NYで「ひとり会社」 チームで成功 Happy Triangle社代表・大西仁さん
大西仁(ひとし)さんは、2000年にサンフランシコに渡り、日本語フリーペーパーの立ち上げに参加しました。その1年後には更なる冒険を求めてニューヨークに移り、新たな出版会社の起業に携わり、2008年からは社長も務めました。しかし、今後の会社のあり方に対する考えの違いから共同経営者とたもとを分かち、昨年5月に長年働いた会社を離れました。そして、ひとりの会社で、プロジェクトごとにチームを組んで仕事をしていくことを選びました。
「ひとり」だから「ひとり」で働かない
――現在、どんな事業を手掛けていらっしゃいますか?
大西:主に日本の企業や団体がクライアントで、当地でのPR、マーケティング、プロモーションのお手伝いをしています。例えば、東京都のインバウンドのプロモーション業務では、東海岸に住むアメリカ人を対象に、東京が魅力的な都市であることを伝えるPR活動をしています。当地のメディアでの広告展開や、インフルエンサーに実際に東京観光をしてもらい、その様子を伝えてもらう、インフルエンサーマーケティングもコーディネートしています。
ほかにも日本産のお米をニューヨークで精米して販売する企業のウェブサイトを作成しています。また、SNSコンテンツ作成を請け負って英語、日本語、中国語で配信したり、日系飲食店のSNSマーケティングやメニュー作成、メディア企業の企業冊子や食品ディストリビューターの業界向け冊子の作成、イベント企画、運営、コーディネートもしたりしています。
――それらの業務を、どのようにひとりの会社で担っているのですか?
大西:ひとつの案件に対して、いろいろな分野、能力を持つ人たちと構成したチームで当たります。東京都の仕事ならば、当地の旅行会社対応の担当者と、メディア対応の担当者がひとりずつと、デザイナーやクリエーター、翻訳の担当がそれぞれいます。僕自身はチームリーダーになり、クライアント、旅行代店、メディアとの窓口になります。
ただし、自分ひとりでやるプロジェクトはゼロです。必ずチームを作って業務に当たります。ひとり会社のデメリットは、極端に言うと、自分が死んだ時にお客さんに迷惑を掛けること。ですから、お客さんを含めチーム内で情報共有を徹底し、自分に不測の事態が起こっても、必ずチームの誰かに連絡が入って、ベストな解決方法を取ってもらえるようにしています。
自分がいなくなった後は、メンバーが業務を引き継ぐかもしれないし、お客さんが別のところに業務を任せるかもしれませんが、時間的な猶予は少し稼げます。何かあって困るのはお客さんなので、そこに一番気を配ります。
今だからこそ、ひとり会社で
――ひとりの会社+チームで仕事を請け負うスタイルはどうして始めたのですか?
大西:昔も今も日系企業、団体をクライアントにしているので、日本語のネイティブスピーカーの人材が必要です。もともとアメリカではキャリアアップのために転職をすることが一般的。日本人でも最初は就労ビザのスポンサーとなった会社で働いて、永住権などを取得し、転職可能になれば次に挑戦するのは普通のことで、そうした状況は以前からあります。
近年難しくなっているのは就労ビザの取得です。発給数が限られ、抽選となるので取得が確実ではなくなりました。さらに現トランプ政権下で就労ビザ取得の基準が厳格化しているとも聞きます。そのため、これまで以上に、必要とする人材を雇いづらくなった。日本語でサービスを提供することは変わらなくても、仕事を受ける側の環境が変わったわけです。
IT の進歩の恩恵もあります。ネット環境があれば、オフィスがなくても仕事ができる時代です。家賃が高いニューヨークでは、WeWorkのようなシェアオフィスを利用する向きもあり、決まったオフィスに通い、フルタイムで、という働き方が絶対的ではなくなってきていると思います。フリーランスだけでなく、本業を持っている人でも、空いている時間や持っている能力をもっと生かしたい、と空間的、時間的に自由な働き方を求める人が自分の周りでも増えています。
さらに、たくさん人を雇っていた会社から、ひとりになっても、これまでに築いた信頼と実績があって仕事を発注してくれるお客さんがいるので、同じか、これ以上のサービスを提供しなければなりません。それには、いろいろな人たちの力を借りて、その力を集めてチームにするしかない。これまでの概念を捨てて、働く人に合わせて会社が形を変えるしかないと思いました。
チームの組み方で仕事は無限大
――チームならば受ける仕事の幅も広がりそうですね。
大西:新しい事業をやろうという時に、それに適した人たちとチームを作ればいいので、挑戦しやすいのはありますね。自分の知らない能力を持つ人と出会っていけば、発想はいくらでも広がり、組み方によっては、できる仕事は無限大になります。
これが5年前で、あるいは規模の大きな会社を作っていたら考え方は全然違っていたかもしれません。堀江貴文さんや西野亮廣さんがオンラインサロンという形で人とつながって、新しい形のエコシステムを作り、その人たちと仕事をしていますよね。環境=時代です。僕はネットでつながっているだけではなく、実際に見極めた人たちと信頼関係を作って仕事を一緒にしていくやり方ですが、つながっている人にメッセンジャーで直接相談できるのは、確実に時代の恩恵です。
基本は一緒に仕事をした、信頼している人からの紹介ベースでチームを作ります。友達の友達は…じゃないけど、信頼する人が信頼している人なら信頼できる、と考えるのが基本線。もちろん最終的には自分の目で見てジャッジします。
――例えばですが、NASAからロケットを売るためのプロモーション業務の依頼があったとします。受けますか?
大西:「できない」と思ったら、そこで終わりなので受ける努力はします。そうですね…、イベントで一緒に仕事をした、あめ細工の職人の方がいます。その方は、宇宙で誕生日を迎える宇宙飛行士のためのバースデーあめを作りました。まずはその方が、どなたかロケットに詳しい方を知っているかもしれないという可能性を考えます。
金額の大小ではなく、頼んでよかったなという体制、環境、チームが組めるのかどうか。打診から契約するまでの期間で八方手を尽くしても、要望に応えられるチームが作れなければ、お客さんに迷惑が掛かるので、正直にできなかったと伝えます。
――おっしゃる通り、仕事のやり方は「ひとり」がつながってチームを作る方向になってきているように思います。その上で大西さんがあえて会社、オフィスを持つ意味は何ですか?
大西:ニューヨークという街のブランドでお仕事をいただいているところもあるので、そこに対してのイメージ、小さいながらもマンハッタンの中心にオフィスがあるのはブランディングの一つです。
あとは自分自身の切り替えの問題。会社も同様ですが、公私混同しないためです。事業なので採算性、経費と売り上げの管理をちゃんとしないといけない。僕は意志が強くないので、会社と個人、オフィスと自宅を分けることでスイッチを切り替えます。そうしないと、家でひとりでユーチューブとか延々見続けてしまうので(笑)。