「男性向け美容」の世界を知り、若者を「眉毛サロン」に連れて行く

誰かに「おっさん」と呼ばれたとき、「いやいや『お兄さん』だから」と訂正するのが面倒になった瞬間から、人は「おっさんになる」のではないでしょうか。筆者(41)はもう10年くらい、おっさんであり続けています。

そんな筆者は先日、「男性向けネイル」を体験し、おっさんにも美意識が芽生えることを学びました。そして次なる一歩を……と思いたったところで目をつけたのが「男性向け眉毛エステ」です。眉がキリッとした人は、それだけで仕事ができそうに見えることに気づいたのです。

ただ、眉を手入れすると、ネイルよりも他人に気づかれる可能性が高いでしょう。少し怖じ気ついた筆者は、まず、若手ライターの篠原さん(28)に体験してもらうことにしました。

篠原さんは立派な「下がり眉」の持ち主。数カ月前、初めて彼と会ったとき、筆者は「この人、何におびえているんだろう……」と不思議に思ったほどです。眉毛エステによって、彼の顔の印象がどれくらい変わるのか、見てみましょう。

見事な「下がり眉」の持ち主であるライターの篠原さん

ベリッ! ベリッ! ワックス脱毛が始まった

訪れたのは、東京・新宿にある男性向けの眉毛サロン「+8(プラスエイト)新宿店」です。店内は明るく、シャイな筆者にはキラキラ感がまぶしくもありましたが、施術用ソファの間隔は広く、間仕切りもあって、なかなか落ち着けそうです。なお、取材は他のお客さんの迷惑にならないよう、個室で行いました。

ちなみに、男性向けネイルサロンと同様、こちらもリピーター率が高く、一度訪れた人の85〜90%が再度、訪れるとのことです。代表の佐々木啓介さん(43)によれば、おもな客層は20代〜30代前半。「彼らは高校生のとき自分で眉を整えはじめた世代です。そんな人たちが社会人になって、眉毛サロンに通い始めているのです」

もちろん、筆者のようなおっさんや高齢者も利用しています。面白いのは、店のウェブサイトのアクセス状況を解析すると、「日本全国から閲覧があった」ということ。プラスエイトの店舗は現在、関東だけですが、「眉毛サロンに興味のある男性は、全国各地にいるのでしょう」と佐々木さんはみています。

さて、「困り眉」の篠原さんですが、マネージャーの奥村愛弓さんは、彼の眉をひと目見て「眉の形が左右で違っているうえ、(周辺の)筋肉がしっかりしますね」と分析。その筋肉に沿って毛が生えているため、ゆるぎのない下がり眉になっていると指摘しました。

このサロンのスタッフは全員、美容師の免許を持っているといいます。「これを活かすこともできますが、少し上がって見えるように整えてみてはどうでしょう?」。どうぞどうぞ、そうしてくださいーー。どうせ自分の眉ではないし、と筆者は適当に返事してしまいます。

篠原さんの眉にはまず肌色のペンシルが塗られ、最終的な眉毛の形が提示されます。いったん鏡を見て、仕上がり想定を確かめる篠原さん。まだどこか不安がぬぐえない表情をしています。それを見た佐々木さんが「施術後は、洗面所などで鏡の前に立つたび、自分を見つめたくなりますよ」と爽やかに笑います。

そのまま篠原さんがソファに横たわると、眉の周りにジェルが塗られていきました。そこへさらにワックスが付けられたかと思うと、上からシートが被せられ……ベリッ! 一気に剥がされます。これで余計な眉毛が取り除かれるわけです。

「眉を整える」と聞いて、剃るものだと思い込んでいた筆者に、佐々木さんは教えてくれました。「剃ると直後は綺麗ですが、すぐに生えてきます。また、眉は毛の1、2本で印象が変わります。カミソリではその調整が難しいのです」

ベリッ! ベリッ! 繰り返されるワックス脱毛に、篠原さんは「ちょっと痛いですね……」と漏らします。「我慢できる痛さなんですが、初めての感覚なので身構えてしまう」。ただ、佐々木さんによると、2回目以降は慣れてくるといいます。

「眉を手入れすると、前向きになれる」

ワックスでの脱毛が終わると、ピンセットのようなもので細かいところを1本ずつ抜き、長さを整えます。最後にジェルを塗ったら完了です。ここまで約40分。初回なので3700円(2回目からは5300円)となりました。

手鏡を受け取った篠原さんは、しばし自分の眉に見入ったかと思うと、「真顔でも笑顔のように見えるようになった……」と呟き、妙に嬉しそうです。

乙女チックに手鏡をのぞいている篠原さんの表情は、仕上がりに満足している人のそれでした。のみならず、翌日には「眉の周りの赤みがひいたので、僕の写真を撮り直してほしい」などと、面倒なことを言い出す始末です。さすがにスルーしましたが、そのときの彼の顔は、心なしか自信にあふれているように見えました。

佐々木さんによれば、「人によく見られたいから」という動機ではなく、「自分のために」眉の手入れをする人もいるとのこと。「生まれ変わると言えば大げさかもしれませんが、前向きになれるんです」と、佐々木さんは言っていましたが、その意味がわかった気がしました。

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土井大輔 (どい・だいすけ)

ライター。小さな出版社を経て、ゲームメーカーに勤務。海外出張の日に寝坊し、飛行機に乗り遅れる(帰国後、始末書を提出)。丸7年間働いたところで、ようやく自分が会社勤めに向いていないことに気づき、独立した。趣味は、ひとり飲み歩きとノラ猫の写真を撮ること。好きなものは年老いた女将のいる居酒屋。

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