インタビューは「面白くなくない記事」を書けばいい〜ライター土井大輔さんの取材術
「ひとりを楽しむ」をコンセプトにしたウェブメディア「DANRO」。たくさんの個性豊なオーサーたちが面白い記事を書いてくれていますが、なかでも特に人気があったのが、ライターの土井大輔さんのインタビュー記事です。
「こんな人、どこで見つけたんだろう?」と思うようなユニークな人物に取材して、肩の力の抜けた自然体の文章で、その人の「味のある言葉」を引き出しています。
取材者である土井さんはどんなふうに考えて、インタビューの対象と向き合っているのでしょうか? 土井さんにインタビューしてみました。
※この記事は2020年9月13日、DANRO 公式note で公開されました。
面白いかどうかは「誰に取材するか」で決まる
亀松:僕はウェブメディア「DANRO」で編集長をやっていたんですけれども、土井さんが書いたインタビュー記事はとても人気があり、「面白い」という人が多かったんですよね。僕も編集者として、すごく面白いなと思って読んでいました。では、土井さん自身は「面白いインタビュー記事」というものをどう考えているんでしょうか。そのあたりを聞きたいと思います。
土井:それまでに誰も取材してない人だったり、その人の知らない一面が出てきたりというときに、面白いインタビューになると思っています。なので、面白いかどうかは「誰に取材するか」でほぼ決まるんじゃないでしょうか。
亀松:そうすると、インタビューの対象を選ぶというか、そもそも面白い人にインタビューできるかどうかというところで成否が決まるということですか?
土井:そうですね。ただ、それは有名人である必要はなくて、自分がアプローチできる範囲の中で「これだ!」と思う人を取材するのが良いと思ってますね。
亀松:土井さんが考える「面白い人」とは、どういう人ですか? たとえば、DANROで書いてきたインタビュー記事の中ではどんな人がいますか?
土井:元漫才コンビ「りあるキッズ」の安田善紀さんですかね。子どものころから漫才を続けてきて、ピンになったりコンビを組んだりを繰り返し、32歳になってもお笑いを続けているという人ですが、面白かったですね。
亀松:具体的にはどこが面白かったんですか?
土井:人知れず頑張り続けているというか、ほっといても続けているところ。誰からも知られなくても何かを続けている人は、面白いと思います。
亀松:インタビューをしているときは「面白いところを引き出そう」と考えているんですか?
土井:いや、それは考えないですね。いろいろ話を聞いているうちに、「これ、面白いな」と思うところがあったらそれでいいというか(笑)
亀松:そうなんですね。同じ人の話を聞いても、「面白い」と感じるところは人によって違うのではないかと思うのですが、土井さんの場合はどうですか?
土井:そもそもライターは「面白くなくない記事」を書けばいいと思っています。
亀松:「面白くなくない」ですか・・・
自分のためだけに「好きなことを続けられる人」は強い
土井:「面白い記事」を書こうとするのではでなく、「面白くなくない記事」を書けば、とりあえず合格なんじゃないかと思いますね。「面白くなくない」というほうが、その人らしさが出ていると思うんです。
亀松:いろいろ盛りつけて、わざと面白くするのではなく、できるだけその人の素の姿があらわれている「面白くなくない話」をまとめていくということですね。謙虚ですね。
土井:だからこそ、「誰に聞くのか」というところが大事になると思います。
亀松:元りあるキッズの安田さん以外で、面白いと思ったインタビュー記事はありましたか?
土井:「民謡DJ」ですね。
亀松:どういう記事でしたっけ?
土井:クラブでレコードをかけるDJなんですけれども、日本の民謡だけをかけて、みんなを踊らせているというDJの二人組のインタビュー記事です。
亀松:これがすごく読まれたんですよね。特にツイッターで広がり、非常に多くの人が記事を読んでくれたんですけれども、土井さんからみたら何が面白かったんですかね?
土井:これも、どこかで発表しようというのではなくて、自分たちのために研究しているんですよ。自分で本を何冊も読んで、レコードを何枚も集めて、民謡とは何なのかを勉強している人たちです。その話を聞いたときに「面白くなるな」と感じましたね。
亀松:土井さんが「面白い」と思う人というのは、外に向けて「誰かに見せるためにやっている」というよりは、「自分がやりたいからやる」とか「自分が面白いと思うからやるんだ」というのが自然にできてしまっている人、ということですかね?
土井:放っておいてもやれる人は本当に強いと思いますね。何かのコレクションをする人でも「人に見せるために」やる人がいるじゃないですか。「これを集めて、いつか人に自慢してやろう」みたいな人。一方で、「自分のためだけに」やる人がいて。自分のために集める人のほうが面白いし、自分の世界を持っている感じがしますよね。
亀松:周りを意識するのではなく、自分のやりたいことを突き詰めてやっている人のことを、土井さんは「面白い」と思っているということですね。
土井:あとは、安心感があるんですよね。
亀松:安心感?
土井:自分が「これから先もやっていけるのかな」と不安を感じているときに、そういう人のことを見ると、「この人たちも頑張っているんだ」「こういう生き方もあるんだ」というのがわかって、安心するんですね。
亀松:そうなんですね。ところで、土井さんはいま、フリーランスでライターをやっていますけれども、それはなぜですか?
土井:これしかできないから、です(笑)。お金や才能があれば何でもやりますけれど、これしかできないんだろうなと思って、あきらめているんです。
フリーのほうが安定しないけれど「体調はいい」
亀松:土井さんの年齢はいくつでしたっけ?
土井:42歳です(インタビュー当時)。
亀松:42歳ということは、大学を卒業してから20年くらいということですよね。その20年の中でフリーをやっているのはどのくらいですか?
土井:ちょうど10年です。
亀松:ちょうど半々なんですね。
土井:はい。
亀松:逆にいうと、前半の10年はサラリーマンだったと?
土井:そうです。
亀松:編集系の会社でしたっけ?
土井:ゲーム会社です。
亀松:前半のサラリーマン生活と後半のフリーランス生活を比較すると、どうですか?
土井:前半のサラリーマン生活のほうがお金はいいですし、安定しているんですけど、いまのほうが体調はいいんですよね。会社員時代は、ストレスで休みたくても休めないとか、寝込んでしまうとか、夜に吐いてしまうとかあったんですけど、そういうのが一切なくなりましたね。
亀松:たぶん土井さんは、フリーでやるほうが合っているんでしょうね。
土井:そうですね。あと、この年になると、もう引き返せないので(笑)。もう42歳だから会社員は無理だろうと。だから、なんとかこの方向で成功している人を参考にするしかないんですよ(笑)
亀松:ライターという仕事については、フリーランスでやっている人も結構いますよね。ほかのフリーライターの人から役に立つ情報とか取材のコツを聞いたりすることはあるんですかね?
土井:あんまりないですね。だって、40歳を過ぎてライターをやっている人があんまりいないので・・・
亀松:そうなんですか!?
土井:はい(笑)そんな中で、本を出しているライターはすごいなと思いますね。社会使命というか、そういうのを持っている人はすごいですね。
取材相手の魅力以上のことは出てこない
亀松:土井さんも本を出したいですか?
土井:いや、思わないです。問題意識がないんですよ、あんまり。そこがダメなんですよね。
亀松:不思議ですよね・・・。フリーのライターって、本を出して、そこで新しい仕事を見つけたりするじゃないですか。そういう意欲がないんですか?
土井:本を出すには「社会を良くしたい」とか「人を面白がらせたい」という意識がないとダメだと思うんですけど、私にはそれがあまりなくて・・・
亀松:ライターなのに、人を面白がらせたいと思わないんですか?
土井:あんまり思わないですね。食べていければいいんですよ、これで。さきほどの話につながるんですけど、「面白くなくない記事」を書けばそれでいい、と思ってるので。
亀松:土井さんは、そこが控えめというか、謙虚だと思うんですよね。
土井:そうではないと思います。そもそも、ライターが何かをしようなんて、おこがましいと思っているんですよ。「人を面白がらせよう」とか、「これで社会を変えよう」というのは、なんか、おこがましいと思うんですよね。
亀松:淡々と、その人の思っていることを伝えればそれでいい、ということですかね?
土井:そうですね。取材相手の魅力以上のことなんて、出てこないと思うんですよ。その魅力をできるだけ100%に近づけられるようにしているんですね。
亀松:料理で言うと、良い素材を使って、変に味付けしないでそのまま出します、みたいな感じですかね?
土井:素材が良ければ、なんでも美味しいです。
「自分を成長させたい」という意欲が見当たらない
亀松:土井さん自身は「今後こういうことをしたい」という抱負はありますか?
土井:それがもう、ないんですよね。あえて言えば、自分を安心させてくれる人の話を聞きたいですね。
亀松:「自分はフリーランスのライターをやっていてもいいんだ」という安心感を与えてくれる人の話を聞きたいというのは、かなり自己満足的な動機かなと思うんですけど(笑)
土井:生き方の多様性を示してくれる人が好きですね。今後もそういう人の話を聞けたらいいなと思っています。
亀松:有名人にインタビューしたい、とかはないんですか?
土井:あんまりないですね。その人と仲良くなれば、もっと知ってみたいと思うかもしれないですけど。
亀松:有名か無名かということよりも、その人の生き方に興味があるということですね。 仕事のあり方については、こういうふうにしていきたいとか、ありますか?
土井:特にないですけど、自分を成長させなきゃダメですよね(笑)。それができていれば、会社員としてうまくいっていたと思うんですよ。それができていないから、会社員としてうまくいかなかったと思うんですよね。
亀松:うまくいってない、ということでもないと思うんですが(笑)
土井:とにかく、上昇志向は持ち続けていかなきゃいけないと思うんですけど、自分の中には見当たらないです。
亀松:ただ、最初に言ったように「土井さんの書く記事が面白い」という声は、たくさん聞いているんですね。僕は「土井ニーズ」があるなと思っていますよ。「土井さんの書くものを読みたい」というね。
土井:でも、そういうのって、めんどくさいですよね(笑)やり方を教えるので、ほかの人にやってほしいです。
亀松:そうは言っても、土井さんらしいインタビュー記事というのは、ほかの誰も書けないと思うんですよね。なんだかいい感じに肩の力が抜けているというか。たぶん、誰かが土井さんのマネをしようとしても肩に力が入ってしまう。土井さんみたいな自然体の文章は案外難しい・・・
土井:たぶん「これで生きていこう」という覚悟がないからだと思うんですよ。ライターがダメだったらコンビニのバイトでもなんでもいいんで、何となく生きていければいいかなって考えているんだと思いますよ。実際にはコンビニで雇ってもらえるかどうかわかりませんが・・・
亀松:そういうところが、本当に面白いですよね。
土井:いや、ダメなんですよ(笑)