小さな箱にかわいいデザイン、300個以上あつめた「広告マッチ」の世界(マッチを集める 1)

私は、マッチを集めている。正確に言えば、コレクションしているのはマッチそのものではなく、容れ物である「マッチ箱」だ。
マッチ箱は、小さい面の中にデザインの工夫があって、かわいい。それが魅力の一つだ。集め始めたのは、高校生の頃からなので、もう25年くらい集めていることになる。今、持っている個数は、自分でもよくわからない。
300個まで数えていたが、それ以上は数えていない。逆に言えば、300個以上のマッチが我が家にあるということだ。
こんなマッチを集めています
冒頭の写真は、特に気に入ったマッチを入れている箱である。野球で言うと一軍だ(何かと戦うわけではないが)。
そんなエース級の選手の中から、一部をご紹介しよう。

こちらは、東京・六本木のインド料理店「MOTI」のマッチ(左上)と、東京・新宿のロシア料理店「スンガリー」のマッチ(右下)。
MOTIはナンがとてもおいしい。スンガリーは大学の先輩に教えてもらった。新宿西口店と新宿三丁目店があるが、このマッチは新宿三丁目店でゲットした。店の内装もとてもかわいくて、おすすめ。
マッチのデザインはロシア民芸風の絵。大きめのサイズで、白い普通のマッチ棒と、店の雰囲気にぴったりと言える。

これは、神戸・三宮にある「欧風料理 もん」のマッチ(左)と、神戸・岡本の喫茶店「カフェ・ド・ユニーク」のマッチ(右)。この2つが仲間に加わったのは最近だが、とても気に入っている。

裏側もかわいい。右側の「カフェ・ド・ユニーク」のほうは、棒人間がお辞儀をしている。まさにユニークである。

左上にあるのは、全国いろんなところにある「プリンスホテル」のマッチ。記憶がはっきりしないが、たぶん品川プリンスか、池袋のサンシャインシティプリンスでもらったものだと思う。
右上のマッチは、東京・御茶ノ水の「山の上ホテル」でランチしたときにゲットした。「牡蠣とほうれん草のグラタン」を食べたときにもらったと思う。
その下の東京・新宿のベルギービール専門店「Frigo」のマッチは、めずらしくマッチ棒の頭の部分が赤い。マッチ棒というと、頭は赤いもののイメージが強いと思うけれど、実際には白いものが多い。

こちらは「ブック型」のマッチ3選。
これまでに紹介した「箱入りマッチ」に対して、こういった形態のものを「ブック型」(ブックマッチ、紙マッチ)という。開くと中に厚紙でできたマッチが入っていて、そのマッチをちぎって使う。
上から、東京・吉祥寺の老舗ジャズ喫茶「ジョンヘンリーズスタディ」のマッチ、ドイツの馬のブリーダー協会「Hannoveraner Verband e.V.(ハノーバー協会)」のマッチ、東京・浅草の「ローヤル珈琲店」のマッチ。
「広告マッチ」とそれ以外のマッチ
マッチコレクターにも、いろいろな人がいる。私は、「広告マッチ」と呼ばれる、喫茶店やホテルなどに置いてあるPR用のマッチを主に集めているコレクターである。
広告マッチとは、何らかの広告宣伝の目的で作られ、無料で配布されるマッチのこと。私は基本的に「広告マッチ」でかつ「現行品」(現在、お店にあって実際に使われているもの)を集めている。

広告マッチ以外では、自分の収集テーマとして「作家物マッチ」も集めている。
作家物マッチとは、アーティストやデザイナー、イラストレーターが、そのマッチやマッチ箱を「作品」や「グッズ」として作って、売っているマッチである。

このようにマッチにはいろいろなタイプがあるのだが、私はかなり長い間、ひとりで、漠然と、なんとなくマッチを集めていただけだった。
自分が「広告マッチ」の「現行品」のコレクターなんだ、ということを意識したのは、デザインディレクターの柳本浩市さんと出会ったときだった。
スーパーコレクター柳本浩市さんとの出会い
柳本さんと初めて話をしたのは、2011年の東日本大震災の前後だったと思う。
柳本さんは、世界的にも著名なスーパーコレクターで、マッチだけでなく、「ミッフィー」で有名なデザイナー、ディック・ブルーナの作品や、洗剤や牛乳などの生活用品のパッケージなど、幅広くいろんなモノを集めていた。
単なるコレクターではない。「コレクションから見えてくるものを、社会の問題解決に役立てる」ということを仕事にしていた方である。
残念ながら、2016年3月に他界してしまった。
私は、柳本さんと実際にお会いしてお話したのは、2回くらいしかないのだが、2回ともマッチの話をしたので、よく覚えている。
柳本さんに初めて会ったとき、
「私もマッチを収集しているんです」
と伝えたら、
「オオスキさんが集めていらっしゃるマッチは、『げんこう』ですか?」
と聞かれた。
私はそのとき「げんこう」の意味がわからなかったので、
「げんこう、ってなんですか?」
と聞くと、
「今、現在流通しているもの、現行品ということです」
と言われ、ようやく「『現役のもの』のことを『現行』っていうんだ」と理解した。
「今、主に飲食店で使われているマッチを収集しています」
と伝えると、柳本さんは
「じゃあ、オオスキさんは、現行の飲食店マッチのコレクターなんですね」
と返してきた。
私はそのとき初めて、「それ以外のタイプのマッチコレクターがいる」ということを意識した。
実際、「マッチ集めが趣味」といっても、明治・大正時代のマッチラベルを集める人とか、チェコのマッチラベルを集めてる人とか、いろんなテーマを持って集めている人がいる。
私は漠然と、目の前にあるマッチを集めていただけだったのだ。
そこで「柳本さんは、どういったマッチを収集されているんですか?」と聞いてみた。
「すべてです。ホテルや飲食店に行ったら、目に見えるもので持ち帰れるものは、全部持ち帰っています」
と、柳本さんは答えた。
私は、マッチ箱の形をしたマッチラベルに関する本を持っている。実はそれも、柳本さんが出したものであるということを知った。


柳本さんは小さい頃からスーパーコレクターだったそうだ。そして、小学校1年生くらいのときに「このままじゃ『変なやつ』で終わっちゃう、この趣味を社会に活かしていかないと」と考えたらしい。
その小学校1年生からの模索の結果が、「コレクションから見えてくるものを、社会の問題解決に役立てる」という柳本さんのお仕事であるということだった。
私はそれを聞いて、「趣味をもとに、社会の問題解決ってできるんだ!?」と衝撃を受けた。
確かに柳本さんがよく言っていたように、何かをたくさん集めていると、見えてくる「何か」がある。でも私は、その「何か」をどう社会に結びつければいいのか、未だによくわからない。
柳本さんに出会って、「私も『趣味性を活かした社会貢献』がしたいなあ」と考えるようになった。未だに実現できていないし、どうすればいいのか、まだモヤモヤしているけど…
私には、マッチのコレクションが社会貢献につながるのかどうかはわからない。でも、ひとりで漠然とマッチを集めて、並べて、うふふ…かわいい…と思うだけでも楽しいのは確かだ。
今回、マッチ箱を引っ張り出して、机に並べて、iPhoneで写真を撮っただけで、楽しかった。むしろ、その「ひとりで楽しむ」精神、自己満足の気持ちを忘れてはいけないと思う。所詮は趣味なのだから。楽しくなければ趣味ではない。
◇
次回以降、そんな私のマッチコレクションと、それにまつわる話を紹介していきます。
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