増える「おひとり」限定ツアー 自由気ままに旅行を楽しむ
旅行会社が企画するツアー旅行というと、友人や家族と一緒に参加する人が多いのですが、最近はひとりでツアーに参加する人も増えています。
「旅先では自由気ままに行動したいけれど、完全なひとり旅は不安」。あるいは「自分の趣味である美術鑑賞をテーマにしたツアーに参加したいが、一緒に行く相手がいない」。そんな人がツアー旅行にひとりで参加するようです。
ところが、他の旅行客がカップルやグループばかりだと気がひけてしまいます。そこで「おひとりさま」ばかりのツアーだったら参加したい、というニーズが高まっているのです。どんな「ひとり参加限定ツアー」が人気を集めているのか、旅行会社に聞いてみました。
ひとりでいることの抵抗がなくなってきた
「ひとり参加限定」ツアーのさきがけといえるのは、旅行会社クラブツーリズム。最近、旅行に限らず「おひとりさま」向けのサービスが注目を集めていますが、同社は1997年からひとり向けツアーの企画・販売をしています。
「ひとり旅」の企画を担当している同社の藤田健介さんによると、参加者の世代は50〜70代が多く、男女比は3:7程度で女性のほうが多いとのこと。なかには、配偶者をなくして独り身になった年配の人もいるそうです。
ひとり参加型のツアーに力を入れはじめたのは、お客さんからの要望が多かったからだそうです。「近年、ひとりで行動することの抵抗がなくなって、世の中で受け入れられてきました。そして、おひとりを歓迎する宿も増えてきました」
クラブツーリズムのホームページを見ると、さまざまなツアーが募集されています。特におすすめなのは「現美新幹線のツアーですね」(藤田さん)。
これは、現代美術を車内で観賞できる「現美新幹線」の日帰りツアー(10月6日)。2016年4月に運行を開始した現美新幹線は通常、上越新幹線の新潟~越後湯沢間を期間限定で走っています。しかし今回はじめて、東京都内の上野駅から出発し、新潟まで走行します。
「鉄道好きにもアート好きにもおすすめです。シニア層だけでなく、若い世代も楽しんでもらえるのではと思います」(藤田さん)
新しいつながりを求めて参加
「本当に一人になりたい方は、ひとりで旅行に行くでしょう。ツアーに参加するお客様は、新しいつながりを求めている方が多い印象です」
そう語るのは、阪急交通社・広報の大平伸予さん。同社でも「ひとり参加限定」のツアーを企画していますが、参加者はツアー中に親交を深め、旅行から帰ってきた後も、写真を送り合うなどして交流が続くことがあるそうです。
阪急交通社で人気の「ひとり参加限定」ツアーが、北海道の紅葉遊覧ツアー(9月下旬)。日本一早い紅葉といわれる北海道の大雪山系の景色を楽しめます。
「一足早く『秋』を感じたい人におすすめ」と大平さんは話しています。
周りと旅を楽しむ派? ひとりになる派?
「ひとりでツアーに参加するのは、男性よりも女性のほうが多いですね」。そう語るのは、朝日旅行で国内旅行の企画を統括する高坂健彦さんです。
朝日旅行ではいくつかのツアーを「女性参加限定」で募集していますが、その一部を「ひとり参加」に限っています。
「女性限定だと安心して気兼ねなく参加できると喜ばれます。たとえば山登りなどは、自分一人で行くよりもツアーのほうが参加しやすいようです」(高坂さん)
ひとりでツアーに参加する旅行客も一様ではありません。高坂さんによると、参加者はそれぞれ目的は様々ですが、なかには「周りと一緒に旅を楽しむタイプ」と「周りに干渉せずにひとりになりたいタイプ」の2種類の人がいるといいます。
「運営側としては難しい部分もありますが、特に交流会を設けるなどもせず、普通のツアーと同じように運営をしています。周りと仲良くなりたければ交流してもらうし、ひとりになりたい人はそうしてもらう。適度な距離感を保っています」(高坂さん)
朝日旅行の今のおすすめは、日本三景として知られる京都・丹後半島の天橋立などを巡る「京都のアートとグルメを楽しむツアー」(8月23日〜)。出発間近ですが、まだ申し込みは間に合うそう。(8月8日現在)
建築家の安藤忠雄さんが設計した美術館「森の中の家 安野光雅館」(和久傳の森)でアート観賞を楽しんだり、丹後の海の幸「とり貝」や「岩牡蠣」などの食を味わったりする旅程で、「有名な観光名所以外の京都を楽しめる」とのことです。
参加者が体験を「シェア」するエコツアーも
そのほか、H.I.Sでは「シェア旅」という名前で、ひとり参加のツアーを実施しています。「旅の感動を参加者のみんなでシェアする」ことを目的にしていて、参加者同士の交流をうながす工夫をしています。
「屋久島縦走 4日間」や「小笠原 6日間」など、自然を体験するツアーが企画されています。この「ひとり限定」ツアーには、30代を中心に幅広い世代の人たちが参加しているとのことです。
他の旅行会社でも「おひとり歓迎」とうたったツアーを企画しており、ツアーにひとりで参加したい人のニーズに応えようとしています。他人に気兼ねしないで旅行を楽しみたい人にとって、旅の選択肢が増えています。