独身生活はちょっといい「モノ」にこだわりたい(50代からの独身日記 11)

ジョージ・ナカシマ作のアームチェア
ジョージ・ナカシマ作のアームチェア

50代からのモノなし独身生活も3年目後半に突入です。段ボール箱4つと衣類・寝具からスタートしたモノを持たない生活。住まいも町屋の古アパートから都立大のレジデンス、そして蒲田の一軒家とめまぐるしく引越しを重ねたものの、変わらないのは「ひとり」と「モノなし」ってことだけ。

ところが。

実に快適ではあるものの、何か生涯使えるもの、近くにあって落ち着くものが欲しくなったのも事実。それはいわゆる生活お役立ちグッズではないのです。

そこで、この2年くらいの間に購入した「ひとり」を楽しむ「アートなモノ」をご紹介させてください。

輪島塗キリモトのお椀と萩焼江月窯の茶碗

漆の専門家である友人がいて、日本の工芸品、特に漆製品を広めるプロなのですが、いいモノに出会うきっかけは彼女の情報から始まることが多いんですね。イノベーティブな輪島塗の「キリモト」もそうでした。一昨年、輪島に行った時にたまたま入ったショップで見た漆製品に驚愕。器がひとつ2万円とは…。

左が野坂和左作のごはん茶碗、右が輪島キリモトの椀

しかし、製造工程などの話を聞いて、いかにその世界を知らなかったかがよくわかり、早速友人に相談したところ、勧めてくれたのがこの器です。曲線が実にセクシーだと思いませんか?

ひとり暮らしだと、食事をインスタント味噌汁で済ませることもあります。しかし、この器でいただくと味が変わるのですね。はい、ホンモノは気分を高めてくれます。お値段は1万7600円。一生ものと思えば値段以上かな。

もうひとつは萩焼。シンプルで飽きが来ないので、出会った16歳の頃から好きなのです。割れやすいけどね。友人の紹介で知り合った萩の陶芸家、野坂和左さんを尋ねてに萩まで出かけたのがもう10年前。たまに炊くごはんも、この器でいただくとおいしくなるから不思議です。陶器は欠けたり割れたりするので一生ものとはならないのですが、大事に使うと色合いが少しずつ変わっていくのが楽しく、それが萩焼の魅力のひとつであります。お値段は5500円。

エッグタイルバスマット「UFUFU」

和歌山県が主催する食や工芸品の展示会で偶然見つけた超優れものであります。

シャワーやお風呂には毎日入りますよね。そこで必要なのはバスマット。それまでは無意識に「なんかそれらしきもの」を敷いてトントンと足の裏を拭いていたわけですね。

足の裏に感じるざらっとした触感も心地よく、ペタペタと踏むと水気をすっと吸い取ってくれます

ところが、卵の殻を美濃焼に変えて、和歌山県の木材と重ねてできたこのバスマットに出会ってしまいました。ちなみに卵の殻はキューピーマヨネーズから提供されているみたいです。ざらっとした、なんとも心地よい足裏への刺激を感じているうちに、みるみると吸水されていくんですね。いや、びっくり。水気の放湿性も高く、メンテナンスもほぼフリーで、使わないときは立てかけておくだけ。エコなデザインもいい感じで、アート感もたっぷり。お値段は1万2100円。製造は株式会社山長商店さん。ぜひチェックしてみてください。

和紙のテーブルクロス

和紙を敷くと普段のダイニングの雰囲気ががらっと変わります

和紙というと、ハガキとか便箋を想像するかと思います。奥出雲・雲南市に工房を構える斐伊川和紙(ひいかわわし)7代目の井谷伸次さんは、そういった実用品に加え、タペストリーや壁掛けアートまで手がけています。その中でも特にお気に入りが、和紙のテーブルクロス。「醤油や油、ワインをこぼしたときに拭けないでしょう」と言われますが、それも含めていい感じに変化するんです。

水ものをこぼしたときは、もちろんさっと拭きますがその後は放っておきます。和紙自体は乾けばいつもどおり。使い込んでいけばいくほど、いい感じの模様になって味が出てくるから不思議です。洗う必要がなく、時折干すだけ。普段のテーブルが「和」の世界になり、「ぼっちごはんタイム」をやさしく包み込んでくれます。お値段は1枚5500円から。

ジョージ・ナカシマ作のアームチェア

最後にご紹介するのは椅子です。買ってしまいましたよ、初めてのオーダーメイドの椅子。家電製品も含め、ほぼすべてを「いただきもの」でまかなってきたこれまでの生活とは違い、ここでようやく本物が来てくれました。

微妙な曲線美と頑丈さ、そして機能性。すべてが自然の産物で、まさにオーガニック

木でできているのにすっと身体を包み込む。世の中にこんな椅子があったのか! と思いましたね。値段を聞いてびっくりでしたが、何世代にもわたって使えるな、と考え、思い切って買い求めました。

銀座にあるショップ・桜ギャラリーで品定めをして、その後高松の工房を訪れ、アームに使う木材を選び製作してもらいました。待つこと3カ月。やってきたのがこの椅子です。

ジョージ・ナカシマは米国籍の日系二世。建築家を経て家具作りをはじめ、その作品は世界中で高い評価を得ています。著名な芸能人のインスタグラムにも写りこんでいることが多いらしいです。1990年の没後も、米国ニューホープの工房と高松の桜製作所の2カ所で作り続けられています。

堅いアメリカンオークウッドでできた椅子はすっぽりと身体を包み込み、まるで森の中にいる感覚。この椅子に座ってコーヒーを飲んでいると、時間が止まります。お値段は送料込みで約33万円。

特に豊かな暮らしや丁寧な生活を送りたいと考えたことはないのですが、ひとり暮らしでも、ちょっとした満足感があると楽しいですよね。これという「モノ」を、何かひとつでも味方につけたいものです。

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嶋啓祐 (しま・けいすけ)

地方創生という大きなテーマの中にある「食」をテーマにした「地域起こし」に従事。北海道生まれではあるが、島根県に異常に詳しい。ミョウガやネギ、クレソンといった癖のある野菜を好む。古事記に出てくる舞台をすべて巡り、10年前から御朱印を収集。コンビニの便利さが嫌いで、近寄らない。蒲田に引っ越し、酒場巡りの毎日を過ごす。

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