ディナーのメニューがない「ペルー料理専門店」 好みと予算で「自分だけの料理」をオーダーできる!

ペルー料理「荒井商店」のオーナーシェフ荒井さん

しばらく海外には行けそうにない。それならばと、日本で「世界の料理を食べ尽くす」ことを新たな目標にしている今日この頃の私。DANROの連載では、ひとりでも入りやすい多国籍料理モロッコ料理の名店を紹介してきましたが、今回は「ペルー料理」です。

おじゃましたのは、東京・新橋の「荒井商店」。店名に商店とつきますが、小売の商店ではなく、ペルー料理の専門店。ミシュランガイド東京で、ビブグルマンを獲得している実力店です。

オーナーシェフの荒井隆広さん(46歳)は、ペルー各地で料理の修行をして、孤児院で給食を作っていた経験もある調理人。2冊の料理本を著す、日本におけるペルー料理のパイオニア的存在です。

地域によって全く違うペルー料理に魅せられ

新橋駅烏森口から徒歩10分、賑やかな飲食店街を抜けた場所にあるレストラン。座席数は18、外から見てちょっと気になる、小さくてかわいいお店です。

オーナーシェフの荒井さんは28歳のとき、単身ペルーへ。シェフとしての独立を視野に入れて現地で修行したいと、渡航を決意しました。

ペルーに移住して感じたのは気候の多様さです。国土が南北に長いため、地域によって気候が異なり、さまざまな料理があることに気づいたといいます。

「ペルーには海も砂漠もある。アンデスの山岳地帯にジャングルもある。それぞれ文化も料理も全く違うんです。だからできる限りいろんな地域の料理を勉強したくて、いろんな地域のレストランで修行しました」

その中には、知人が経営する孤児院もありました。現地の食材を使い、地元の人が日常で食べる料理を作っていたのです。

「いわば給食のおじさんです。子供たちはダイレクトに反応するので面白かった。毎日食事について質問されるので、言葉もそこで覚えた。子供たちは僕のスペイン語の先生です」

これがペルーを代表する料理。手前から時計回りで、ロモ・サルタド、セビーチェ、タクタク・デ・マリスコス

ペルーは、さまざまな野菜や植物の原種の宝庫でもあります。

アンデス山脈発祥の野菜は、とうもろこしやトマト、ジャガイモ、唐辛子と多く、市場では新鮮な野菜が山積みになっています。ペルーには、食材にこだわりを持つグルメな人も多く「南米一のグルメ大国」と呼ばれることも。

「野菜の原種がある。肉をよく食べ、海産物もある。そして米料理も多い。それでいて、日本ともフランスとも調理法が違うペルー料理に魅力を感じました」

日本ではフランス料理やハワイ料理の調理人として働いていた荒井さん。ペルー各地をまわり、合計6カ所のレストランで修行したのち、新橋で念願のペルー料理専門店をオープンしました。

来店者が注文した料理をノートに記録

来店したお客さんの料理を記録した分厚いノート

荒井商店の大きな特徴は、ディナーのメニューがないことです。客の好みや予算を聞いて、オリジナルの料理を作るコース料理のみ。だから、隣の席の人とは全く異なる料理が提供されます。

ペルー料理を知らない人には、ちょっと難しいのでは? そんな疑問をぶつけてみると、

「料理名を言わなくても、好きなものや嫌いなものをお聞きして、好みに合うように作っています。一応、初めての方向けに一般的なメニューもあるのですが、それはおすすめではありません(笑)。食べたいもの、好みは人それぞれなので。海老で全部作ってとか、いろんなオーダーがありますよ」

そんなにひとつひとつ注文に応えていたら大変なのでは、と聞いてみると

「できる限り、お客さんの希望にお応えしたいんです。ペルー料理は実に豊かだから、いろいろな組み合わせができます。確かに手間はかかりますけど、自分も成長できますし。疲れたら、週末飲んだくれればいいんで、全然大丈夫!」

客の要望に応えたいというのは確かなようで、荒井さんは予約した来店者が何を食べたのか、すべてノートに記録しています。前回の料理とダブらないように、または「あの時と同じものを」といった客の要望に対応するためなのだとか。これはスゴイ! なんだか安心できます。

ひとりで利用しても楽しめる3つのポイント

こじんまりとしたかわいい店内。ひとりで利用なら、シェフの目の前の席へ

ひとりで訪れても楽しい店です。オーダーは5250円から。あらかじめ予約をしておくのがベターです。

ひとりでも楽める理由は3つ。1つ目のポイントは「席」です。初めての来店でひとりのお客さんは、できる限りシェフからいちばん近い席に案内していると言います。これは、お皿の進み具合などを確認したり、調理の合間に会話ができるようにするためです。

「レシピ本を出しているせいか、おひとりで来店して、料理のポイントなどを聞かれるお客様も多いですよ」

と語るのは荒井さんの奥様の恵美さん。

この恵美さんが実に明るくて、会話がとっても楽しいんです。これが2つ目のポイント。荒井さんのペルー修行の後半は、恵美さんも同行。ペルーに半年住んだ経験もあるため、ペルー好きやペルーに興味のある人と、ペルーの話でおしゃべりすることよくあるのだとか。

もしひとりで訪れて、会話も少し楽しみたいという人なら、きっと恵美さんが笑顔で応えてくれます。

奥様の恵美さん。笑いだすと止まらない明るい性格に癒される人続出

3つ目のポイントとして、「会話をするよりは静かに過ごしたい」という人が手持ち無沙汰にならないように、本棚に書籍がたくさん用意されています。

ペルーのガイドやペルー料理のレシピ本など珍しい本もあって、待ち時間も楽しく過ごせます。

ペルー料理ってどんなもの?

日本では、専門料理店がまだ少ないペルー料理。インカ帝国時代とスペインの植民地時代を経て今に至りますが、日本や中国からの移民も多く、独自の食文化を形成しています。

お米を使った料理が多いのが特徴で、海や山の新鮮な食材を使い、素材の味を重視。スパイスはどちらかというと控えめで、日本人の口によく合うメニューが多いのだとか。

荒井商店で人気の高い料理を紹介しましょう。

ペルーの代表料理「ロモ・サルタド」、牛ヒレ肉と、玉ねぎやトマト、フライドポテトを合わせたボリュームある一品

こちらは「ロモ・サルタド」。牛肉と野菜の炒め物で、少しとろみのあるペルー産の醤油をベースに、赤ワインビネガーで味付けしています。ペルーの醤油は味が濃く、ほんのりと甘味もあって、九州の醤油に近い味。味は濃く、ほんのりと甘味もあって、付け合わせのご飯とよく合います。

ペルーを代表する料理だけあって、コースの中に「ロモ・サルタド」をオーダーする人も多いという一番人気の料理です。

ペルーの米料理のひとつ「タクタク・デ・マリスコス」と「白身魚のセビーチェ」

こちらは、ペルーのお好み焼きと呼ばれる「タクタク・デ・マリスコス」。カナリオ豆にご飯を入れて焼き、魚介や肉のソースを絡めていただきます。今日はタコのマリネが添えられています。

19世紀に日本人が作った料理と言われていますが、日本のお好み焼きとは全く違うので、びっくり。酸味とカリカリっと焼いたごはんがよく合います。

海老の濃厚スープが旨すぎる、「チュペ・デ・カマロネス」

今回、私は荒井さんに「濃厚な海老を使った料理」をリクエストしました。そこで勧めてくれたのは、「チュペ・デ・カマロネス」という海老のスープです。

これは、ペルー第2の都市・アキレパ発祥の前菜。通常は川海老を使い、トマトやとうもろこしが入った濃厚なスープです。いい匂いがしてきた。これは美味しそう!

真剣な眼差しで火加減を見極める荒井さん

調理時間はわずか数分、あっという間に出来上がった熱々の海老のスープ。ペルーでは前菜料理と言うけれど、メイン料理として十分ではないかと思えるくらいのボリュームです。

一人前でこの量の「チュペ・デ・カマロネス」

運ばれてきたスープは予想を超える大きさで、まずはびっくり。食べてみると、濃厚な海老の風味にまたびっくり。海老は数えてみるとなんと6尾も入っています。これは旨い! スープはとろみがあるので、もしかして海老のペーストを使っているのではと思って、荒井さんに聞いてみると、

「海老のコクと風味を感じてもらえるように、生の海老を6尾入れています。これくらい入れないと、海老の風味が感じられないので、うちではふんだんに使っています。ペルーでは前菜の料理ですが、これひとつでかなりお腹いっぱいになると思います」

荒井商店のコース料理は、前菜、メイン、サラダとデザート。食材によって品数が変わりますが、4〜5品の料理が楽しめます。

予約した客の注文は、荒井さんが記録しているので、前に食べた料理を忘れても大丈夫。2回目の来店でも、「前と同じものを」なんて言えちゃうお店なんです。自分へご褒美をあげたいときに利用したい、ペルー料理の美味しさを存分に味わえる名店です。

荒井商店

東京都港区新橋5-32-4 江成ビル1階

03-3432-0368

11:30~14:30(L.O.) ※ランチ、お弁当はなくなり次第終了

18:00~22:00(L.O.)23:00閉店

※コース料理、お持ち帰り料理共に要予約

日曜定休

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矢巻美穂 (やまき・みほ)

国内外の旅行雑誌を中心に活動するカメラマンで、撮影から執筆・編集作業まで行う。単著としてネパール、台湾、ウズベキスタン、韓国などのフォトガイドブックを執筆。近著は『はじめて旅するウラジオストク』(辰巳出版)。また、YouTubeで「旅ちゃんねる MinMin Tour」をオープン。これまで取材に行って、本当に美味しかった店や行ってよかった人気スポットを紹介。

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