世界が愛するひとりぽっちソング「上を向いて歩こう」(いつも心にぼっち曲 3)
上を向いて歩こう
1961年(昭和36年)10月15日発売、歌・坂本九、作詞、永六輔、作曲、中村八大。英題「SUKIYAKI」として世界的に大ヒット。
私は「ひとりぼっち」という言葉の響きがとても好きだ。〝ぼっち〟という、どこか幼さのある跳ねる促音がたまらない!
雨とか涙の水滴が落ちる瞬間、「ポツポツ」「しとしと」という音の前に、普段は聞き取れない、ものすごく小さな小さな音で「ぼっち……」と鳴っている、そんな想像をかき立てられる。なんというか、音の赤ちゃんみたいなイメージ。
とはいえ、それは私の妄想である。そもそもこの「ぼっち」、語源はなんなのか。調べてみると、宗教や団体に属さない、もしくは離脱した僧侶を指す「ひとりぼうし(独法師)」から来ているのだとか。
世の中をたった一人で彷徨う独法師。おおぅ、スナフキン的な!
大好きだった「ひとりぼっちの羊飼い」
「ひとりぼっち」という言葉が出てくる歌の中で、私が幼少期から馴染み、今でも自然と鼻歌で出てくる曲が2曲ある。1曲めは「ひとりぼっちの羊飼い」である。
「ひーとりぼっちのひーつじかーい、レイヨロレイヨロレーヒッヒー♪」
という最高にゴキゲンな歌い出し。「サウンド・オブ・ミュージック」の挿入歌だったそうだが、ド田舎のチビッ子にそんなオシャレな情報が入るはずがない。たぶん音楽の授業か遠足で知ったはず。ヨーデルが気に入って、一日中ヨロレヒヨロレヒ歌いまくっていた。周りはうるさかったことだろう。
歌の内容は、羊飼いの歌声が高い丘から響き、遠い町の酒飲みも王子様も聴き惚れる……というもの。すごいよ、羊飼い!
そして今回、この記事を書くため、初めて2番以降の歌詞も調べてみた。すると、その歌声に魅了されたカワイイ娘さんが、羊飼いの歌声に合わせて勝手に(?)ハモリ、そこから愛が芽生え、最終的にはラブ、という展開だった。
知らない方が良かった……。1番の、ひとりぼっちでヨロレヒヨロレヒ言ってる羊飼いの方が好きだったよ。なんだいなんだい!
「上を向いて歩こう」は「ぽっち」だった
そしてもう一曲が、坂本九さんの「上を向いて歩こう」である。こちらもたぶん、音楽の教科書か遠足か、テレビか親の鼻歌かで覚えたのだろう。
もう日本を代表する名曲中の名曲。いや、世界を代表する名曲! 1963年、ビルボード(Billboard)誌でHot 100 週間1位を獲得。同誌の1963年度年間ランキングでは第10位にランクインしているのだ。
しかも頻繁にカバーで歌われているせいか「ナツメロ」という感覚は無い。もはや「トワ(永遠)メロ」である。
私も迷い多き30代は、この歌によくお世話になった。ウォークマンで聴きながら空を見上げ、涙を頬でギリ止めし、乾かしたことが何回あろうか。
「泣きながら 歩く ひとりぼっちの夜~♪」
ずっと、そう歌っていた。ひとり「ぼっち」の夜、と。
ところがである。ごく最近になって、遅まきながら「上を向いて歩こう」のひとりは、「ぼっち」ではなく「ぽっち」だったことを知った。
私は近視である。そして40後半から老眼まで入ってきている。
「ぼ」と「ぽ」の表記の差が見にくいのだ! ということで、歌詞カードを目から近づけたり遠くにしたりしながら確認したら、やはり「ぽっち」であった。
改めて坂本九ちゃんの音源を確認してみると、確かに「ぽっち」と歌っている! なぜ今まで気がつかなかったのか。
しかし「ぽっち」とは、なんとかわいい響きなのか。「ひとりぼっち」もいいが、「ひとりぽっち」もすてきだなあ。周りに人がいない寂しさと同時に、空気が澄んだ感じがしていいなあ……。
私は「ぽっち」のほうが寂しさを感じる。響きが「ぽつり」と似ているからだろうか。
一方、「ぼっち」は、「ぽっち」と比べるとまだ、そばにいてほしい人が近くにいるイメージがある。これは「ぼっち」が「ぼちぼち」と似ているからなのか。
でも、だからこそ、恋愛ソングは「ひとりぼっち」のほうが、未練臭が強くなる気がしませんか。ううん、いやいや、「ぽっち」もなかなか……。
ああ、ロマンチックな妄想が止まらない。なんと罪深き「ぼ」と「ぽ」!
ひとりの夜にやさしく響く、永六輔さんの歌詞
「上を向いて歩こう」は歌詞も素晴らしいが、「ウッフエェをームッフイテェ♪」という、坂本九さんのヒョコヒョコしゃくりあげる歌い方も人気の一つだ。
歌詞を書いた永六輔さんが初めてそれを聴いたときビックリして、「絶対売れるわけない!」と激怒したのは有名なエピソード。
私はこのハネハネ感が大好きで、勝手に「坂本九式ジャンピング歌唱法」と名前を付けていた。しかし最近、この歌い方にロカビリーが起源の「ヒーカップ唱法」というちゃんとした名前がついていたことを知った……。とほほ。
こんなことを書いている今も、キーボードを打ちつつ「涙が~こぼれーないよっほっほぅに」……と声に出して歌ってしまう。読んでいる方も今、鼻歌が出ているかもしれない。多くの人の心の中に「ある」というより、もう「沁み込んでいる」、そんな歌だ。
「上を向いて歩こう」がビルボード1位を獲得したのが1963年6月15日。58年前の今頃。このやわらかでシンプルな歌は、今なお世界で愛されている。
「alone」や「lonely」など、いろんなバージョンの英訳があり興味深いけれど、「ひとりぽっち」という言葉の響きと意味がぴったり当てはまる表現は、なかなか見つかるものではないと思うのだ。
「上を向いて歩こう」のほかも、永六輔さんが紡ぐ歌詞はひとりの夜に聴くと、自分を囲む景色や空間がとてもやさしくなる。
たとえば、同じく坂本九さんが歌う「見上げてごらん夜の星を」。
そして「夢であいましょう」(歌:坂本スミ子)など、夜空や夢を近くに感じ、心がじんわり温かく歌ばかりである。