ちょっと不気味な名前の「沼袋」降りてみたら素敵な街だった〜地味町ひとり散歩(第1回)

みなさん、こんにちは。石川浩司です。この新連載は、普段あまり取り上げられることのない「地味目な町」をひとりでヒョコヒョコと散歩して、目についた光景をスケッチしてみようというものです。

なんせ大きな街はいろんなガイドブックなりで紹介されたりするけど、急行が止まらないような小さな駅は、用事がない限りあまり降りることもありませんからね。地下鉄や一部の都心線などそもそも急行が走っていない街も散歩するかもしれませんが、その辺はゆる~く歩いてみましょう。

第1回は沼袋(東京都中野区)。これは地名から選びました。沿線に住んでる人以外はあまり知らない街でしょう。なにせ「沼の袋」ですよ。「池の袋」ならまだ楽しげにボート遊びしている光景なんかを想像できますが、「沼の袋」ときたらもうドロドロのイメージしかないですよね。ズブズブの底なし沼とかね。それが袋に入ってる。

どうです、日野日出志的なブキミーな予感がしないですか? 何はともあれ、どんなところか行ってみましょう!

「庶民」という名前の中華料理店があった

秋の某日、僕は西武新宿線の沼袋駅に降り立ちました。山手線も通っている高田馬場から各駅停車で4つ目なので、決して田舎ではありません。まぁ、昔からある住宅地といったところでしょうか。小さいけれど、商店街もあります。

とりあえず駅に降りたら「あぁーーーっ!」とドロドロの沼にはまっていくということはありませんので、安心して行ってみましょう。

と思ったら、実は今日は朝食を食べてないことに気づきました。街をゆっくり散策するよりも、まずは暴れているお腹を抑えなければろくに散策する余裕もないと思い、あたりをキョトキョトと見渡しました。

思い出に浸るつもりはないけれど、30年前なら個人商店も多かったはずです。今はどこも駅前は同じようなチェーン店ばかり。実際僕もその安さやクオリティの安定感から、なんだかんだでチェーン店を使ってしまうことが多いのですが、あえて「地味町ひとり散歩」をするのだからせめてこの街にしかない店を、と探してみました。

そこへドドーンと現れたのが、その名も「庶民」という中華料理店。ありそうで意外とない店名かもしれませんね。外に貼ってあるメニューを見ると手頃な値段です。お昼時なのもあるけど、そこそこお客さんも入っている。さすが「庶民」。

おっ、僕の大好きな黒酢豚定食(800円)がある! おそらく中国の方と思われる店員さんに注文しました。出てきた黒酢豚定食は、肉がゴロゴロすんごく多い~。なかなかの当たりじゃないかと、ひとり、ほくそ笑みました。

本当ならほかのお客さんと話ができたら良かったのだけど、コロナの影響で店内には「おしゃべりを控えてください」といった貼り紙があり、みな黙々と食べていました。

テーブルには、調味料と一緒に「ヨーグルト用オリゴ糖」が置いてありました。いったい何にかけるのでしょう。庶民はオリゴ糖を欲するのでしょうか。ちなみに、メニューの中にヨーグルトは見当たりませんでした。

トイレに豪速球で駆け込む羽目に・・・

外に出て商店街を進みます。「沼袋親交会」の旗が沿道に飾られていますが、そのキャラクターがアマビエ。まさにコロナ禍の今年ならではのものですね。去年までアマビエを知っている人なんて、ほとんどいなかったろうからなあ。

町の掲示板にも「手洗いマスクは必ずしましょう」「今年度のバザーは中止します」などの貼り紙が多い印象です。

そう思いながら町を行くと、腰の曲がったお爺ちゃん、お婆ちゃんが結構多いことに気づきます。

「純喫茶 ザオー」「クラウン」など昭和からあるであろう年季の入った喫茶店も目につきます。

そうか、新興住宅地というよりは、昔から住んでいる人が多い地域なのかもしれないのだな。

さらに歩くと、突然「おとん」という店に遭遇しました。閉まっていたので何の店だかわかりませんでしたが、少なくとも近くに「おかん」はありませんでした。

美容室の前には巨大なシャレコウベ、意味がわかりません。

豆腐屋の小僧さんも、今はこんなにむき出しで売っていたら、衛生上問題視されるでしょう。

割烹の見習募集の看板も見かけましたが、「年齢二十五才迄」とのこと。僕の場合、仮にあと30歳若くても、調理場で働けません。そのことにちょっとだけ切なさを覚えました。

そんなことを考えながら歩いていたら、さっき食べた昼飯が腸を押してトコロテン式に僕の体からバイバイしたがっていることに気づきました。「早くお外に出たいよう」と言っています。

近くに公園があったのでトイレを覗いてみましたが、和式しかありません。実は近頃、膝の調子が悪いのです。長年膝立ちでパーカッションを叩いていたがゆえの職業病かもしれません。とにかく和式トイレでしゃがむのが滅法苦手なのです。

公園のトイレは最終手段の抑えとしてキープしておくことにします。もう少し我慢できそうなので歩いてみると、ちょうどいい施設がありました。まだ新しい感じの「中野区立歴史民俗資料館」、入場無料。こういう所が一番いいんですよね~。

入館すると「中野はむかし海でした」とか書かれていますが、それより「僕はいま緊急事態でした」と思い、トイレに豪速球で駆け込みます。期待通り清潔で、なおかつシャワートイレでした。

ふううっと一息ついて館内を見学しようとして、ふとスマホを見ると、なんともうバッテリー残量が30%を切っているではありませんか。

実は僕はケータイを持っていません。なぜなら電話が大の苦手だからです。人と話をするときは相手の表情などを見て言葉を選ぶので、声だけの情報だとうまく話せないのです。

先ほど「スマホ」と書きましたが、実際に持っているのは電話会社と契約していないため電話機能がない、スマホならぬ「スマ」です。妻が新しいスマホに変えたので、そのお下がりをもらったのです。でもスマでも、カメラ、時計、ミュージックプレイヤー、ギターチューナーなどの機能はありますから便利に使っています。

今回は写真を撮るためにスマが欠かせません。予備バッテリーは持ってきたのですが、バッテリーが30%を切っているのを見ると焦ってしまいます。

そんなとき、公共施設は便利でありがたいですね。ゆったりとしたソファー席に座って中野区の歴史ビデオを観ながら、充電作業をさせてもらいました。

昔は、今の中野駅前あたりに、徳川五代将軍綱吉が設けた「お囲い御用屋敷」いわゆる「犬屋敷」があったのだなあとか、多少の教養を仕入れましたが、ともかく困ったときの公共施設ですね。

昼間はライブ会場になる粋な「銭湯」

さて、充電も終えたので、再び街を闊歩することにします。僕の街歩きはちょっとだけ普通の人と違います。それは街に無数にある自販機をひとつずつチェックしていくことにあります。

以前、DANROのコラムにも書きましたが、僕は空き缶コレクターなのです。

空き缶と言っても落ちているものを拾うのではなく「自分の飲んだドリンク」の空き缶コレクターなので、僕の風体だけ見て「あ、石川の本業は空き缶回収業者なんだ」と間違えないでくださいね。それを35年間続けていて、2019年には『懐かしの空き缶大図鑑』(東海教育研究所)という本も上梓しました。

とにかくそういうわけで、まだ僕が持っていない缶がどこかにあるかもしれないので、自販機をいちいち覗いてまわるのです。

と、あ、ありましたよ。サンガリアの「いちごミルク」。一見、何の変哲もないジュースですが、本社が大阪にあるサンガリアの製品は東京では流通が少なく、これは今回初めて見ました。

ひとりでに顔がほころんで、嬉々として缶ジュースを買っているオッサンをどうか優しい目で見てやってください。この日は他にも、薬局でエナジードリンクを3本、それから別の自販機でコーヒー1本を見つけて買い込みました。リュックの適度な重さが嬉しいです。

さてさて、そんな感じで沼袋の街を歩いたあと、駅に戻る途中に「一の湯」という銭湯がありました。正直に言うと、僕はここには何度も来ているのです。しかし、お風呂に入ったことはありません。

「?」と思われるでしょう。実はこの銭湯の営業は夕方からで、昼間は生音のライブ会場として貸し出されることがあります。僕は何回もこの銭湯で、演奏をしているのです。「ホルモン鉄道」というユニットでは「腹太鼓音頭」という歌があってパンツ一丁になるのですが、ここなら恥ずかしがることなく堂々と脱げます。

「一の湯」での腹太鼓 (c)pecomegane

また歌いながら頭をシャンプーしたり、モップで床掃除をしたりと小道具が揃っているので、ミュージカルよろしく銭湯ステージを楽しみました。他の銭湯も、空いている時間はこんな風に活用すればいいのにな、と思います。

残念ながら今回もまだ開店前だったので、入浴することはできませんでした。いつかライブ以外でもゆっくりお湯に浸かりに来たいものです。

さて、ぼちぼち沼袋ともお別れ。なかなか素敵な街でした。残念ながら沼は見つかりませんでしたが、もしかすると、住んでみたら案外楽しい「落ちついて生活にゆったりとはまれる沼」の街なのかもしれませんね。

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石川浩司 (いしかわ・こうじ)

1961年東京生まれ。和光大学文学部中退。84年バンド「たま」を結成。パーカッションとボーカルを担当。90年「さよなら人類」でメジャーデビュー。同曲はヒットチャート初登場1位となり、レコード大賞新人賞を受賞し、紅白にも出場した。「たま」は2003年に解散。現在はソロで「出前ライブ」などを行う傍ら、バンド「パスカルズ」などで音楽活動を続ける。旅行記やエッセイなどの著作も多数あり、旧DANROでは、自身の「初めての体験」を書きつづった。

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