ぬいぐるみと一緒に103カ国を旅した好奇心強め女子に聞くひとり旅の方法

ぬいぐるみと一緒に103カ国を旅した好奇心強め女子に聞くひとり旅の方法

「このぬいぐるみには愛犬マーチの魂が入っているんです」――奥田美樹さん(自営業)は言う。収入のすべてを旅行に注いでいるという奥田さん。彼女はなぜそんなに旅にはまったのか。ひとりで行く旅の方法とは。

ひとり旅だといつでも臨機応変

――奥田さんはたくさんの国に出かけているようですけど、2020年に入ってどこか出かけましたか。 ※取材したのは2020年2月下旬

奥田:行ったのは中国の成都経由で、ネパール、仙台、韓国です。

――さっそくあちこち行ってるんですね。では、昨年はどこに。

奥田:バンコク、山形、シンガポール、韓国、名古屋、沖縄(本島、石垣島、宮古島)、利島、ハワイ、LA、トルクメニスタン、北海道、クアラ・ルンプール(2回)、青森、高知、サウジアラビア、バーレーン、クウェート、中国(広州)です。残念だったのが、10月に足を骨折して、鳥取とイタリアと大阪、韓国行きをキャンセルしたこと。

マーチのぬいぐるみと奥田美樹さん

――1回で数カ国行くことを考慮したとしても、ほぼ月2ペース。ただただすごいです。

奥田:自営業なので旅行しやすいんです。まあ週末の弾丸旅行になっちゃいますけどね。サイトをチェックして、いつも底値を把握するようにしています。すると、ウラジオストク往復5000円とかいう激安チケットがときどき見つかるんです。そうした格安チケットを主に利用しているので、1年分の総額はサラリーマンがお盆とかGWに行く海外家族旅行2回分ほどですよ。収入のほとんどは旅行に使ってますけどね。

――それはひとり旅ばかり?

奥田:たいていはそうです。旅の数が多いので一緒に行ってくれる人を探すのが大変なんです。

――奥田さんの旅のスタイルってどんな感じなんですか。目的は?

奥田:見たことのない景色を見たい、行ったことのない場所へ行きたい、行ったことのある国の数を増やしたいというものです。世界遺産などの定番観光地も行きますが、私なりの萌えポイントがあって。たとえば遺跡の脇に咲いている花とかって現地に行かないと見られないじゃないですか。そこに行かなければ会えない人との交流も楽しみです。

――現地に行かないと見えないものですか。わかります。では次に、ひとり旅だからこその良さってありますか。

奥田:友達とか家族とかと一緒に出かけようとしたら、行き帰りにしろ現地にしろ、予定とか行動を合わせなきゃいけないでしょ。連れ立って旅行していたら、無理に合わせて動いちゃうと思うんです。でも部屋で寝ていたいときもあるわけで。ひとりだと、そのときの思いつきで、臨機応変に予定を変えられるでしょ。

パスポートに押されたスタンプ

――逆に、ひとりで困ったことってありますか。

奥田:ポルトガルでカタコンベ(地下の墓所)に行ったとき、骸骨だらけで恐い思いをしたとか。あとは何と言っても食事ですね。たくさんの種類の料理を食べられないんです。あと、なんでこの人ひとりなんだろうって怪訝な様子で扱われたりとかね。

「自然と涙が流れていました」

――ひとり旅にはまるきっかけは何ですか。

奥田:中学生のときに家族で出かけたバリ島です。もう30年以上前のことです。当時は観光地化されていなくて、到着すると街灯がなくてかなり暗くて。「なんでお父さん、こんなヘンなところに連れてくるの?」と到着した日はプンプンしてました。でも朝、ひとりで部屋を抜け出して、外に出ると世界が変わっていて。

――どういうことですか。

奥田:青々とした熱帯のジャングルが広がっていて。まさに原色の世界。ただただ「きれい」って思うだけ。自然と涙が流れていました。それが私の旅の原点です。

――そこからひとり旅に。

奥田:学生のころは女子同士で連れ立って行ってたんですが、安いチケットを求めて旅をするようになっていったら、どんどん回数が増えちゃって。気がつけば、ひとり旅ばかりするようになりました。もうこういった旅行は10年以上やっていますね。これまでに103カ国※に行きました。※日本が承認している国家

奥田美樹さんの写真

10時間泣きっぱなしのフライト

――襲われたりとか、そういった危険な目にあったことは。

奥田:私、用心深いタチなんです。夜中に到着する便は避けるし、危ないところは行かない。それに敵を作らないように笑顔を絶やさないようにしていますし。だから、これといったひどい目に遭っていないんです。インドでお腹を壊したとか、カンボジアで男の子に急に両胸をわしづかみにされたことぐらい。

――ものをなくしたり、盗られたりしたことはないんですか。

奥田:かつて飼っていた愛犬マーチにそっくりなぬいぐるみ。それを旅のお供にしていたんですが、あるとき機内でなくしちゃったんです。あのときは悲しかった……。

愛犬マーチのぬいぐるみ

――詳しく聞かせて下さい。

奥田:3席空いていたのでマーチと一緒に横になって寝たんです。飛行機を降りるとき、バッグにしまわないまま機外へ出てしまったことに、降りてすぐ気がついて「機内を確かめさせて」って懇願して機内に戻ろうとしたんですけど、帰国便の出発までに1時間もなかったためか「機内を調べておくからとにかく乗って下さい」といわれて断られ、日本に着くまで10時間ずっと泣いていました。

――ペットロスから立ち直るためのぬいぐるみなのに。二重のペットロスですね。

奥田:もともと2体買っていて1体は留守番用だったので、残った1体と旅をするようにしました。愛犬マーチの魂はその留守番用だった子に乗り移ったんだって思ってね。機内に残した子は現地の子どもにもらわれて可愛がられているはず。

――きっとそうですよ。マーチをつれて地球を股に掛けた壮大な散歩ですね。まさに。

奥田:そうかもしれません。いい景色があったら見せてあげたりしますし。人が見てないところだったら、「きれいだねー」とか話しかけて、感動を分かち合ってますよ。

サウジ女ひとり旅で感動したこと

――なるほどねー。それで、今までの旅でもっとも感動したことって何ですか。

奥田:最近の話なんですけど、2019年の12月に出かけたサウジアラビアです。

――サウジで何が感動的だったんですか。

奥田:道を横断したときのことが忘れられません。秋に足を骨折したので、その旅では杖をついてゆっくり歩いて移動しました。サウジは車社会で、車道は片側で5車線あったりするんです。そのわりに横断歩道がないので、タイミングを見計らって渡るしかない。

杖をついて渡ろうとしたとき、渡りきれなくて焦ってたら、片側5車線のすべての車がすべて、私の前で停まってくれたんです。申し訳なくてドライバーさんたちひとりひとりにペコペコお辞儀して横断しましたよ。

サウジからクエートへ移動するため、飛行機に搭乗しようとしたときも感動しました。タラップを自力でのぼろうとしたら、車椅子専用のリフトが私のために用意されてたんです。

奥田美樹さんと愛犬マーチのぬいぐるみ

――親切でおもてなし好きということ以外に、お金持ちの国だけに人びとの気持ちに余裕があるのかもしれませんね。

奥田:その旅行ではドバイやクウェートにも行ったんですが、ドバイだったかな。満員だった電車の車内で吊革につかまってたら、隣同士の女性たち全員が私が倒れないように両側で支えてくれたり、席を譲ってくれたりしました。骨折した後、松葉杖をついて電車に乗ったことがあるんですが、全然席を譲って貰えなかった。そんな経験をしてたので、余計に嬉しかった。

――いろいろな旅をしてきたわけですが、旅で得たものってなんですか。

奥田:ひとり旅って困ったことが起こっても、頼れるのは自分自身だけじゃないですか。そんな旅を繰り返しているうちに、自分ひとりで何ができるかを考えられるようになりました。あとは外に出て外国を見ることで、日本の良さを知ったことでしょうか。

――今後はどんな旅をしていきたいですか。

奥田:最近は安いチケットが手に入るところばかり出かけていたんですが、原点に戻りたいです。行ったことのない場所へ行きたいし、行ったことのない国に行きたいです。もちろんマーチと一緒に。

(旅先の写真の提供:奥田美樹)

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西牟田靖 (にしむた・やすし)

ライター。日本の旧植民地に残る日本の足あと、領土問題や引揚など硬派なテーマに取り組んでいるうちに書斎が本で埋まる。最新刊は『子どもを連れて、逃げました』(晶文社)。そのほかの作品に『僕の見た大日本帝国』『誰も国境を知らない』『本で床は抜けるのか』『わが子に会えない』『極限メシ』『中国の「爆速」成長を歩く』など多数。

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