行徳で見つけた「体がグミになりそうな」滑り台(地味町ひとり散歩 32)

今回は千葉県の市川市にやってきました。市川市は、上から読んでも下から読んでも「市川市」。そんな山本山みたいな名前の市川市の「行徳」という駅に降り立ちました。

実はこの日の夜、この町にあるニートやひきこもりの人を支援するNPO団体の施設で、簡単な即興演奏をすることになっていました。しかし演奏は夜だったので、昼間はこの町を散策してみようと思ったのでした。

この施設に来るのは2回目です。2カ月ほど前も、「石川さんを中心にみんなで日用品を叩いて音楽を作ろう」というワークショップをやってもらえないかと呼ばれてやってきました。

主に台所用品の鍋やフライパンを、菜箸や棒っきれなどで叩いて、リズムに合わせて音を出すだけです。ところが、これが予想以上に施設に通っている方たちの心を開かせたらしく、「今度はその演奏を録画したい」ということで呼ばれました。

なので、本日も僕が持っていったのは自前のスティックたった2本だけ。施設にある鍋を借りて、叩いての演奏会です。

ミュージシャンは人付き合いが苦手な人も多い

施設に通っているのは子供ではなく、就職活動を目指す20代や30代の人が中心でした。人生で一度も会社に就職したことがない僕を呼んでいただけたことは嬉しいですが、行ってみてちょっと驚きました。施設に来ている人とスタッフの区別がまったくつかないのです。

つまり、全然普通の人たちなのです。確かに、若干シャイな人が多いかなという感じはありますが、ライブハウスに集っているミュージシャンとさほど変わりませんでした。

そもそも、ミュージシャン、特にシンガーソングライターは自分で作詞作曲をすることが多く、かなり内向的な仕事でもあります。そのため、元々シャイな人がとても多いのです。ステージでは、自分の人格を変えて、ある意味「キャラクターとしての自分」を演じて振る舞いますが、実は人付き合いが苦手だという人も多い。

そういうミュージシャンたちと、この施設に来ている人たちとの差がなかったので、ちょっと予想を覆された感じだったのです。

そういえば、僕も最近は人前で変なものを叩いたり、奇妙な声で歌ったりしていますが、元々、今なら少し自閉症気味と言われてもおかしくない子供でした。小学一年生のときは、先生とまったく話をすることができず、親が学校に呼ばれるほどでした。

「このままでは、この子は人とコミュニケーションが取れず、将来ちゃんとした社会生活を送れませんよ」と言われていました。

まあ、確かに「ちゃんとした社会生活を送れていない」というのは事実かもしれませんが、それでも還暦まで、それなりに社会生活を送ることができました。

なので、若い人でコミュニーケーションに悩んでいる人も、まずは自分がやりたいことを、あまりキッチリ考え過ぎずに気軽になんでもやってみるといいかもしれません。うまくいかなかったら、また別のことを試してみればいいや〜ぐらいの軽い気持ちで。思いがけないところから道が開けることもありますからね。

さて、このコラムの本題である「散歩」をしましょう。駅前の商店街の名前ですが、なんとなく「ウッシッシ、鴨がネギをしょってやってきたぜ」と、店主たちが手ぐすねを引いて待っているような気がしないでもありません。ちょっと微妙なネーミングですね。

まずは、腹ごしらえをしたいところです。どこかで聞いたような名前のお店ですね。てっきりゴリラの肉を食べさせる、変わったお店なのかと思いましたが、扱っているのは和牛でした。

二郎系ラーメンや横浜家系ラーメンなどはよく聞きますが、「おかず系ラーメン」というのは初めて見ました。千葉県では普通なのでしょうか。
そういえば、ヨーロッパなどではお米もサラダに使うことが多いので、「おかず系ライス」もありますね。所変われば品変わる、でしょうか。

同じ店ですが、「三獣スープ」というメニューが気になります。「三つの獣」って、いったい何の動物なんでしょうか? ライオン、トラ、ヒョウとかだったら、スゴいですね。「獣」という言葉から、野生的なイメージを感じますね。

なんと刺身が10円というお店がありました。残念ながら、まだ開店時間ではありませんでした。

次に、10円料理の看板が出てきたので、ここに入店することにしました。

しかし店内に入っても、それらしき表示は見当たりませんでした。もしかしたら、メイン料理を注文すると、その日の別の料理が一品10円で提供されるサービスがあるのかもしれません。

中華系のお店に入るとついつい頼んでしまう酢豚定食を食べました。酢豚のほかに、サラダ、スープ、もやし、杏仁豆腐、ウーロン茶がセットになっており、食後にはコーヒーも出されました。これで780円という価格はかなりお値打ちです。肉もゴロゴロ入っていましたよ。おすすめです。

公園もたくさんありました。まずは以前、名古屋で見かけたのとはタイプの違う、青い富士山がそびえ立っていました。

そして、すべり台のバリエーションもたくさんありました。ヘリコプターのすべり台は初めて見ました。

飛行機のすべり台は、子供のころに見かけたことがありますが、久しぶりの再会です。

クネクネと体が曲がってしまいそうなすべり台。体がグミになりそうです。

そして、究極のすべり台の形がこれではないでしょうか。すべることに特化! 階段なし、両側ですべれる、シンメトリーすべり台!

「よんよん」というスナックがありました。これを見て、かつて「よんよん」という言葉のおかげで、「たま」が大変な目に遭ったことを思い出しました。
一見したところ、なんてことのない言葉ですよね? 僕らもそう思っていました。

「たま」というバンドでデビューした僕らは、2枚目のアルバムに「牛小屋」という歌を収録しました。牛小屋で昼寝をしているというだけのノホホンとした歌ですが、バックのコーラスで「♪よんよこよんよんよーん」と歌っているところがありました。この言葉に特に意味はなく、「♪ラララ~」というコーラスの変形みたいなものでした。

ところが、この「よん」という言葉がレコード倫理委員会で問題になったのです。僕らが「なんでですか?」と尋ねると、こんな説明を受けました。

「よん」という言葉は、数字の「四」を想起させる。そして「四」というのは「四つ足」を想起させる。さらに「四つ足」というのは、かつて士農工商穢多非人という身分制度があった時代に、差別されていた穢多非人が四つ足の動物を処理する仕事などをしていたことを想起させる。したがって「よん」という言葉は差別用語である、と。

そんな伝言ゲームのように、「想起想起」と沖縄のソーキそばみたいな話をされました。

僕らはこんな単純な言葉が使えないとは露ほども思ってもいなかったのですが、実際には、すでに印刷されていた歌詞カード10万枚以上が、上記の理由で破棄・焼却処分になりました。

元の歌を聞いて、「差別だ!」と思って傷つく人は果たしてどのくらいいるのでしょうか。言葉って難しいですね。

さて、そろそろ待ち合わせの時間も迫ってきたので、散歩も終わりにしようと、住宅街の上の方を見上げてみました。なんと、煙突のような場所のテッペンに家のようなものが付いています。

景色は素晴らしいかもしれませんが、たとえ家賃がどんなに安くても、高所恐怖症の僕は絶対に住みたくない家です。台風が来たらどんなに揺れて不安定になるかと思うと、恐ろしいです。

あそこに住む自分を想像して、ちょっとブルっとしながら今回の散歩は終わりました。

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石川浩司 (いしかわ・こうじ)

1961年東京生まれ。和光大学文学部中退。84年バンド「たま」を結成。パーカッションとボーカルを担当。90年『さよなら人類』でメジャーデビュー。同曲はヒットチャート初登場1位となり、レコード大賞新人賞を受賞し、紅白にも出場した。「たま」は2003年に解散。現在はソロで「出前ライブ」などを行う傍ら、バンド「パスカルズ」などで音楽活動を続ける。旅行記やエッセイなどの著作も多数あり、2019年には『懐かしの空き缶大図鑑』(かもめの本棚)を出版。旧DANROでは、自身の「初めての体験」を書きつづった。

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