想い焦がれたミュージシャンを観るためアメリカへ(渡米ライブ紀行 1)

ライブ会場そばの大型ショッピングモールに飾られていた、ブルース・スプリングスティーンの写真。その前で自撮りする筆者

おれがブルース・スプリングスティーンというミュージシャンを知ったのは40年ほど前のこと。1984年に発表された”Born in the USA”のキャッチーなメロディと力強いヴォーカルに一発でシビれてしまい、以来ずっとファンとして彼の曲を聴いてきた。

スプリングスティーンは1985年に初来日。1992年にはソロアルバムのツアーで単独来日しているが、それっきり日本には来ていない。彼の日本国内での人気や知名度は必ずしも高いとは言えず、本人も高齢なので、この先、日本で彼のライブを観られる可能性はほぼない。

ならば、こちらから観に行くしかないではないか。

フィラデルフィアで観た長時間ライブ

2016年9月、おれはスプリングスティーンのライブを観るために渡米した。会場はフィラデルフィアのシチズンズバンク・パーク。当時すでに60代後半となっていたスプリングスティーンは、このライブで全34曲、じつに4時間4分という長時間のライブを行った。

ちなみにこのライブは、スプリングスティーン自身のアメリカ国内でのライブの最長記録となった(ワールドツアーでの記録は2012年のヘルシンキ公演の4時間5分が最長)。

その後、スプリングスティーンはソロ名義のアルバムを発表し、ニューヨークのブロードウェイで弾き語りによるロングラン公演を実施した。コロナ真っ只中の2021年には盟友Eストリートバンドと組んだアルバムをリリース。2022年末に待望のワールドツアーがスタートした。

だが、やはり日本での開催は予定されなかった。

70歳を超えたカリスマに会うため再び渡米

すでに70歳を超えたスプリングスティーン。フルバンドでの彼のパフォーマンスは、もしかしたらこのワールドツアーが最後になるかもしれない。そう考えたおれは2023年の夏、ニュージャージー公演のチケットを購入した。

ニュージャージーはスプリングスティーンのホームタウンで、過去幾度となく伝説的ライブが行われている。彼自身はもちろん、ファンにとっても特別な地となっているのだ。日程は8月30日と9月1日、そして9月3日の3回。おれは9月1日と9月3日の公演を観ることにした。

9月1日の席はスタンド席で、3日の席はGA(GENERAL ADMISSION)と呼ばれる、ステージ正面の立ち見自由席だ。2016年のフィラデルフィアのライブもおれはGAで観ているのだが、当時と比べるとチケット価格が高騰している。おまけに円安と物価上昇で、相当の出費を覚悟しなければならなかった(事実、相当な散財だった)。

しかし前述したように、この機会を逃してしまうと彼のライブは二度と見ることができないかもしれない。幸か不幸かおれは独身で、わずかながら貯金もある。躊躇する理由などはなかった。

空港でまさかの足止め、無事渡米できるのか!?

8月30日、いよいよ渡米ということで羽田空港へ。だが航空会社の窓口でチェックインできないと言われてしまった。

どうやらネットで予約した際に性と名を間違えて入力してしまったようだ。予約情報の修正も不可とのことで、搭乗をキャンセルし、大急ぎで別の便を予約した。

新たに予約した便はサンフランシスコ経由で、現地着は31日の夜8時過ぎ。サンフランシスコでのトランジットの時間は1時間もなく、短時間で入国審査と預けた荷物のピックアップしなければならなかった。サンフランシスコ国際空港に到着し、イミグレーションで不愛想極まりない係官の「ネークスト!」の呼びかけを受け、入国審査の窓口へと向かう。

通り一遍の質問を受け、無事入国と思いきや、係官はさらに「わざわざニュージャージーみたいなところに何の用があるのか」と尋ねてきた。

おれ「コンサートを見に行く」

係官「コンサート?誰のコンサートだ?」

おれ「ブルース・スプリングスティーン!」

少々語気を強めにこう答えた。

なんて言ったって、スプリングスティーンはアメリカのアイコンと言っても過言ではないアーティストなのだ。これで係官と話が弾んだりすればいい土産話にでもなるだろうと思ったが、係官の返答は「ふーん、そうか」といった感じで、やや拍子抜けしてしまった。

大急ぎで乗り継ぎ便に飛び乗ると、5時間ほどのフライトで目的地のニューアーク国際空港に到着。タクシーでホテルへと向かう。タクシーの右手前方の窓から、マンハッタンのビル群が見え、その上に大きな月がぽっかりと浮かんでいた。

タクシーの窓から遠くマンハッタンを望む。大きな月が摩天楼の上に浮かんでいた

7年ぶりとなる海外旅行の興奮と無事に入国できた安堵感、そしてライブへの期待感といったいろんな感情を抱きつつ、おれはハイウェイをぶっ飛ばすタクシーのリアシートに身を預けた。 

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夏目健司 (なつめ・けんじ)

愛知県名古屋市在住のカメラマン兼ライター。バイク、クルマ雑誌の取材を中心に活動中。趣味はバイクやアウトドア。毎年夏にはバイクのキャンプツーリングを楽しんでいる。ケッコン歴無しのアラフィフ男目線(?)で多様なテーマに挑戦中。1971年生まれ。

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