黒魔術でしつこい勧誘を撃退した!?~元たま・石川浩司の「初めての体験」

(イラスト・古本有美)
(イラスト・古本有美)

占いや魔術は基本信じてない。理由はこんな話を聞いていたからだ。

ある知人が雑誌の編集部にバイトで入ったときの話だ。まずやらされた仕事は、「じゃっ、とりあえず星占いを気軽に書いてみて~」というものだったらしい。もちろんその人は占い師でも何でもない。「先月号を見て、運の悪かった星座の人は良くして、良かった星座の人はちょっと悪くするとか、バランスを見て適当に」と言われたそうだ。

全ての占いを否定するわけではないが、ライター見習いが書いた何の根拠もない占いを信じる人が多少でもいるのが不思議である。

魔術もまったく否定するわけじゃないけど、科学的に「この人の死因は『呪われ死』です」というのは聞いたことがない。魔術を信じている人たちの集団心理や精神的なプレッシャーはあるかもしれないが…。

ファンクラブツアーでインドネシアへ

当時、「たま」というバンドで毎年のようにファンクラブツアーをしていた。ファンの女の子たちとキャッキャッと海辺で遊んで金をもらうというそれはそれは悪どい仕事であった(笑)。

そんなファンクラブツアーで、インドネシアのバリ島に行ったときのことだ。ファンクラブツアーも終わり、しばらくオフだったので、飛行機に乗って、隣のジャワ島にあるジョグジャカルタという町にひとりで行った。

この町は世界最大級の仏教寺院として知られるボロブドゥール遺跡があることで有名だ。仕事で来た人を除けば、この町に来たほとんどの人が訪れるであろう遺跡だ。しかし、僕は人がいっぱいいる観光地は苦手だ。そのため、ボロブドゥール遺跡には行かずに、あまり知名度のない風情のある小さな遺跡を回ったり、安ホテルでぐーたらしていたりした。

しつこい勧誘に怒り

そんなある日のこと、飯を食おうと町をうろついていると、肌の黒い現地の兄ちゃんが声をかけてきた。

「マリファナ、ハッパ、ハッパ」

僕はもちろんそーゆー系は一切やらないし、大嫌いなので、「ノー、サンキュー」と言った。だが、他に外国人も少なかったせいか、なんとか僕から金を巻き上げようと、「アナザードラッグ?」と聞いてきた。「ノー、ノー」と言うも、しつこくどこまでもどこまでもついて来て、なんだかんだ話しかけてくる。

僕はもともと強制的な勧誘が大嫌い。それは日本でも同じだ。客引きをしなければならない飲食店は、新規開店などを除けば、人が入らない店だ。つまりはおいしくないか、値段が高いか、もしくはその両方なのかだから絶対に入らない。

ところがついにその兄ちゃんは僕の袖まで引っ張ってきたので、暑さのせいもあってぶち切れた。といっても、兄ちゃんのガタイはでかかった。とても体力ではかないそうもないので、一風変わった喧嘩をしかけることにした。

魔術である。

黒魔術で勧誘を撃退!?

バリやジャワ島のあたりは、呪術で人を呪い殺す「黒魔術」が信じられていると聞いたので、僕は静かにこう言った。

「ユー、ダイ(おまえは死ぬ)」

一瞬相手はキョトンとしたが、さらに続けて言った。

「ユー、ダイ」

そして手を合わせて何か祈るような仕草をしてみた。もちろん黒魔術のやり方なんて知らないから、テキトーな動作だ。

「ユー、ダイ」

もっとも僕はもちろん「キル、ユー(殺す)」と言ったわけではない。「おまえは死ぬ」と言ってるだけだ。つまり、生きとし生けるものなら当然の摂理を言ったまでだ。この世で死なない生き物はいないのだから、いつかあなたも死ぬ時が来ると・・・。

僕は続ける。兄ちゃんにゆっくり近づき、「笑ゥせぇるすまん」喪黒福造のように顔を指差して大声で言った。

「ユー、ダイ!」

彼は一瞬黙ったが、徐々に顔が青ざめ、目が血走っているのが分かった。

そして突如「ウォーーーッ」という雄叫びをあげながら、道端に落ちていた大きな岩を持ち上げるや、僕に投げつけてきたのだ。

幸い当たらなかったが、当たっていたら大怪我は必至、当たりどころが悪ければトンデモナイ事態になってしまう可能性もある大きさだった。

さらに投げようとする彼を、近くにいた人たちが羽交い締めにして必死に取り押さえてくれたので、慌ててその場をスタコラサッサと離れて事なきを得た。危うく岩で体をコナゴナにされるところだった。

みんなも、インドネシアで黒魔術をかける時は、近くに大きな岩がないかちょっとだけ注意した方がいいよ。

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石川浩司 (いしかわ・こうじ)

1961年東京生まれ。和光大学文学部中退。84年バンド「たま」を結成。パーカッションとボーカルを担当。90年『さよなら人類』でメジャーデビュー。同曲はヒットチャート初登場1位となり、レコード大賞新人賞を受賞し、紅白にも出場した。「たま」は2003年に解散。現在はソロで「出前ライブ」などを行う傍ら、バンド「パスカルズ」などで音楽活動を続ける。旅行記やエッセイなどの著作も多数あり、2019年には『懐かしの空き缶大図鑑』(かもめの本棚)を出版。旧DANROでは、自身の「初めての体験」を書きつづった。

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