仮装でラグビー観戦するサポーター「タックルのボコッて音が聞こえる」

ラグビーのサポーターを20年以上続ける奥山禎晴さん(撮影:齋藤大輔)
ラグビーのサポーターを20年以上続ける奥山禎晴さん(撮影:齋藤大輔)

日本代表が初めてベスト8入りし、大盛り上がりを見せた2019年のラグビーワールドカップ。試合中、派手に仮装したサポーターたちがテレビカメラに抜かれることもしばしばでした。

奥山禎晴さん(55)もそのひとり。ド派手な格好で応援を続ける彼は日本代表が弱かった頃からたったひとりで海外へ飛んで応援を続けてきました。

応援のベテランである奥山さんにひとり観戦の面白さ、ラグビーという競技の面白さ、そして仮装する理由について聞きました。

「W杯前、トップリーグはガラガラでしたからね。この盛り上がり、以前なら考えられないですよ。にわかファン大歓迎です」

イングランドでのW杯開催時(2015年)、ラグビー学校の校門パネルに使われていた奥山さん(本人提供)
イングランドでのW杯開催時(2015年)、ラグビー学校の校門パネルに使われていた奥山さん(本人提供)

感慨深そうに話す奥山さん、彼は今回全48試合のうち22試合を観戦するのだといいます。

「すべてカテゴリーAの席なのでチケット代のトータルで100万円以上。そのうち10試合がひとり観戦です。団体職員をしていたのですがW杯の前に早期退職しました」

筋金入りのサポーターである奥山さん。なぜ、そして、いつごろからこんなド派手な格好で観戦しているのでしょうか。まずはラグビーとの出会いから聞いてみました。

自身もラグビー経験者「鼻は2回折っています」

「中3のとき、学校の必修クラブで初めてラグビーをやったんです。ラグビーは他の球技と違ってボールを持っている人に接触しても問題ないし、タックルしてもいい。こんな面白いスポーツはないなと思って」

面白さに目覚めた奥山さんはその後、社会人になってからも週末にクラブチームでラグビーを続けたといいます。

「ポジションはほぼバックスで、45歳までプレイし続けました。メンバーがいないときは、フォワードでスクラムを組んだり、ラインアウトでリフティングされてボールをキャッチしたりしました。ケガをすることもあって、鼻は2回折っています」

奥山禎晴さん(撮影:齋藤大輔)
(撮影:齋藤大輔)

実際お会いした奥山さんは胸板が厚く、実に堂々とした体躯の持ち主。ラグビー経験者という話を聞き、それもそのはずだと筆者は膝を打ったのでした。

他の観客に耳もとで「帰れ」と言われたことも

「ラグビーは私にとって初めのうちは自分でやるもので、観戦するものではありませんでした。大学や社会人、日本代表の試合を見に行ったことはあったんですが、野球やサッカーほどは見ていませんでした」

ではラグビー観戦にのめり込むきっかけはなんだったのでしょうか。

「1997年に、友人たちに誘われて香港セブンズの(7人制)ラグビー観戦に行ったんです。会場に行ったところ、場内で無料でフェイスペイントしてくれるブースをみつけまして。『何を描きたいか』と聞かれたので、せっかくなので顔に日の丸を描いてもらいました」

仮装する奥山禎晴さん(撮影:齋藤大輔)
(撮影:齋藤大輔)

そのとき奥山さんは顔に日の丸こそ入っていましたが、ユニフォーム姿ではない単なる私服の一ファン。しかし当時はそうしたフェイスペイントをした日本人だというだけで目立ったのだといいます。

「日本代表が好プレーをするたびに私の顔がモニターに出るんです。すると観戦している私とか友だちも盛り上がっちゃって」

注目されることに快感を覚えた奥山さん、それ以後、仮装して応援するようになったそうです。

「15人制で仮装し始めたのは、2003年のオーストラリア大会からです。そのときは帽子じゃなくて自分の頭の髪の毛を10数時間かけてW杯のマークに染めて応援しました。するとモニターに抜かれるのはもちろん、現地のネットやテレビとかで紹介されたりもしたんですよ」

客席に声をかける奥山さん(本人提供)
客席に声をかける奥山さん(本人提供)

さらに感激した奥山さんはそれ以後、15人制でも国内で仮装して応援するようになっていきます。

「今は飲みにケーションが中心なんですが、当時は『ウェーブ起こしましょう』って観客席に声をかけながらバックスタンドを走ったり、『声を出して応援しましょう』って声をかけたりして、盛り上げようとしていました」

しかし風当たりは厳しかったそうです。

「ほかに仮装して応援する人が誰もいなかったんです。だから『もっと真面目に応援しろ』ってヤジを飛ばされたり、耳元まで寄って来て『帰れ』って言われたりすることがしばしばありましたね」

それでも奥山さんは孤軍奮闘します。

すると同じ思いを持つ仲間達が集まってきて一緒に応援するようになりました。

「私が盛り上げることで、観客たちが盛り上がっていくことが何よりうれしかった。もちろん勝ってくれという思いを選手たちに届けたかったですし」

仮装してポーズをきめる奥山禎晴さん(撮影:齋藤大輔)
(撮影:齋藤大輔)

迫力と臨場感を求めて

W杯にトップリーグ、そして各国代表とのテストマッチ。ラグビーの試合を毎年、何試合ぐらい観戦しているのでしょうか。

「関東での試合を中心に例年だいたい30試合です。野球に比べたら全然少ないでしょ。だけど今年は特別です。W杯が自国で開催されるんですから」

なぜそこまでラグビー観戦にのめり込むのでしょうか。ラグビー観戦の魅力とは何なのでしょうか。

「端的にいえば臨場感と音ですね。テレビでは絶対に聞こえない音が聞こえるんです。テレビは今マイクも性能がすごく良くなってますけど実際に人があたる音っていうのは例えばタックルしたときとかすごくいい音がするんですよ。低いボコっていう音と高いパチンという音とひっぱたくような音ですね。前のほうの席だとそういう音が聞こえてくるんです」

至近距離での観戦だとそんな音が聞こえるのだそうです。彼が一番高い席でばかり観戦するのは、そうした迫力と臨場感を求めているからです

ひとり観戦の魅力とは

なぜ、ひとりで観戦するのでしょうか。

「あえてひとりというのではなくて、単純に一緒に行く友達がいないからです(笑)。今回のW杯でいえば、22戦中10戦がひとりなんですが、それも同様の理由です。日本戦の開幕戦とか決勝トーナメントといった人気カードは他に来る人が見つかりますが、地方の試合とか(序列が)ティア2同士の試合は難しい。それに私の場合、移動は深夜バスがほとんどですから」

複数ととひとりとでは、観戦時の楽しみ方の違いはあったりするのでしょうか。

「連れ立って見るときは、試合前とか試合中に、注目選手のことや試合展開について話しますし、試合後は飲みながら反省会のようなものを開いたりします。その後で家やホテルへ帰ります」

仲間同士でラグビーを肴に語り合う――という楽しみ方があるらしい。

ラグビー日本代表のユニフォームを着た奥山禎晴さん(撮影:齋藤大輔)
(撮影:齋藤大輔)

次にひとり観戦はどうなのでしょうか。

「席の位置を確認した後、会場内を歩き回りますね。知り合いがいるか探したり、声をかけられて記念撮影したり。特に外国人のファンからよく声をかけられますよ。『一緒に撮ってくれ』って。あと隣の席の人に声をかけたりもしますね。『試合はけっこう見に来られるんですか』とか。今回、気がついたのは初めてラグビーの試合を見に来るという人とか若い人が多かったということです」

知らない人との間で国籍や言語を超えた交流を奥山さんは楽しんでいるのだ。ではW杯などでの海外でのひとり観戦はどうでしょうか。

「航空券やホテルを自分でネット予約してひとりで向かいます。格好が格好なので会場ではもちろん声をかけられます。そのたびに交流します。

チケットを持っていない日はスポーツバーで飲みにケーションです。私は英語をあまり喋れないんですけど、ラグビーという共通項があるので、交流できちゃいますね。そうやってバーに行ってファン同士、心を通じ合わせるっていうのもひとつの醍醐味です。私みたいに派手な格好をしてなくても日本代表のユニフォームを着ていれば、ラグビーファン同士、間違いなく盛り上がりますよ」

今大会の会場で海外のサポーターと交流する奥山さん(本人提供)
今大会の会場で海外のサポーターと交流する奥山さん(本人提供)

ラグビー観戦を通じての楽しみは、試合の迫力や臨場感の他に、やはりファン同士での交流。これに尽きるようだ。最後に今後のことを聞いてみた。

「2023年のフランス大会はもちろん行くつもりです。膝を人工関節にしてでも飛行機に乗ってW杯に行き続けている年配愛好家がいるんですが、私もその方を見習って、年をとっても行けるうちは行き続けたいです。近いところでは1月にトップリーグが開幕しますので、皆さんぜひ来てください。私はこの格好で応援していますので、見つけたら声をかけてください。みんなで日本のラグビー界を盛り上げていきましょう!!」

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西牟田靖 (にしむた・やすし)

ライター。日本の旧植民地に残る日本の足あと、領土問題や引揚など硬派なテーマに取り組んでいるうちに書斎が本で埋まる。最新刊は『子どもを連れて、逃げました』(晶文社)。そのほかの作品に『僕の見た大日本帝国』『誰も国境を知らない』『本で床は抜けるのか』『わが子に会えない』『極限メシ』『中国の「爆速」成長を歩く』など多数。

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