タトゥー規制に疑問を持つ施設も スーパー銭湯など加盟する協会はいま
現在、スーパー銭湯や日帰り温泉などの温浴施設では、ほとんどが「タトゥーお断り」です。しかし、ファッション感覚でタトゥーを入れる若い世代やタトゥーがある外国人観光客の増加を受け、規制緩和に前向きな施設も出てきました。
約180の温浴施設が加盟する温浴振興協会の諸星敏博代表理事は、タトゥー規制の緩和によって客離れが起こる可能性などを懸念し、「正しい情報を発信し、話し合いを続けていくことが重要」と話します。
補助がない代わりに店ごとにルールを決める強みがある
――温浴振興協会に加盟する施設のほとんどが現在、タトゥーを規制しているんですね。
諸星:規制していないのは3店舗のみで、大半が規制をしています。そもそも公衆浴場には2種類あって、いわゆる銭湯などの「一般公衆浴場」と、スーパー銭湯や健康ランド、日帰り温泉などの「その他の公衆浴場」に分けられます。私たちの協会は「その他の公衆浴場」の事業者の集まりで、事務局ではガイドラインを策定したり、勉強会を開いたり、行政と交渉する際の窓口にもなっています。
銭湯などの一般公衆浴場は地域住民の保健衛生を守るために必要なもので、上下水道料金の減免などを受ける代わりに、基本的にどんな利用客でも断れません。
一方、私たちの協会に加盟しているスーパー銭湯などは完全な民間施設です。行政から補助を受けない代わりに料金を自由に決められるし、お店ごとにルールを作って、利用者を規制できます。したがって、ほとんどの施設で「入れ墨・タトゥーのある方、暴力団関係者、泥酔した方のご利用を固くお断りします」といった利用規則が定められています。
――タトゥーをした利用客を断る理由は何ですか。
諸星:反社会的な人の利用を制限し、一般のお客さんが安心して利用できるようにするためです。スーパー銭湯ができ始めた1990年前後、「入れ墨をした人が来てトラブルになった」などの事例が多発しました。時々タトゥーをした人と一緒になることもある銭湯とは違って、スーパー銭湯には家族連れなども多く訪れるため、タトゥーをした人が入ってくれば怖がったり、不快に思ったりするでしょう。
しかし、暴力団対策法ができて以降、反社会的な人が利用することはほぼなくなりました。また、外国人観光客の中には宗教や文化的理由でタトゥーをしている人も多く、日本でも若い世代ではファッションとしてタトゥーを入れる人が増えており、必ずしも「タトゥー=反社会的」とは言えなくなっています。果たしてこのまま規制を続けていいのか、施設側でも疑問を持つ人が出てきました。
「誰が猫に鈴をつけるのか」問題と直面する現実
――利用者はタトゥー規制について、どう考えているのでしょうか。
諸星:私たちの協会で利用者を対象に、2015年~2016年にタトゥー規制に関するアンケートを実施しました。1200人以上から回答があり、「小さければいい」「シールで隠せばいい」などの条件付きも含め、7割以上が規制緩和に前向きでした。
協会では、こうした結果などを持って全国各地を周り、勉強会などもしています。ラグビーワールドカップ日本大会の時、来日した海外選手がタトゥーを隠すために上着を着用して入浴したというニュースが報じられましたよね。それを見た若い世代の経営者からは「もう規制するような時代じゃない」という声も聞かれます。
しかし、いざ実行となると「誰が猫の首に鈴を付けるのか」と、各施設がちゅうちょしているのも現実です。実際、スーパー銭湯のお客さんはほぼ7割が50歳以上で、こうした世代はまだタトゥーに対して否定的な意見を持つ人が多いです。
今やスーパー銭湯は全国に3000とも4000とも言われています。お客さんは自由にお店を選べるわけですから、「タトゥーをした人が来ないお店に行こう」と離れてしまうことも予想できます。一体、どのような対応が望ましいのか。協会として今後もタトゥー規制についての情報を発信し、話し合いを続けていく必要があると感じています。
――今後、タトゥー規制はどのように変わっていくと思いますか。
諸星:少し前になりますが、2013年に北海道の温泉施設でニュージーランドの先住民マオリ族の女性がタトゥーを理由に入浴を断られたことがありました。マオリ族には家族の起源や偉業を象徴する神聖なものとしてタトゥーを入れる文化があります。ほかにも、タトゥーを伝統文化として受け継ぐ人たちは世界中にいます。
また、2016年には日本の観光庁が「入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の入浴に関する対応について」という文書を公表し、各施設に配慮を求めています。具体的な対策として、タトゥーのサイズが小さかったり、シールなどで隠したりすれば入浴できるようにするとか、家族連れが少ない時間帯に入ってもらうといったことなどがあげられています。
公衆浴場というのは見知らぬ人同士が裸で、同じ時間を過ごす日本独特の文化です。だから、お湯に入る前に体を洗ってきれいにする、タオルを湯船に入れないなど、みんなが気持ちよく過ごせるようにマナーが存在します。タトゥーについても同じです。タトゥーをしていてもマナーを守って、笑顔でいたら、トラブルは起こらないはずです。
東京五輪・パラリンピックを目前に控え、(状況は)これからますます変化していくと思います。私は協会の活動だけでなく、全国の温浴施設の情報を集めたフリーペーパーやアプリの制作もしています。掲載している施設は1000件に上りますが、東京五輪までに各施設にアンケートを募り、タトゥーがあっても入れる施設の情報を公開しようと考えています。施設側にとっても、規制について改めて考えるきっかけになったらいいですね。
プロフィール
諸星敏博(もろほし・としひろ)
一般社団法人温浴振興協会代表理事。有限会社ライフラボ代表取締役。1953年長野県生まれ。大手百貨店で約15年にわたり、営業推進や店舗開発を担当した後、オーストラリアでリゾート開発事業などに携わる。帰国後、2004年に温浴施設へのコンサルティングやフリーペーパー「ゆ~ゆ」を発行する「ライフラボ」を設立。2015年、一般社団法人温浴振興協会の設立に際し、代表理事に就任。