「1日1日を生きつくしたい」LADY SAMURAI・川渕かおりのひとり時間

シンガー、剣舞師、殺陣師、モーションアクター、女優、声優、モデル、作詞家、演出家――その女性はいくつもの顔を持っています。彼女はその美しくも激しい日本刀剣舞から「LADY SAMURAI」と呼ばれ、世界中で評価されています。

忙しい彼女は、オフとなる「ひとり時間」をどのように使い、英気を養っているのでしょうか。〝LADY SAMURAI〟川渕かおりさんにひとり時間の過ごし方を聞きました。

――実にいろんな仕事をしておられますね。

川渕:ステージで表現することが多いです。例えばバンド「KAO=S(カオス)」のライブでは私がセンターに立って歌ったり剣舞をしたり扇子を使って踊ったりしますし、主宰する侍チーム「偉伝或〜IDEAL〜」の公演では殺陣(たて)を披露したりします。また、お寺で奉納剣舞を行ったりもします。

――剣舞とはどんな表現なんですか。

川渕:ステージでやっているものだと、映画や舞台の殺陣、そこに私が昔やっていたカンフーやクラシックバレエの動きを取り入れた、刀を使った表現ということになります。刀一本で物語を表現するんです。

――他にはどんな仕事を?

川渕:撮影の仕事も多いです。ゲームのCGキャラクターのモーションアクターをしたり、俳優として映画に出演したり、モデルとしてCMやWEBムービーに出演するほか、声優やナレーションの仕事もしたりします。

あとは舞台の演出をしたり、脚本を書いたり、バンドの曲の歌詞を書いたりという内面的な表現をしたりという裏方の仕事ですね。

――なぜ、そんなに様々なことをされるんでしょう。仕事に一貫性はあるんでしょうか。

川渕:私自身の世界観を表現することがなにより好きなんです。そのために体を使って体現したり、声を使ったり、書いて物語を作ったりしているんです。

川渕かおりさん(撮影・萩原美寛)
(撮影・萩原美寛)

――刀にこだわったお仕事が多いのはなぜですか。

川渕:日本という国は剣から生まれたという国産み神話がありますよね。それにすごく感銘を受けているんです。刀には混沌を切り裂いて新しい世界を生み出す力がありますしね。

――最近の仕事で「これは」という仕事はありますか。

川渕:イギリスからのオファーで、世界で活躍中の日本人アーティストとクリエイター同士によるアートのコラボレーション企画に呼んでいただき、モデルとして映像作品に参加しました。現場では色んな国のクリエイターにインスピレーション受けつつ、すごく自由に表現できました。最近は海外案件が多いですね。

――海外には年間どのくらい行くんですか。

川渕:2019年は、プロレスラーと戦う役を演じるためオーストラリア映画の撮影に参加したり、その映画のプロモーションでフランスのカンヌに行ったり。バンドの仕事でドイツに2回行ったり、侍チームの仕事で台湾に出かけたりしました。

年内はモーションアクターの仕事でマレーシアに行くのと、映画の追加撮影のためオーストラリアを再訪します。

山歩きの途中で火葬場を見て「生と死はこんなに近くにあるんだ」

――さて、ここからはひとり時間についてお話しください。何かと人の目にさらされるお仕事をされていますね。だからこそ、ひとり時間の過ごし方って大事だと思うんです。オフの日はどう過ごしているんですか。休みってとれるものなんですか。

川渕:片付けないといけない仕事は常にあるので、自分で「やらない」と決めないと休めません。例えばカフェに行ってのんびりしたり、神社仏閣へふらりと出かけたりします。

――カフェ?

川渕:そう。カフェでコーヒーや紅茶を飲み、仕事も何もしないんです。普段、プロジェクトが同時進行で進んでいくことがすごく多いせいか、1日しか経っていないのに3日経ったように感じたりすることが多いんです。カフェで何もしない時間を過ごしていると、時間って本来このタイム感だなっていうのを、心も体も思い出すことができる。それって自分にとって、けっこう大事なことなんです。

刀を持つ川渕かおりさん(撮影・萩原美寛)
(撮影・萩原美寛)

――神社仏閣へ行くとのことですが。

川渕:近所とか旅先の神社仏閣、あとは高尾山とか鎌倉とかに行ったりします。予期せぬことに出会うのが大好きなので、行き方とか見どころは一切調べません。道に迷うのも好きなので。たとえ到着が夕方になってもいいんです。興味の赴くままに動いた結果、行けるところに縁を感じるので。だから魅力的な小径があったら、まず小径に入っちゃう。

その際、ネットは使いません。直感に従ったり興味の赴くままに歩くことって、ネットでたいていの情報がそろっちゃう時代だからこそ、きっと意味がある。私は自分の経験値を、実際に足を運んで自分の感性で積み上げていきたいんです。

――他に、行った場所ですごく印象に残っている場所とかエピソードとか。

川渕:3年ぐらい前、仕事で名古屋で泊まったときのこと。〝死〟という概念が頭に浮かんで、眠れなくなったんです。そこで翌日、東京に帰る予定をのばすことにして、ふらりひとり旅をはじめました。

向かった先は(岐阜県の)飛騨高山。山を歩いていて、シリアの方に会った後、火葬場の前に出たんです。ちょうど遺体を焼いていて、煙が快晴の青空に白い一筋の煙になってたなびいたんです。それを見て「ああ生と死ってこんなに近くにあるんだ」ということを感じ、涙が止まらなくなりました。生と死についての考えがもっと深まった感じがしました。

――人生は有限だということに気が付きますよね。

川渕:それどころか、明日生きているかすらわからない。だから1日1日をすみずみまで生き尽くしたい。2018年2月の舞台の途中で、左膝前十字靭帯断裂という全治8~10カ月の大けがをしてしまったので、そういう思いが余計に強いんです。

――PVやライブでの表現を拝見していると相当激しい動きをされることがわかります。日々トレーニングを積んでおられるのでは?

川渕:たくさんある本番自体がトレーニングになっています。だから、逆に体を休めることの方が日常においては大事ですね。

――なるほど激しい肉体疲労があるのですね。

川渕:去年のけが以降、今もリハビリを続けています。とにかく本番が多いので、けがをしないよう週に2、3回は整体に行ってちゃんとほぐしてもらっています。あと鍼(ハリ)はせめて月に1回行けたらいいなと思ってます。

話をする川渕かおりさん(撮影・萩原美寛)
(撮影・萩原美寛)

――ゆっくり寝たりとかするんですか。

川渕:睡眠が足りていないとパフォーマンスが落ちてしまう。なので寝るようにはしてます。最近、脚本を書いていたりするので以前よりは短いですが、それでも8時間は寝ていますね。

――美容のために何かやっていることはありますか。

川渕:まず第一に悩みを抱えないということ。鬱々してくると顔の表情とかはりとかが陰ってくるので。まず鏡を見て「あーなんか疲れた顔してるな」とか「ちょっとあまり綺麗じゃない」とか思うときは、まず心に引っかかっている原因を取り除きます。

――食事はどうですか。

川渕:肉や玉子からタンパク質をとって、肌のツヤを良くするようにしたり、水をたくさん飲んで悪いものを循環させて出すようにしたりしています。でも、体が欲している栄養素ってだいたい分かるんですよね。

食べる回数は多いですね。少ない量をちょこちょこと食べるようにして、空腹を絶対我慢しない。お腹が空いている状態が続くと顔が険しく攻撃的になってきますから。

――今後の目標とか展望とかやりたいことは。

川渕:2019年の9月に侍チーム「偉伝或〜IDEAL〜」の公演があります。12月には私のバンド「KAO=S」のワンマンライブがあります。

将来的なことですと、世界のいろんな地域に行って、そこに住む人たちと繋がりたいです。それは生きていることを一緒に楽しむことなのかもしれないし、それとも歌か剣舞なのかもしれません。

――どう、ひとり時間を過ごしたらいいのか。DANRO読者へのアドバイスをお願いします。

川渕:いつもと違った選択をしてみるといいと思います。場所が変われば集う人も変わるので、そうすると自分が予期していないぐらい、世界が広がったりしますよ。自分にご褒美をあげることも大事ですよね。特別なものを食べてみるとか、時間がなくて見に行けなかった映画を見に行くとか。そうやって心が潤えば、翌日からの日常をもっと頑張れると思うんです。

――ありがとうございました。

【川渕かおり・プロフィール】
刀を背負い世界中を周るLADY SAMURAI。剣舞・歌・語りのアーティスト。アートロックバンド「KAO=S」のヴォーカリスト。サムライチーム「偉伝或〜IDEAL〜」主宰。 モーションアクターとしては『FINAL FANTASY』シリーズ、『NieR:Automata』などに出演。

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西牟田靖 (にしむた・やすし)

ライター。日本の旧植民地に残る日本の足あと、領土問題や引揚など硬派なテーマに取り組んでいるうちに書斎が本で埋まる。最新刊は『子どもを連れて、逃げました』(晶文社)。そのほかの作品に『僕の見た大日本帝国』『誰も国境を知らない』『本で床は抜けるのか』『わが子に会えない』『極限メシ』『中国の「爆速」成長を歩く』など多数。

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