「早くバツイチになりたい」とボヤく「アラサー独身女」の結婚観

イラスト・古本有美

世の中に独身男女は増え続けるいっぽうですが、彼ら彼女らは”結婚”や”婚活”についてどう考えているのでしょうか。東京都内のメーカーで事務の仕事をしているユリさん(29歳)に話を聞いてみました。聞き手の私も独身で、37歳の男性です。

ユリさんはややぽっちゃりめの女性らしいルックスで、目鼻立ちもぱっちり整っています。明るいハキハキしたしゃべり方で、普通に彼氏がいそうな雰囲気です。なぜ、結婚していないのでしょうか。

バツイチになれば「結婚まだなの?」と言われない

――ユリさんは、彼氏いないんですか?

ユリ:今はいないです。っていうか、私、早くバツイチになりたいんですよね。

――えっ、どういうことですか?

ユリ:自分は4人兄弟の末っ子なんですけど、末っ子だからなのか、親や親戚から「結婚はまだなの?」って、すごい言われるんですよ。「お見合いしないか?」とか。社会人になってすぐの23歳ぐらいから言われ続けてきて、正直うんざりしているんです。私、26歳のときに突然アメリカに長期間、行ったりしているので、やりたいことだけやって生きているみたいに思われていて、余計に心配されているんです。

でも、バツイチになれば「1回経験してみたけど、もう結婚はコリゴリ」って言えるじゃないですか。だから、いっそのこと、ゲイの男性と偽装結婚するぐらいが丁度いいんですよね。

――なるほど……。離婚を前提に結婚したいわけですね。

ユリ:そうなんです。今年の6月に、知り合いの結婚式で元カレと再会したとき、「今、結婚相手を探しているんだけど、3カ月だけ結婚してほしい。バツイチになりたいの」って頼んでみたら、「いいよ」って言ってくれたので、付き合い始めたんです。

でも、付き合い始めたら「夜遅く出歩くな」とか「誰と飲みに行くんだ?」とか急に口うるさくなってしまい、挙句の果てには「一生お前を守る」とか言われてしまって、重い重い。こっちは3カ月で離婚するつもりだったのに、向こうがその気になってしまって、結局別れてしまいました。

未婚だが「早くバツイチになりたい」と語るユリさん

彼氏作りは「セクハラ対策」

――付き合ったってことは、男女の関係というか、肉体関係もあったわけですよね?

ユリ:いや、なかったです。元カレは前の職場の同僚で、4年前ぐらいに1カ月だけ付き合っていたんですが、そのときも正直、恋愛感情はなかったんですよね。1回一緒に飲みに行ったら、次の日に職場で「付き合っている」って言いふらされちゃったんです。でも、正直そのほうがラクだったんですよね。

――ラク?

ユリ:前の職場は上司の言うことは絶対で、飲み会でも王様ゲームをやらされたりして、セクハラが多かったんです。彼氏がいないと格好の標的にされてしまうんですが、彼氏がいれば守ってくれるし、周りも遠慮してそんなにセクハラっぽいことはしてこないので。

――日本企業の闇を感じますねえ……。

ユリ:元カレとは王様ゲームでキスしただけで、プライベートでは一緒に食事するだけの関係でした。向こうも特に性的な行為を求めてこなかったので。

――ところで、普段は「婚活アプリ」とかは使っているんですか?

ユリ:使ってますけど、飲み仲間を見つけるのが目的ですね。ゼクシィ、ティンダー、タップル、ペアーズとかいろいろ使ってますよ。でも、別に彼氏を作りたいは思っていないので、飲み会で終わってる感じですね。一緒に食事したり飲みに行ったりできる相手が欲しいだけなので。

私、高校生のときに出会い系サイトでサクラのバイトしていたので、サクラかそうじゃないかってすぐ見分けられるんですよ。だから大丈夫そうな相手とだけ会っていました。スマホアプリが出る前から、Mコミュ(Mコミュニティ)、スタビ(スタービーチ)、mixiとかでも友達を作ってましたね。

東京都内で結婚観について話を聞いた

「人って報われないんだな」と感じる父の姿

――結婚には興味がない感じですか?

ユリ:好きな人とずっと一緒にいられたらいいと思うし、お互いに空気みたいに自然な状態で生活できたらいいなとは思うんですけどね。わざわざ結婚しなきゃとは思わないです。だから、私は事実婚のほうが向いているのかな。結婚したら子供も欲しいけど、出産で痛い思いをするのは嫌だから、養子をもらいたいと思っています。そのために経済力もつけておきたい。

――なるほど。興味なさそうですね(笑)

ユリ:あんまり人に興味がないんですよね。飲み会で人と話すのは好きだけど、1人の人と向き合うのは苦手なんです。それに自分の父親を見ていると、人って報われないんだな、って思っちゃうんですよ。父は母のことをすごく好きだったけど、母はそれほどでもなさそうだったので。それに父は、同じ企業で40年間勤め上げて、これから余生を楽しむっていうときに、母が亡くなってしまったんです。子供たちはみんな独立しているので、父は今、広い実家にたった一人で暮らしています。

――そうだったんですね。お父さんと一緒に暮らそうとは思わないですか?

ユリ:親孝行したいと思うんですけど、正直、一緒にいるとしんどいんです。いろいろ心配されるし、父は食べ方が汚かったり、ひとつひとつの仕草が嫌なんです。身内だからでしょうね。優しくなれない自分も嫌なんですけど。まあ、私は一生反抗期なのかもしれません。一度は結婚して安心させてあげたいんですが……。ちなみに、もしバツイチになれたとしても、離婚の報告は特にしないつもりです。父も老い先短いので、結婚していることにしたまま見送ります。

「自分の子供時代」と比べると・・・

――なんで「結婚したくない」って思うんですか?

ユリ:経済的に自立できているからでしょうね。借金はないし、普通に稼げているし、自分のお金で好きなものを買ったり、海外旅行行ったりできますし。今も後悔なく生きているから、わざわざ家庭を持って責任を負う側になりたくないんですよ。

――今の生活に十分満足しているわけですもんね。

ユリ:そうですね。あと、自分の子供時代と比べると、それと同じことは自分の子供にしてあげられないだろうなあと思うんです。時代が違うので仕方ないけど、当時の中流家庭がしていたようなことを、自分の子供にはしてやれそうにないなあと。ピアノを習わせたり私立の学校に通わせたりなんて、できないですよ。

あと、子供のためにそんなにお金を使いたくないっていうのもあります。子供ができたら考えが変わるかもしれないけど、週末に有給取って海外旅行に行くなんてことは、できなくなりますよね。

――わざわざ結婚する意味を感じないわけですね。

ユリ:結婚って、あんまりメリットを感じないんですよ。誰かと同棲する意味って、一緒に住むと家賃が安くなるからいいな、ぐらいなもんですよね。実はルームシェアの相手は女性でもいいんですが、女性の場合はまだまだ結婚したいコが多いから、結婚のたびに新しい相手を探すのは大変なので。

――むしろデメリットのほうが多いですかね?

ユリ:結婚すると、姑から「子供は?」とか聞かれるのも面倒だし。だから、天涯孤独のゲイの男性と偽装結婚したいです。相手がゲイであれば、お互い自由に恋愛していても構わないし、良好な関係を続けられるはず。そういう嫉妬しない関係で過ごせたらいいなと。私にとって結婚相手というのは、茶色い紙(=婚姻届)だけ出しているシェアメイトっていうイメージですね。

「結婚してないから可哀想」は失礼

――でも、一生一人でいるというのも、寂しくないですかね?

ユリ:本を読んだり映画を見たりしながら、楽しく暮らしますよ。本は世界中に読みきれないほどありますからね。生活保護とか受けずに、一人で稼いで生きていければ十分です。エルメスとかバーキンとかの高級ブランドには興味ないし、和光市(埼玉県)あたりの郊外に500万円ぐらいのワンルームでも買って、余生を過ごします。

――そういう人生も選べる時代になった、ってことですかね?

ユリ:25歳で結婚して、28歳で子供を産んで、マイホームを買って、という人生も否定はしませんよ。でも、私は私の生き方をしているだけなんです。親戚とか周りにはそういう昔ながらの人生を送っている人が多かったけど、なんだかつまらなそうに見えたんですよね。旦那や嫁の悪口を言ったり、育児ノイローゼになったり、不倫とか浮気の話をしたりね。でも、親戚のおばさんでも「結婚生活、本当つらかった」という人に限って、積極的にお見合いを勧めてくるんですよ。変なの。

――親や親戚が結婚を勧めてこなければ、バツイチになる必要もないわけですよね?

ユリ:もちろんです。「結婚!結婚!」ってうるさく言う人たちがいなければ、私は自由なんですよ! だって、今の人生には150%満足しているので……。親戚のおばさんとかからは「もうすぐ30歳なのに結婚できなくて可哀想」みたいに思われているんですけど、そう思われることは嫌だし、意味が分かりません。そもそも「結婚してないから可哀想」っていう発想が、失礼極まりないですよ。相手が同性愛者かもしれないのに。最近では「そういう古い価値観しか持てないんだな」と、逆に哀れに思っていますけどね。

ユリさんがノートに書いた「人生の願望」

結婚したいなら「妥協しろ!」

――世の中をみると、それでも婚活している人は多いですよね。そういう人たちに対して思うことは?

ユリ:婚活している人たちに言いたいのは、「妥協しろ!」の一言ですね。「結婚したい」って言っているコたちに、お金もあって結構イケメンな男を紹介しても、結局NGになることが多いんです。みんな、理想が高すぎるんですよね。正直な話、「彼女の顔だったらこのぐらいの男かな」っていう相手を見つけて、セッティングするんですよ。私、お見合いババアなんで(笑)。それでも「元カレはもっと大企業だったから」とか言うんです。だけど、「そのときはその年齢だったから捕まえられたんだよ!」って言いたい。

まあでも、妥協するぐらいなら結婚しないっていう人も多いですよね。たしかに自分が居心地悪いのに結婚しても、幸せではないと思いますし……。

取材を終えて

<このように自分の結婚観を語ったあと、ユリさんは不意に私の置いたペンを手に取り、「遊んで楽しく死にたい! 一生現役!!!」とメッセージをノートに書いてくれました。

そういえば、先日テレビを見ていたら、マツコ・デラックスが「人間とはやりたいことをやればやるほど、モテなくなるもの。孤独だけど好きなことをやって生きる人生を選ぶか、そこをちょっとでも堪えて何となくほんわかした幸せを手に入れるか……(日本テレビ『マツコ会議』)」と言っていたっけ。

人生において、好きなことや楽しいことに重きを置こうとすると、結婚からは遠ざかっていくのかなあ……、と思わされた取材でした。>

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西谷格 (にしたに・ただす)

ライター。1981年神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、地方新聞の記者を経てライターとなる。2009年〜2015年まで上海に在住し、中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記(小学館新書)』など。東京都新宿区在住、独身。

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