空き家のセルフリノベ、やってみた!(50代から独身 3)
1年3カ月ごとに引っ越しを重ね、たどり着いたのが蒲田。これまでは羽田空港を利用するたびに、東急蒲田から京急蒲田まで歩いていたので、その間の街の雰囲気はつかんではいたつもりです。その蒲田をひとことでいうと、
「呑兵衛の街」
だよなあ。
早朝からジョッキを傾けるおじさんたち。控えめながら目を合わせてくる客引きの女性。ホテルからけだるく出てくるアベック。昭和も平成も令和も関係なく、日本の平和なシーンがゆっくりと流れる街、蒲田。
ほとんどの空間はモノで塞がれていた
さて、今回の引っ越しも偶然によるものでした。契約期間満了になる都立大学のアパートメントから引っ越すにあたり、探したエリアは築地、銀座、新富町エリア。
築地は土地を築くという縁起のいい地名、銀座は世界一有名な地名、新富町は最近ちょっと人気だよね、と思っていたところ。結局3つの住所はつながっているので、まあ、その辺りというところで。
しかし。
「お、いい物件じゃん!」
と見つけたところは、ほとんどがいわゆる「おとり物件」。ほかにもいいところありますよ、と紹介されるのはだいたい家賃が5%位高いところなんですね。そこで思いついたのが、SNSを通じての物件探しであります。
「引越先を探しています。不本意に空き家を相続して放置している人、マンション複数持ってるけど、リフォームに費用がかかりそのままにしている人、海外に転勤になって、持ち家をどうしようか考えてる人いませんか?」
と投げかけたところ、なんとすぐに3人の友人からのお返事が。
ひとつは八王子の大きな一軒家、もうひとつは朝霞の3LDKマンション、そして蒲田の2階建て一軒家だったのです。
紹介してくれた友人曰く「すごいことになってるからびっくりしないでね」と一応エクスキューズがあり、年明けに早速下見に。
蒲田駅から十分歩ける距離のそのおうちは、25年ほど前に建てられた6K駐車場付きの和風戸建て。6年前から空き家になっていて、すべての部屋に、かつての持ち主の方の生活用品が所狭し、かつ整然と積み上げられ、ほとんどの空間はモノで塞がれていたのでした。
「これはちょっと引くよなあ」
空き家期間がたった6年でも家はここまでになるのか、と思い、再びネットで住まい探しを始めることに。
「全部捨てて住めばいいじゃん」
それから約1カ月が過ぎた頃、とある地域特産品パーティーに呼ばれて友人たちと出かけることに。その帰りに、一緒に出かけた中川寛子さん(『東京格差』を上梓し、住宅事情に最も詳しい専門家の一人)と、柏木珠希さん(ペルー在住で『占いで結婚しました』の作者として著名なコラムニスト)という、尊敬すべきおふたりと江戸川橋の居酒屋で、次会と称して飲み直しになったのでした。今思うと、超多忙なこのお2人と飲むのは奇跡に近かったと思うのですよ(お酒はほんと大事だと思った私)。
そこで、モノで溢れかえった上記の空き家の話をしたところ、
「モノなんて使ってないんだったら全部捨てちゃってさ、そこに住めばいいじゃん。人を集めていろんな活用方法を考えるあんたにぴったりでしょ」と、脳天を突き抜ける助言をいただいたのでありました。
「そうか!」
諦めが早いが行動も早い私は、すぐさま大家である友人に電話したところ「あら、気が変わったの?」と言われつつ、2日後には彼女たちを同伴し、再度の下見に出かけたのでありました。
ある程度の覚悟を決めて行くにあたり、お供をお願いしたのが、遺品整理協会を立ち上げた上東ひさよしさんと、ご近所に住んでいるワーキングマザーの向井愛さん。
「全部捨てるとなると2tトラック10台分だねー」と天文学的お片付け費用のお見積りパンチ(ちなみに2tトラック1回動かすとなると相場は5万円/回、そして産廃物としてごみの仕分け&処理代がかかります)。
ガスコンロも換えないといけないし、エアコンも25年前のまま。キッチンも古く、都立大学の時のようにアイランドキッチンにしたいなあ、とインテリアデザイナーの友人に相談すると、「ダクト代が高くて100万円以上はかかるわね~」と。
畳を替えて生き返り始めた家
結局そこは断念し、生活の空間を支える「畳」と「障子」を一気に替えることに投資を決断したのでありました。
30枚の畳と16枚の障子。それも熊本は八代産の井草を使った畳(なぜかそれが最安だった)の香りが漂った時に、はじめて家は生き返りはじめた、と実感。
ちなみに全体でかかった費用はざっくりと50万円ほど。遺品整理の友人にどさくさに紛れて引っ越しも手伝ってもらったり、いい歳になってもどんどん甘えてしまう、ずうずうしい私なのでした。
なんせ、6つの部屋(1階が8.5畳、4畳半×2、2Fが8畳×2、4畳半、物置スペース)とキッチンという広さ。ひとりでやると半年はかかるであろう掃除も、SNSでボラバイトを募り、あれよあれよとたった1週間で、人が住めるどころか、たいへん居心地の良い一軒家に生まれ変わったのでした。
しかし、6つも部屋があっても、使うのはせいぜい2つくらい。相変わらずのモノなしライフなのですが、あまりに殺風景な室内を見かねた大家さんのお父さんが「テレビ持ってくか」と32インチの大型テレビをくれたり、美人ギタリストの河野智美さんが冷蔵庫と食器棚をくれるわ、最後には大家さんのお嬢さんである裕子さんから90インチの巨大スクリーンとプロジェクターをいただいたり、生活に必要なものや娯楽製品を、多くの友人たちから頂戴したのでありました。
必要最低限のモノが揃ったものの、がらーんとしているのは棚がないからだと気づいた私。町屋のアパートのように、押入れの襖を外すと部屋が広く見えますね。これは和室のメリットかもしれません。
さて、ここから我が家は意外な方向に向かっていきます。(続く)