桜の樹の下に貯水槽が埋まっている町「上福岡」を歩く(地味町ひとり散歩 12)

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#1

今回、ひとり散歩する地味町は「上福岡」。このところ、沖縄(9回・10回)、宮崎(11回)と来ていたので、「さては九州めぐりですか~」と思われたかもしれないですが、残念。ここは埼玉県です。

コロナ禍で地方出張が減ってしまい、出歩くとしても自宅の近くが多い最近。僕の地元・埼玉で、なんとなく九州に関連のありそうな町を選んでみました。

もともとはその名の通り、上福岡市という市だったのですが、2005年に隣の大井町と合併して、今はふじみ野市になっています。

ちなみに今「ふじみのし」で文字変換したら「不死身の死」と出ました。死なないのか死んでいるのかよくわからない、パラドックスみたいな名前の町ですね。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#2

上福岡に到着したのはお昼どき。まず腹ごしらえしていくか~と思ったら、駅前に680円均一という格安の食堂「とん沢」さんがあったので、まるで動くカーペットでもあるかのようにススーッと入店してしまいました。

店内はほとんど満席。僕よりちょっと上の世代で隠居生活をしている人の溜まり場といった感じで、昼間からおかずをツマミにして飲んでる方の多いこと。

どうやら昼飲みの聖地なのか、馴染み客らしいお客さんが次々に入ってきては「おぉ、〇〇さん、最近腰はどうかねぇ」などと会話をしながらビールやチューハイを飲んでいます。おそらく若い女性が入ってきたら、一杯奢ってもらえそうな雰囲気でした。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#3

店には長いカウンターがあって、そこにお客さんがひとり、またひとりと来ては、隣同士で話しながら盛り上がっていました。

その一方、僕の隣にひとりで座っていたオッサンは、皿の上のとんかつに向かってずっと喋りかけています。時々ハハハッと小さく笑ったりもしています。まあ、楽しそうならそれもいいですね。

とんかつはご覧の通り、680円とは思えない立派なもので、ソフトでおいしかったです。

上福岡は各駅停車しか停まらない駅ですが、それにしては街が結構栄えていました。昼だったのでまだ開店してませんでしたが、飲み屋も多かったです。中にはこんな破格なお店もありました。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#4

キャンペーンで「蛇口焼酎」が1時間100円。これは飲兵衛にはたまりませんね。蛇口の下で口を開けて、ゴキュッゴキュッと飲み続けるオッサンの姿が思い浮かびました。

僕も、最近こそ酒量が減りましたが、若いころは毎日酒が欠かせませんでした。ビールは高級品で、もっぱら焼酎でした。

日本酒は20歳ぐらいのとき、一升瓶をひとりで空けたのはよかったものも、ひどい悪酔いをしてしまったことがあります。それ以来、日本酒が飲めなくなってしまいました。

思えば、当時一番安い酒を飲んでいたので、今では使えない混ざり物などが相当使われていたのかもしれませんね。

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工事のために休んでいるお店もありました。ただ、「いつまでもお休み」なら、それは閉店というのではないでしょうか。

種明かしをすれば「いつまでも」という名前のお店なのですが、まぎらわしいですね。

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こんな6箇条が書いてある飲み屋もありました。5番目まではわかりますが、6つ目は微妙ですね。記憶を飛ばしているうちに、何かトンデモナイことをしでかしてなければいいのですが。

お店がこう言ってるのですから、料金を払うことが嫌な人は「飲み食いした記憶なし!」と言ってお店を出ても大丈夫なのでしょうか。

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コロナ禍のために、居酒屋さんの中にはこんな風に「食堂」に鞍替えすることを余儀なくされる店もあるのですね。確かに緊急事態宣言発令のときは、アルコールの提供が夜7時まで、閉店8時を求められます。それでは居酒屋として成り立ちませんものね。

これは僕らミュージシャンの仕事場であるライブハウスも同様です。ライブは通常、一般の方の仕事終わりに観るものですから、平均して夜の7~8時開演という店が多かったのですが、このような時短要請では実質営業できません。

やけになって平日の4時半開演とかにしたこともありましたが、当然ながら一般の仕事をしているお客さんは来たくても来られる時間じゃありません。いつになったら通常の営業時間で開演できるのか、こればかりは先がまったく読めないので、正直困惑しています。

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この保育所はスゴいですね。「ド」を付けるのは通常、「ド根性」とか「ド派手」とか激しい様子を表す言葉です。この保育所では何かとてつもなく激しい保育が行われるのでしょうか。

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それに対して、こちらは「こどもらよ。あそべ・うたえ」。勉強するよりもまず楽しく生きろ、ということを謳っていて、好感が持てます。

もっとも、もしかしたら「ド保育所」と経営者が同じで、保護者たちは「さぁ、どうしますか。勉強は一切なしでとにかく遊ばせるだけの保育園か、厳しくしつける保育所か、お子さんをどう育てますか?」という究極の二択を迫られるのかもしれません。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#10

とても元気で、楽しそうな葬儀屋さんもありました。元気にもりもり灰になっていく、ということでしょうか。ここには「お別れルーム」もあるようですね。

人間、死なない人はいないわけですから、金太郎のように笑って死んでいくのも乙なものですね。もっともまさかりで殺された場合、あまりここは利用したくないかもしれませんね。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#11

チョッキがNGという理容室もありました。「あんた、チョッキ着てるね。うちのお店は入れないよ!」という特殊なドレスコードで入店お断りの店かと思いました。でも、よく見たら「チョッキING」という、現在進行形でチョッキチョッキ切りますよ、という意味の理容室でしたね。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#12

住宅街に入ってきました。この家はなかなか入りづらいですね。もしかしたら変な勧誘などのうるさい来客者を無言で門前払いしているのかもしれません。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#13

別のお宅ですが、この木の鉄柵への絡まり方もスゴいですね。木VS鉄柵でプロレスをしているのかもしれません。かなりのひねり技を繰り出してますね。

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公園がありました。ちょうど桜が咲き始めたころです。この日は平日だったのですが、花見をしている人たちもいました。「桜の樹の下には屍体が埋まっている」と梶井基次郎も言っていましたが、桜のすぐ横にはこんな看板がありました。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#15

埋められているのはどうやら屍体じゃなくてお水のようで、ちょっとほっとしました。ちなみに、後ろに見えているのは新幹線です。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#16

新幹線型トイレかな? どうやら昔はトイレだったらしいのですが、今は防災倉庫になっているようです。新幹線の中に入りたかったなあ。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#17

別の公園には巨大なパンダもいました。こちらはちゃんとトイレとなっております。

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八雲神社という神社があったので覗いてみると、人形展をやっていました。世界各地の人形が並んでいます。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#20

虚無僧の人形は珍しいですね。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#21

こけしの行進。夜中に音も立てずにこけしたちが自宅に行進してきたら、とりあえず泡を吹いてぶっ倒れます。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#22

神社の手水舎です。水は流れていませんでしたが、綺麗な花が敷き詰められていました。

石川浩司の「地味町ひとり散歩」12回「上福岡」 写真#23

さらに歩くと、お城も見えてきました。有山城というらしいです。ただし、お城も経営が厳しいようで、1階はテナントでいろんなお店が入っていました。どの業界も今は踏ん張りどころですね。

さて、そろそろ帰宅するとしましょう。もしあなたが上福岡からバスで帰ろうとしたら、事前にちゃんと時刻は調べておいたほうがよいですよ。意外と待ち時間が長い場合がありますから。

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石川浩司 (いしかわ・こうじ)

1961年東京生まれ。和光大学文学部中退。84年バンド「たま」を結成。パーカッションとボーカルを担当。90年『さよなら人類』でメジャーデビュー。同曲はヒットチャート初登場1位となり、レコード大賞新人賞を受賞し、紅白にも出場した。「たま」は2003年に解散。現在はソロで「出前ライブ」などを行う傍ら、バンド「パスカルズ」などで音楽活動を続ける。旅行記やエッセイなどの著作も多数あり、2019年には『懐かしの空き缶大図鑑』(かもめの本棚)を出版。旧DANROでは、自身の「初めての体験」を書きつづった。

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