会社勤めしながら映画監督、兼業の相乗効果は 穐山茉由さんに聞く(後編)

(撮影・齋藤大輔)
(撮影・齋藤大輔)

30歳を過ぎてから婚約解消を機に、会社員の傍ら映画の専門学校に通い、映画監督としてデビューした穐山茉由(あきやま・まゆ)さん。創作とは孤独と向き合う作業という穐山さんに、映画監督の仕事と会社員として働くことの違いや「ひとりであること」について聞きました。

【インタビュー前編】婚約破棄、30過ぎて映画監督に 『月極オトコトモダチ』穐山茉由さん

映画をきちんと撮れるのは

――映画制作と会社員生活との両立は大変ではなかったですか?

穐山:仕事以外の時間はすべて映画にあてていました。脚本も家だと書けないのでファミレスで夜通し書いたりしていましたね。意外とできるものです。時間があればあったで、別のことに使ってしまったりするので。

――会社員の仕事は映画監督の仕事に役立っていますか?

穐山:仕事をしていると理想と現実のギャップに悩まされますよね。「本当は~したかったのに、~になってしまった」という、板挟み感というか。でも、それが常にあるのがこの世界なので、そういう気持ちを肯定して描いていきたいと思っています。それから会社員として働いている人の気持ちが実感としてわかるというのもありますね。

――では逆に、映画監督の仕事は会社の仕事に役に立っていますか?

(撮影・齋藤大輔)

穐山:会社員として働くことにも、ファッションブランドのPRとして働くことにも役に立っていますね。

与えられた役割を果たさなくてはならないことは、会社でも映画でも同じです。また、映画監督の仕事は、ファッションブランドのクリエイターに対するリスペクトにもつながりますし、クリエイターの目線でブランドをみることもできます。

――組織人として行動することと、監督業をすることに違いはありますか?

穐山:あるようでないと思っています。

かつては私も、作り上げたい世界を作るために、すべてを犠牲にするタイプに憧れやコンプレックスがありました。自分はとてもそうはなれないな、と。ところが、映画美学校では「きちんと映画を撮れる人は、会社に入って部下を持つことができる人だ」と言われたことがありました。

特に映画監督は、人に協力してもらわないと何もできませんし、ひとりよがりではメッセージが伝わりません。自分にはずっと「美大コンプレックス」ならぬ「芸術家コンプレックス」があって、普通であることを捨てなければと思ってきましたが、それが戻ってきた感じです。人生に無駄なことは何もないと。おつりが来ましたね。

創作は「ひとり」の作業

(撮影・齋藤大輔)

――創作は孤独な作業ですか?

穐山:他人はもちろん、自分の感情からも自分を突き放して距離を取らないと創作はできないと思っています。物を創るのに「ひとり」であることは必要です。特に映画監督は孤独だと感じています。

――すべてひとりで決めなくてならないですものね。

穐山:そうです。でも、一方で孤独感を味わってこそ、人の気持ちがわかるのではないかとも感じています。

「これは自分にしかわからない」「この気持ちには誰にもわかってもらえないのでは」と思っても、それは他の人もそう考えている。だったら、その人のことをそういう気持ちで理解してあげられるのではないかと。

――ひとりは好きですか?

穐山:好きです。ひとりであることから始めたいと思っています。 ひとりである人がひとりを尊重して同じ作品に集まっていく。そんな仲間や関係がいいですね。

みんな基本的には「ひとり」で、ひとりであると気がつくことからすべてが始まると思っています。ひとりであることを自覚するのは他人の尊重にもつながりますよね。

――そうですね。

穐山:でも、ひとりを怖がり過ぎると、ひとりにのみこまれてしまう気もして。ひとり暮らしで夜中にふと「70、80になった時に孤独死するのかな」と考えたりとか。

なので、ひとりにのみ込まれそうになったときに、自分の中にその想いをしまい込まずに、対面でもSNSでも、自分の言葉で伝えたり発信する先があるということ自体で、孤独ではなくなるのではないかと思っています。

――会社員でありながら「ひとり」で何かしたい人はたくさんいると思うのですが、副業やパラレルキャリアに向いているタイプはどんな人だと思いますか?

穐山:やりたいことのある人だと思います。面白いからやるという姿勢がないと、両立は大変なので続かないです。お金を目的にすると破綻してしまうのではないでしょうか。それから、興味の範囲の広い人も向いていると思います。

片方の仕事にもう片方の仕事の影響が出るというように、お互いに影響し合うものなので、広い気持ちを持つことが必要かもしれません。

ひとりになって飛び込むことから

(撮影・齋藤大輔)

――新しいことを始めたいと思っている人にとって、大事なことは何ですか?

穐山:行動する時はあまり深く考えずに飛び込んでみることですよね。 自分も30代で映画業界に入ってデビューは遅い方ですが、やってみて感じたのは、何かを始めるのに遅いということはないということです。

新しいことを始めるときは、足を引っ張る言葉を気にせず飛び込んでみるのがよいのではないでしょうか。ひとりになって、自分の気持ちに向き合って決めることが大切というか。

――ひとりになって飛び込んでみて、今、お気持ちはいかがですか?

穐山:「他人に言われたからやる」というのは、自分以外に責任を転嫁できてラクですよね。「人に反対されているけれどやる」という方がしんどい。

でも、後から「やればよかったのに」と言われたときに、止めたのは自分のジャッジだったと気づかされるよりは、今自分が選んだことに責任を持ちたいです。

――すがすがしいですね。

穐山:そのことは映画監督も同じで、監督は現場の総責任者として常にジャッジを求められます。細かい技術のことはプロがやってくれますが、その善し悪しは自分で判断しなくてはなりません。

人生において、選ばなくてはならないということを突きつけられるのは多くはないのかもしれませんが、選ぶことのできる可能性をふさがずに、その可能性を選んで生きていきたいですね。

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