56歳で「兄貴」ができた!~元たま・石川浩司の「初めての体験」
生まれて「ハッ!」と気づいた時には、もうお兄ちゃんだった。
2歳違いの弟は最初からそこにいた。それから数年後にもう一人の弟が生まれ、僕はずっとお兄ちゃん人生を歩んできた。
「お兄ちゃんなんだからもっとしっかりしなさい!」
「お兄ちゃんなんだから泣かないの!」
「お兄ちゃんなんだから鼻くそ食べるんじゃないの!」
何かと言うと「お兄ちゃん」。「僕はこのまま一生お兄ちゃんとして生きていくんだ・・・」という気持ちは、小さい頃から自然と植えつけられていたのだ。
そんなところから「お兄ちゃんとしての変な自我」が目覚めることもある。僕はよく名前を間違えられる。「浩司」なのに「浩二」と書かれることが多いのだ。俳優の石坂浩二さんとゴッチャになってしまうのだろう。確かに二枚目なところはそっくりだが、この「ミス」が好きじゃない。「浩二」というのは、次男につけられる名前だと思うからだ。お兄ちゃんとしての自我があるからか、弟的な言われ方が妙に引っ掛かるのだ。
余談だが、ファミリーレストランのサイゼリヤもサイゼリアと間違えられているのをよく見る。これも昔、小林亜星さんが出演していたCMの「パッ!と さいでりあ~」によって、混同している人が多いからではなかろうか。
憧れの「兄貴」
ともかく、そんなお兄ちゃん人生をずっと送ってきた。お兄ちゃんとして生涯を終えると思っていた。ところが、人生何があるか分からない。56歳になった今年、突如として、僕にお兄ちゃんができたのだ。
とはいえ、「子供の頃に行方不明になっていたお兄ちゃんが、納戸の奥から出てきた」とか、「おやおや、よく見たらお前の背中にお兄ちゃんが張り付いていたよ」とか、「フィリピンのジャングルの中でお兄ちゃんが穴の中から『こんにちは。ボクお兄ちゃん!』と現れたよ」とかでは、もちろんない。
僕と同い年の義姉(妻の姉)が、今年の元日に結婚したのだ。それで、法律上の兄にはあたらないのだが、僕に「兄」が誕生したのである。その相手だが、驚くべきことに、僕が二十歳の頃にライブハウスで観てすっかりファンになり、5枚組のソノシート(薄いアナログレコード)も買っていたミュージシャンだったのだ!
バンド「すきすきスウィッチ」のリーダー、佐藤幸雄さん。「えっ、あの『PUNGO(パンゴ)』や『くじら』のオリジナルメンバーの!?」と、音楽業界では知る人ぞ知るミュージシャンだ。
あの頃、ステージの上にいた憧れの人が、36年という時を経て僕の兄貴になるとは。今更「お兄ちゃん・・・」とは流石に呼べないが、「兄貴」となら呼べるかな。半分冗談ぽくなら。来年、兄貴はかわいい弟の僕に、お年玉をくれるだろうか。
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