「サーカスに入らないか」と誘われた~元たま・石川浩司の「初めての体験」
![パスカルズ欧州ツアーの様子(撮影・サカイユウゴ)](https://danro.bar/wp/wp-content/uploads/2020/04/11556289/site_big/83e0cd75c811fc5bd1af384b436704f4.jpg)
ジャンル無宿者のバンド「パスカルズ」
パスカルズというバンドを20年以上やっている。
「あれ、石川浩司って『たま』という名前のバンドじゃなかったっけ?」という人もいるだろうが、「たま」は15年前に解散した。パスカルズというバンドは、一時期たまと平行してやっていて、今も継続しているのだ。
たまは全員がボーカルで、コーラスも重要な「歌ものバンド」。一方のパスカルズは、それとはある意味全く逆の「インスト(インストゥルメンタル)バンド」。つまり歌の無い、器楽演奏が中心のバンドなのだ。
バンドメンバーも14人という大所帯で、バイオリンが4人いるプチオーケストラバンド。ただし、音楽ジャンルは何と言っていいのか、ハッキリ分からない。演奏楽曲の7~8割はオリジナル曲だが、カバー曲もやる。カバーするのは、バッハ、ローリング・ストーンズ、ヘンリー・マンシーニ、スペイン民謡、友部正人、高田渡、そしてパスカルズの名前の由来となったフランスのパスカル・コムラードなど。
これだけでもジャンルがバラバラなので、CD屋さんが「どのジャンルの棚に置けばいいんじゃ!?」と頭を抱えたあげく、アラエッサッサーとドジョウすくいを踊ってしまうほどワケが分からないのだ。
そう言えば「たま」もかつてはそうだった。アマチュア時代に「どんなジャンルの音楽をやってるの?」と聞かれても、答えられなかった。アコースティック楽器を使ってるから「フォークか」と言うと、「いやいや、首から太鼓下げて踊りながら叩くようなフォークは無い」と言われ、「それじゃあロックか」と言うと、「桶や鍋を叩いて足踏みオルガンをブカブカ弾いてるロックは無い」と言われる。
ときどき即興演奏もするので「フリージャズか」と言うと、「ワケの分からん奇声で歌うジャズは無い」と言われ、「それじゃもうニューウェーブで」と言うと、「そんな古めかしい楽器ばかり使うニューウェーブは無い」と言われた。どのジャンルからも「シッシッ、あんたらはここじゃないよ」と仲間外れにされていた「ジャンル無宿者」だったのでござんす。
でも結局、そういうのが好きなんだよね。「何者」かになっちゃうと、その「何者」に縛られて面白くなくなっちゃう。もちろん曲ごとに、ロックっぽかったり、童謡っぽかったりはあっていいと思うけど、「〇〇のような音楽だね」とひとくくりにされるのが好きじゃなかったのかもしれない。
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「うちのサーカスに来ないか」
そんなパスカルズがひょんなことから欧米でCDを発売し、フランスの歴史あるフェスティバルから声がかかった。2001年、レンヌという町での公演の時の話だ。
僕はパーカッション担当だが、自作のパーカッションを使っている。紙パイプで土台を作り、そこに湯桶や鍋、鉄製のゴミ箱などをくくり付けている。紙パイプの足にはキャスターを付け、叩きながらステージをガラゴロ移動することもできる仕様だ。
よく「たまのドラムの人」と言われることがあるが、実はドラムは叩いたことがない。手先だけを使っていて、足は一切使わないのだ。
なぜなら、足は踊るためにあるからだ。
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そして演奏だが、ちょっとくだらないパフォーマンスもする。フランスのフェスティバルの時も、高さ3メートルくらいの不便な所にわざとシンバルを設けて、真剣に跳躍しないと叩けないというふざけたセットにしておいた。
演奏が始まった途端、僕らのバンドを初めて見るフランスのお客さんが、僕のジャンプにどよめいた。うまくジャンプして叩ければ拍手、失敗してカスれば「Oh~」。僕はそのウケに内心シメシメと思いながら演奏を続けた。
大盛り上がりでステージを後にして、楽屋で一息ついていると、ひとりの白人男性が部屋にズダダダッと走り込んで来て、僕に名刺を差し出した。フランス語で何やらまくし立てているので通訳してもらうと、「うちのサーカスに来ないか」ということだった。
その時、僕はもう40歳になっていた。パフォーマンスがウケたのは嬉しかったが、今からサーカスに入団するのも怖かったので、ニコニコしながらお断りした。昭和生まれなので「サーカスに連れて行かれる」なんて、江戸川乱歩の世界。下手をすれば、手足をちょん切られて見世物小屋に売られるような、そんな不気味な印象を勝手に持っていたからだ。
そのサーカスが、オリンピック選手などが引退した後に、必死で入団を希望してもおいそれとは入れない、世界一のパフォーマンス集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」だと知ったのは、帰国したずっと後のことだった。
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