「自分の進化を感じる」 元ラグビー日本代表の高校教師が語る「学び直し」の意義

全国大会でラグビー部の指導をする霜村誠一さん(2018年撮影)
全国大会でラグビー部の指導をする霜村誠一さん(2018年撮影)

ひとり時間をリカレント教育(学び直し)にあてて、キャリアチェンジを図る社会人にインタビューをするこの企画。今回紹介するのは元ラグビー日本代表で、現在は群馬県の桐生第一高校で教師を務めている霜村誠一さん(38歳)です。

霜村さんは、関東学院大学時代に全国大学選手権で3度の優勝を経験し、2004年に三洋電機ワイルドナイツに加入します。2009年には主将を務め、日本選手権の優勝をはじめ数々の実績を残してきました。

一方で、現役時代には大東文化大学で「学び直し」をして、教員免許を取得。引退後には保健体育の教師をする傍ら、ラグビー部の監督として活躍しています。さらに現在では、ビジネス・ブレークスルー大学で2度目の「学び直し」をして、いまの仕事に生かしているといいます。そんな霜村さんに「学び直し」の意義について聞きました。

「学び直し」で高校教師に

ーーラグビー選手から教師とは、大きなキャリアチェンジに見えます。

霜村:もともと、高校の時からいずれは教師になりたいと思っていたんです。「金八先生」シリーズが好きで、「教師って熱いんだ」と思っていましたし、小学校から大学まで、お世話になった先生には本当に恵まれていました。そのため、ラグビーで現役を続けられる期間は決して長くはないので、セカンドキャリアとして教師に転身することを考えていました。

ーー現役時代に、「学び直し」をして教員免許を取得されていますね。

霜村:ワイルドナイツの主将に就任した2009年に、保健体育の教員免許を取るために大東文化大学に通い始めました。朝早く練習して、それから大学に行って課題をこなすような感じでしたが、本当に大変でしたね(笑)。プロとしての練習や試合をしながら勉強もするのは相当きつくて、体を壊したりもしました。ただ、その経験があるから、たいていのことは大丈夫だという自信もついたように思います。

現在は、高校のラグビー部の指導に加え、高校3年生の担任もしているので、進路指導など日々の仕事はけっこうありますが、プロとしての活動と教員免許を取るための勉強を両立させたあの時期があるから、乗り越えることができています。

2度目の「学び直し」で得たもの

現役時代はセンターとして活躍した霜村誠一さん(2013年撮影)

ーー高校の教師になってから5年後、さらに通信制のビジネス・ブレークスルー大学で「学び直し」をしました。どのようなきっかけがあったのでしょうか。

霜村:「組織づくり」に関心があったことが大きいですね。ラグビー部の強化もそうですけど、教師として、高校をどう運営するかということにも関心があります。これから少子高齢化社会が進んで、高校の数も減少することが見込まれていますし、その中でどう自分が学校を生き残らせるかを学びたいと思ったんです。

ーー大学での学びには、どのようなメリットがありましたか。

霜村:「答えのない問い」に向き合う姿勢が、より確立されたことは大きかったと思います。高校ではどうしても「鎌倉幕府の成立は何年か」とか、知識の多寡が求められますけど、大学での多くの課題は知識をつけることではなく、「答えのない問い」への自分なりの考えを構築することが求められました。

たとえば、バングラデシュの児童労働をどのように改善するかという課題が出たのですが、この問題は表面だけを見て解決できるものではありません。なぜ労働をしなくてはいけないのか、子どもたちはどのような仕事に従事しているのか、法律と照らし合わせてそれは間違ったものなのか。さまざまな側面から問題と向き合うことが求められます。しだいに、課題解決を考えることが楽しくなってきました。

ーーそうした学びはどのように生かされていますか。

霜村:ラグビー部の指導の場面では、学びの効果は大きいですね。これまでは、試合で負けた理由について「ディフェンスの問題だ」などで終わらせてしまうことがありました。僕が「これが問題だった」と言えば、メンバーもそれで納得して終わりになってしまう。しかし、一つの試合をとっても、単純に運もあるし、いろんな要素が介在しています。

そこで、問題をより広い視点でとらえるようにするため、メンバーの自主性を尊重するようになりました。また、このようなプレーをしたらどうなるか、常に一歩先を想像する大切さについても、メンバーに伝えるようになりました。

ーーチームのプレーに変化はあったのでしょうか。

霜村:具体的な話をすると、ラグビー部が群馬県の試合で決勝戦を戦ったときに大きな成果がありました。決勝戦では前半に17点差をつけられていました。ラグビーにおいては、この点差を逆転するのはかなりきつくて、しかし、逆転するためにはどうすればいいかを考えたんです。

根性論で逆転するには無理があり、かつ残された時間もそこまで多くはなかったので、できていなかった部分を分析し、これからすべきことを3つに絞って伝えました。残された時間も考慮した上での判断でしたが、その結果、逆転に成功することができたんです。僕の判断が正しかったというよりも、生徒たちが自分たちでイメージして、その指示に納得してプレーしてくれたことが大きかったと思っています。

忙しい毎日でも、3時間は学びの時間にあてる

群馬県の大会で優勝し、ラグビー部の生徒から胴上げされる霜村誠一さん

ーーいまも大学に在学中ですが、普段はどのようにして学びの時間をとられているのでしょうか。

霜村:だいたい、21時くらいに帰宅するんですけど、それから24時~深夜の1時くらいまでは大学の課題に取り組みます。場合によっては、3時くらいまで集中することもありますね。少なくとも3時間は毎日取り組んでいます。新しい知識を吸収することがとにかく楽しいので、まったく苦にはなりません。

これは「本業をそっちのけで学んでいる」ということとは違います。先ほどもお伝えしたように、日々の活動にすぐに生かすことができますし、インプットとアウトプットのバランスがとれて、より自分が進化していると感じています。

ーー霜村さんは、ご自身をどのような教師だと思われますか?

霜村:生徒から「おーす」とか声をかけられることもあるので、なめられているようにも見えるかもしれません(笑)。ただ、僕は一方的な関係を築きたくはないんです。僕が語ったことをノートに写すだけでは、なかなか生徒が自発的に考える姿勢は身につきませんし、疑問があった時には気軽に声をかけてほしいと思っています。そういった環境づくりを心がけていますね。

ーー今後の目標を教えてください。

霜村:心に残っている言葉で、現役時代にしのぎを削っていた、(ラグビー選手の)廣瀬俊朗さんから言われた言葉があります。「厳しい道、新しいことに挑戦しないと未来はない」という言葉です。日々新しいチャレンジをしていくこと、それに尽きるかなという感じですね。

今考えているのは、三者面談をSkypeなどの遠隔でできるようにすることなどです。疑問の声もあると思いますが、移動時間の削減にもつながりますし、メリットも大きいと思います。これまであまりなかったやり方を通して、教育現場を少しでも変えていければと思います。

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