究極の「おひとりさまマンション」中銀カプセルタワー「無印良品の部屋」を訪ねて
みなさんは、中銀カプセルタワーをご存じでしょうか。ひとり暮らし用のマンションは数多くありますが、なかでも“ザ・おひとりさまマンション”と言えば、銀座にある「中銀カプセルタワー」が私の頭に浮かんできます。
これは新国立美術館などで知られる著名建築家・黒川紀章が手がけたマンションで、建築界隈あるいはヴィンテージマンション好きにはけっこう有名な建物です。今回、中銀カプセルタワーの内装をあの無印良品がコーディネートしたと聞いて、喜び勇んで見学させていただきました。
今でもマニアックな人気がある建築
このマンションが作られたのは1972年(昭和47年)。当時、黒川紀章などを中心としてメタボリズムという建築運動が起こっていました。メタボリズムとは「新陳代謝」という意味で、社会の変化などに合わせて建築や都市を進化・再生させていくという思想であり、中銀カプセルタワーはそれをアグレッシブなまでに体現した建築だと言えるでしょう。
各個室がカプセル状になっており、それらが積み重なったつくりになっているのですが、それぞれの個室=カプセルは交換が可能で、古くなったらカプセルごと取り換えられるよう設計されています。しかし、交換には莫大なコストを要するので実際に取り替えられたケースはないらしいですが。
極めてユニークな建築のため、今でもマニアックな人気があります。賃貸で住んでいる人もいれば、外国からの観光客を含めツアーで見学する人もひっきりなしに訪れると言います。私が見学した日も、海外から来た方のツアーの最中でした。
いざ憧れの中銀カプセルタワーへ!異様な外観に興奮
私自身はかつて『都心に住む』という東京都心の高級マンションを扱う雑誌をやっていた頃に、ヴィンテージマンションの特集記事をつくるなかで中銀カプセルタワーに触れる機会があり、その独特な外観や居室の特殊性、当時にしては最先端の設備など実にユニークというかツッコミどころ満載の仕様がいたく気に入り、いつかは中に入ってみたいと思い続けておりました。
そんな憧れの存在を実際に見学できる機会をいただき、喜び勇んで現地へと足を運ぶことにしました。「中銀」というくらいだから住所は銀座なのですが、駅は新橋の方が近いです。そこでJR新橋駅から歩いて現地に向かうことにしました。
駅から歩くこと約10分、パナソニック汐留ショールームの辺りでいよいよ中銀カプセルタワーの外観が隙間から見えてきました。胸が高鳴る瞬間です。
そこから大きな道路にかかった歩道橋を渡れば、もう目の前です。歩道橋に佇み、しばしその勇姿を眺めます。歩道橋を降りて少し進めば、ついにタワーとご対面です。
建物を通り過ぎてちょっと進んだあたりの方が全体を眺められて良いということなので、中に入りたい気持ちを抑え、そこから写真を撮ることに。たしかに絶景です。それにしても不思議な建物です。何も知らない通行人はこれをどう思っているのでしょうか。
さていよいよ建物へ入ることに。取材日は休日だったので正面玄関が開いておらず別の入り口から入ります。中に入るとエントランススペースがあり、受付やテーブルが置いてありました。ここで住人たちが語らうのでしょうか。郵便受けがレトロでかっこよかったです。
中銀レトロと無印センスとの奇妙な融合
しばし共用施設を堪能したのち、エレベーターに乗って部屋へと向かいます。棟は左右2つに分かれており、今回訪問するのは左の棟です。いよいよ部屋の中へ。
中銀カプセルタワーといえば、当時は最先端であっただろう近未来的な内装設備が特徴的なのですが、今回私が訪れた部屋はあの無印良品がコーディネートを手がけた部屋なので、普通におしゃれな空間になっています。
外の共用部分とのギャップに戸惑いますが、扉や壁、スイッチなどところどころはやはりレトロな中銀であります。
部屋のあちこちをしばし探索。お湯が出ないのでお風呂は基本使われておらず、湿気がすごいので除湿機が入っています。トイレはちゃんと流すことができます。
そして、なんといっても窓。この独特な丸い窓が中銀カプセルタワーの象徴的な存在と言えるでしょう。目の前を首都高が走っています。都会のど真ん中にいるかと思うと感慨もひとしおです。
一方で、机やベッドなどのインテリアは無印良品によってセンス良くコーディネートされているので妙に落ち着く空間になっています。正直なところ初めはやや拍子抜けしましたが、しばらくいると、ここで暮らすのも良いかもしれないと思えてきました。
ひとり住まいに必要なもの
キッチンやお風呂、洗濯機がないのは不便ですが、それは外の施設を使えば何とかなりそうです。何せここは銀座です。銀座や新橋で遅くまで飲んだとしても、歩いて家に帰れるのです。何と魅力的な立地でしょうか。まさに「都心に住む」です。
面積はわずか10平米あまりの狭い空間ですが、ひとりで過ごすには、すぐ手が届くようなコクピット感は悪くありません。ちょっと街に出ればおいしい食べ物もあるし、お風呂もあるし、洗濯を頼めるサービスもあります。
炊事・洗濯・入浴といった、住まいに備わっている機能を街に求めれば、住宅はごくわずかな要素、わずかな面積でも可能となりうるのだということを、中銀カプセルタワーに気づかされました。住宅に必要なものとは何なのか、ひとり住まいにとって何が必要なのかを改めて考えるきっかけをもらえた気がします。
さて見学を終えて、都会の恩恵に早速あずかろうとばかりに、建物を出てすぐそばにある立ち飲み酒場へと足が向かいました。お昼から開いているのはありがたいものです。真っ昼間から日本酒と美味しいお魚をいただくことにしました。ああ、都会に住むっていいなあ。