田さんは大学時代、軽音サークルに所属してバンド活動を行っていました。音楽には幼少のころから親しんでいて、中学生時代にはキーボードを手に入れて演奏を楽しみ始めます。その後もいろんな楽器に興味を抱き、現在はキーボードの他にギター、ハーモニカなどを演奏しています。大学を卒業してからも、学生時代の仲間らとともにバンド活動を継続するなど、原田さんにとって音楽はライフワークとなっていました。

大学を卒業後、原田さんは和菓子メーカーに就職します。以来ずっと飲食の道を歩み続けてきました。

「いつかは自分も飲食店を経営したいと思い、和菓子メーカーをやめて居酒屋で修業しました。店長も任せてもらえるようにもなりましたが、居酒屋という仕事自体の先行きに不安を覚え、開業をあきらめて給食の会社に入ったんです」(原田さん)

給食会社では、年を経るにつれて調理などの本来の業務以外にさまざまな仕事が増えていきました。自由な時間は次第に減っていき、ヘトヘトに疲れて帰宅。そのまま何もせずに寝てしまうといった日々が続きました。そしてあるとき体調を崩し、勤務中に倒れてしまいます。

パソコンと各種機材を使って音源を調整する原田さん

「このまま今の仕事を続けていくべきなのか」。原田さんは自分が置かれている状況に疑問を持ち始めました。

自問自答の末、原田さんは47歳のときに、15年間勤めた会社を退職しました。その際、これからの仕事や生活などに具体的なプランがあったわけではありませんが、頭の片隅には、ぼんやりと「音楽の道」がありました。

「じつは退職する3年ほど前、大学時代のサークルの先輩が自身のオリジナルCDを作るということになり、その制作を頼まれたんです。そのことがきっかけで音楽制作という仕事を意識し始めたんです」(原田さん)

これまでとは違う業界に飛び込むことに対して不安がなかったわけではありませんが、原田さんは新たな挑戦を決意します。

「もし同じような業種(飲食業)に転職をしたとしても、自分の年収が今まで以上に上がるとも思えなかったし、この先景気が良くなるのかも疑問でした。だから好きなことに挑戦するタイミングは今なんじゃないかとも思いました。もちろん稼ぎになるかは全くわかりませんが、少なくともチャレンジする価値はあるのでは、と」(原田さん)

たったひとりの音楽レーベルが誕生した

原田さんがコツコツと集めてきた機材

原田さんの背中を押したのは、他でもない、アルバム制作を依頼してくれた先輩でした。「何もしなくて成功することはない。チャレンジしさえすれば、成功する確率はゼロではない。宝くじを当てるよりも成功する確率は高いんじゃないか」。

先輩の言葉に勇気をもらい、原田さんは自身のレーベル「ヘドオリミュージック」を2018年の秋に立ち上げました。ギター、キーボードといった楽器の他に、これまでにコツコツと集め続けた中古の機材。そして自宅の使っていない部屋がスタジオの、たったひとりの音楽レーベルです。

「CDの制作も、昔に比べたら今はかなりハードルが低くなっていて、制作費も安くなっています。だからこそこの仕事に飛び込みやすかったということもありますね。もちろん僕以外にも多くの人が同じようにオリジナルのCDをリリースしていて、作品全般のクオリティもどんどん高くなってきています」(原田さん)

ベースの音を録音する原田さん

原田さんがレーベルを立ち上げて1年が過ぎましたが、まだまだ音楽の仕事だけで生活ができるほどではありません。もちろん最初から仕事のオファーがどんどん来るとは思っていなかったため、他の仕事をしながら、空いた時間を使ってアルバム制作や作曲などを行っています。

「じつは今も調理の仕事をしているんです。でも会社ではまだ下っ端なんで、毎日決まった時間に帰宅できるんです。だから楽曲制作のプランも立てやすいんですよね。夕方帰宅して、そのあとにに制作の作業にかかりますが、もちろんミュージシャンとの打ち合わせなどもあります。そのほか、ジャケットの写真やデザインなども行いますが、こういった作業も好きなんです」(原田さん)

CDという到達点に向かい、曲作りや編曲、アレンジをたったひとりで日々進め、それらが徐々にカタチとなっていく。この仕事は、原田さんの生活に張り合いを与えてくれました。

「以前は時間の余裕がなくて、あまり出歩くこともできませんでしたが、今は時間ができたので、楽曲制作のかたわら、ライブなどにも積極的に足を運んでいろんな音楽を聴くようにしています。お酒を飲みに行く機会も増えて人間関係も充実してきました」(原田さん)

いかに作品を販売し、レーベルをどう宣伝するのか。まだまだ分からないことばかりです。現在は、レーベルの知名度を上げるために自身のオリジナル曲を作ってネットで公開したり、地元のライブに出演したりして、自分自身の存在を積極的にアピールしています。

レーベルが軌道に乗るには、もう少し時間が必要かもしれません。でも原田さんは、いずれは音楽一本で生計を立てていくつもりです。理想を追い求める日々は決して楽しいことばかりではありませんが、原田さんの表情に、苦労や苦悩といった表情はありません。

地元のイベントでオリジナルの曲を披露する原田さん

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夏目健司 (なつめ・けんじ)

愛知県名古屋市在住のカメラマン兼ライター。バイク、クルマ雑誌の取材を中心に活動中。趣味はバイクやアウトドア。毎年夏にはバイクのキャンプツーリングを楽しんでいる。ケッコン歴無しのアラフィフ男目線(?)で多様なテーマに挑戦中。1971年生まれ。

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