「タトゥー」をいれるのは格好いいから 「退職代行」で注目される起業家の破天荒な生き方

EXIT株式会社の岡崎雄一郎さん

いま注目されている異色のベンチャー企業があります。退職代行を請け負うEXIT株式会社。会社を辞めたくても自分の口から「退職します」と言えない会社員のために、退職の代行を請け負う会社です。

毎月600~700件の問い合わせがあり、月商は約1500万円。ふたりの共同代表が経営しています。ひとりは大手企業を脱サラした青年。そしてもうひとりは、岡崎雄一郎さん(30)です。

岡崎さんは、難関大学への合格者を多数輩出する名門・開成高校を卒業後、アメリカの大学に留学します。ここまで聞けば華々しい経歴ですが、ボクシングに夢中になって大学を中退。帰国後は、解体工、型枠大工、歌舞伎町での黒服などを経て会社を創業したという異色の経歴の持ち主です。

さらに、身体にはタトゥーが入っており、それを隠すことなく生活するという破天荒ぶり。起業家のイメージを根底からひっくり返すインパクトです。一体、どういう人物なのでしょうか。岡崎さんに話を聞きました。

「タトゥーは格好いいから入れた」

腕に入れたタトゥー

ーーさっそくですが、タトゥーを見せていただけますか?

岡崎:いいですよ。(服をさらりと脱いで、首の右側、左腕、そして腰にいれたタトゥーを見せる)

初めて入れたのは腰のタトゥー。開成高校在学中の高校3年の夏に入れました。左腕のタトゥーは、いまから6年くらい前に。首のタトゥーは、去年入れました。退職代行を起業した後ですね。以前から首に入れたら格好いいなと思っていたので、入れました。

キッカケは高校1年生のときに、海外のタトゥーを紹介した本を立ち読みしたことです。タトゥーを入れたら格好いいなと思いました。未成年がタトゥーを入れるのは親の承諾が必要だったので、身分証明書がいらないところを探して入れました。初めに入れたのは文字。「なるようになる」という意味の文字だったと思う。親には内緒だったんですけど、しばらくしてばれました。すごく怒られた気がします。

ーータトゥーを入れると、日本社会では公衆浴場に入れないとか、就職できない会社があるとか、不自由なことがありますが。

岡崎:銭湯は行かないです。たまに、小さい銭湯に行くことはあるけど、全然、何も言われない。ジムでトレーニングをしているときは、「タトゥーを隠して下さい」と言われているので、長袖シャツで隠しています。自分としては、「タトゥーはダメ」という場所があるならそのルールに従います。そういうのが嫌なら、タトゥーを入れなくてもいいと思う。タトゥーで差別するのは間違っていると思いますが、実際にタトゥーを入れると不便な生活になるのはわかりきっていますから。

自分は何年間に1度、「タトゥーを入れたい!」という気持ちの盛り上がりが来るので、そのタイミングでタトゥーを入れてきました。もし、タトゥーが原因で仕事がダメになっても、肉体労働をすればいいと思っている。そのときは、そのときですね。

ーータトゥーを隠さないベンチャー企業の経営者の登場が新鮮でしたし、驚きでした。

岡崎:タトゥーを入れたことに特別な思いはないんですよ。イレズミやタトゥーを入れることに誇りを持っている人がいるのは知ってますけれど、個人的にはその気持ちが分からない。

髪を染める、格好いい服を着る、ピアスを入れる。タトゥーはそれと同じ枠組みだと思っています。タトゥーは格好いいもの。だからといって、みんなにすすめようとは思わない。入れたい人が入れればいい。タトゥーを入れている人間に差別的な目を向ける人はいます。でも、オレは入れる。そういう人がタトゥーを入れたらいいんです。

ーーTwitterでは、マスメディアの取材を受けると、自分のコメントや映像がカットされると書いてます。取材する側がタトゥーに配慮しているのでしょうか。

岡崎:それもあるかもしれませんが、全てがタトゥーのせいではないと思う。共同代表の新野と取材を受けていると、会社の業務内容については、当然同じ事を話します。もともと退職代行の事業のアイデアは、共同代表の新野が思いついたものです。彼が、会社を辞めたくても辞めると言い出せない、という体験があって、そこにビジネスのニーズを見つけた。自分には、「会社を辞めたいけど辞められない」という原体験がない。だから自分のコメントや映像が使われていないのだと思います。

はじめてAbemaTVに出たときは、首のタトゥーが見えないアングルでカメラを回していたし、タトゥーが見えないように長袖を着てほしいと言われました。そういう周りのタトゥーがらみの反応が面白い。

破天荒な生き方

首に入れたタトゥー。「Free Spirit(自由精神)」の文字。

ーー開成高校から今に至るまでの経歴を教えて下さい。

岡崎:開成高校を卒業して、アメリカに行きたくなったので、テキサス州立ノーステキサス大学に留学しました。専攻は会計。でも、ボクシングがしたくなったのでジムに入門したら忙しくなってしまった。1日中ずっとトレーニングしている感じで、そうなると昼の授業は寝るしかない。それで、大学は3年で中退して帰国しました。

帰国後は、実家暮らしは嫌だったし、普通の就活はしたくなかったので、ぱっと働けて、すぐにカネが入る仕事をしようということで、解体工になりました。体を動かしていれば退屈もしないので。解体工として1カ月くらい働いているうちに、型枠大工のほうが単価がいいと分かったので、型枠大工に。半年くらいやってました。しかし、建設現場の仕事って朝が早い。朝が早いのは苦手なので、夜の仕事で働こうと思って、型枠大工は辞めました。

夜の仕事は歌舞伎町にあるキャバクラの黒服でした。求人広告を見て応募して、面接に出てきた店長は手首から頭まで和柄の入れ墨が入っていて、「やばい店だな」と(笑)。ウエイターから始めて、女の子の「つけ回し」、それから「スカウト」もやりました。

もめ事もあったけど、退屈はしなかった。それでも4~5年して慣れてくると、退屈に感じるようになりました。オーナーからは、「次の店長はおまえだ」と言われるくらい評価は高かったんですけど。

「そのうち成功する自信はあった」

ーータトゥー、大学中退、肉体労働、黒服、という経歴は「挫折」と見られるのでは?

岡崎:挫折ですか? うーん。挫折したという体験は思い浮かばないですね。大学を中退して仕事をしていたときも、順調ではないかもしれないが、いまはしょーがないな、と思っていたくらい。そのうち成功する、という根拠のない自信はありました。

具体的な人生の目標は特になく、楽しい時間があって、お金があればよかった。いちばん長く働いた歌舞伎町も居心地は悪くなかった。中卒、高卒、中退の人間がたくさんいたけど、自分も中退しているし、テキトーな人間ですから馴染みやすかったです。

ーー楽観的な性格だったのですね。

岡崎:子どもの時から嫌なことはやらない性格でした。母親から聞いた話ですけど、幼稚園の参観日にみんなが教室でお遊戯をやっているの中、お遊戯が嫌だからひとりで砂場で遊んでいたらしい。普通の母親なら、「お遊戯をやりなさい」と叱るんでしょうけど、母は自分のことを尊重してくれたと思います。

やりたくないことはやらない。負けず嫌いなんだけど、退屈したらやめる。他人の目は気にしない。社交的な人間ではないですが、その性格は子どもの時から変わっていません。

「会社と社員は対等な立場」

EXIT株式会社。20代の若い社員が多い

ーーそんな岡崎さんが、退職代行の事業を始めたキッカケは何だったのでしょうか?

岡崎:共同代表の新野から、パワハラなどが理由で会社を辞めたくても、「辞めたい」と言い出せない人のために、退職代行を請け負うという事業アイデアを聞いて、一緒にやろうとしたんです。しかし、彼が「やっぱりやめとく」と言うので、最初は個人事業としてひとりではじめました。ただ2週間後には新野が考え直したようで、当時勤務していた会社を辞めて合流。当時はしょぼいサイトだったけど、それでも話題になって仕事の依頼が来るようになり、成長に合わせて法人化しました。

いまは電話やネットからの問い合わせが毎月600~700件、契約は約300件になりました。単価が5万円なので、月商はざっと1500万円です。共同代表の2人を除いた7人の社員は、Twitterで呼びかけて雇いました。みんな20代の若い社員です。この仕事はスマホがあればできるので、社員は遠隔で勤務して、週に一度、会議で出社するだけ。オフィスは会議で使うだけです。ひとりも出社していないときもあります。

ーー今後はどのような展開を考えているのでしょうか?

岡崎:いまは注目されてますが、退職代行の仕事はあくまでもニッチだと思います。多くの人は、自ら会社に「辞めます」と言って退職していますから。日本では年間約700万人が会社を退職している中で、毎月300人(年間3600人)がEXITを利用しているだけです。

会社の将来ですか? 退職代行の仕事には”うさん臭さ”がありますよね。それがなくなれば、ワンステージ上がった仕事ができると思っています。会社と社員は対等な立場であって、辞めたいときに辞めることが普通になれば、この仕事はなくなっていくはずです。そのときは、また退屈しない仕事をするつもりです。

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石井政之 (いしい・まさゆき)

ノンフィクションライター。1965年愛知県生まれ。『顔面漂流記』、『肉体不平等』、『自分の顔が許せない!』、『見つめられる顔 ユニークフェイスの体験』など多数。外見に特徴のある当事者の取材がライフワーク。

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