「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?」国会議員に聞いてみた理由

イラスト・和田靜香

私は今、泣きたいほどに本を売りたい。

「本屋さんを始めたんですか?」

いえ、違います。私は1冊の本を書いて、それが発売されたところだ。『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』という名前の本。

「な~んだ、ただ宣伝したいだけ。本を売って、儲けたいんですね」

そう言われたらその通りですと俯くのみだが、いや、それだけでもないから、事はやっかいだ。

もっと正確に気持ちを表すのなら、ただひたすらに、私の本を読んでもらいたい! 一人でも多くの人に! というもの。

「それと、本を売りたいということは何が違うのか?」

同じようでいて、違うような‥‥‥。

それは、地団駄踏んで、涙を流し、「どうにかして、本を広めたい」と苦しくつぶやく気持ち。一転、空に向かって両手を広げ、「本を読んでーーーっ!」と大声で叫びたい感情。

どうやったら本を広められるだろうか? 

一日中考えに考えつづけ、夜もろくに眠れない。ノートパソコンに張り付いて、ツイッターやフェイスブックに「なんて書けば広げられるか?」と考えてはつぶやき続け、周囲のうんざり顔さえ肥やしにするような。

ジリジリと焦燥に駆られ、なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ、と口の中がカラカラに乾いていく感じ。できることなら本をたくさん籠に詰め、背中に背負い、街を歩きながら「本はいらんかねぇ~いらんかねぇ~」と売り歩きたい。

「どうしちゃったの、和田さん? 大丈夫?」

心優しき人なら心配して、そう言ってくれるかもしれない。

私はその声にクルリと振り向いて、「本を売りたいではなく、本を広めなきゃ、なんですよ」と、答える。私が一緒に本を作った国会議員の人が、かつて「政治家になりたいではなく、ならなきゃ、なんですよ」と言ったように。

いったいぜんたい、どうして、そんなことになっているのか。ちょっとだけ語っていいですか? ちょっとだけ読んでもらえませんか? お願いします。

不安に感じていることを国会議員に直接ぶつけてみた

今回、衆議院議員の小川淳也さんの協力を得て、本を作った。映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』で取り上げられた人。国会の「統計不正」や「桜を見る会」の問題などで、鋭い質疑をしていた人だ。

私は何度も東京・永田町にある衆議院議員会館に通って、小川さんと対話を重ね、それを本に書いた。簡単に言えば、それだけのこと。

とは言え、私は政治記者でも、政治を学んだ者でもない。主にエンタメや相撲について書くライター。仮に政治に関する知識に、一般的なレベルというものがあるならば、かなり低い方だ。

床屋談義、という言葉がある。政治や世相に関する四方山話で、床屋で雑談する程度という意味だけど、どうにかそれぐらいな感じ。

そんな私が衆議院5期目(2021年9月現在)、プロ中のプロの政治家である小川さんと対話をしたのだ。

相撲についてではない。私の困ってることや不安なことをどうしたら解決していけるのか?について。小川さんの政策について。日本はこれからどうしたらいいのか?について。

税金、社会保障、ベーシックインカム、住宅、労働、ジェンダー、移民、沖縄、気候変動、エネルギー政策、コロナ、オリンピック‥‥‥等々を延々話し合った。

話し合ったと堂々書いたが、ほら、何も分からない私なのだから、最初の頃はただ座って聞いているばかりだった。

でも、それじゃ、本としてつまらないだろう? ライター根性が沸いた。なにより、生活者の立場から、あれやこれや物言いをつけたくなった。

それで、「対話」をするよう努力した。私は「生活の言葉」として問いかける。それに対して、小川さんは「政策の言葉」として語り、答えた。

しかし、そうした対話をするためには、私も持ち玉を作らなきゃいけない。生活者の立場からの言葉だとしても、「質問」として聞くためには、基礎である政治のことを少しは知っていないと問いかけさえ一切できない。話が進まない。だから勉強をすることにした。

最初はその勉強方法さえ分からず、途方に暮れ、ぼんやり虚空を見つめた。見つめていてハッとして、がむしゃらに本を読み始めた。朝から晩まで、コロナ禍で外にも行けないから、部屋の椅子に座って、床に寝っ転がって、とにかく起きてる間中ずっと本を読んで、赤ペンで線を引き、付箋を付けた。

でも、少しだけ読んで、ああ、これはなんか違う、とポイッとした本の方が多かった。実は本の選び方も分からなかった。今まで自慢じゃないが、政治や経済の本なんて読んだことがありゃしない。生まれて50数年目にして、初めてそんな本を読んだ。次々と。

読んで思ったのは、なるほどこうしたお勉強な本を読むって、新しい発見があるね、新しい発見があるって、楽しいことなんだねってこと。もっと早く知れば良かった。

それでも当然ながら、そんな付け焼刃の知識なんて、小川さんが政治家として、あるいは政治家になる前の官僚として(自治省の官僚として10年)、東大法学部の学生として、ずっと蓄えてきた知識や思考に追いつくはずもなく。

小川さんからしたら、私は何やらまん丸い動物がウゴーウゴー言ってるように見えて、聞こえたろう。それでも、そのウゴーウゴーに耳を傾け、ひたすら熱心に答え続けてくれたから、この対話は成立した。

人と「対話」を重ねていくのは案外むずかしい

その対話、さっき「小川さんは政策の言葉として答えた」と書いたが、徐々にそれだけではなくなった。政策を超えた政治信条、政治家である意義、人としての根本、それを言葉として語ってくれたこともある。

でも、それを聞く、語ってもらうまでの過程は、そんなに容易ではなかった。私と小川さん、それぞれ考え方や立場の違いをどう超えてどう理解し、信頼し合うか、その葛藤があった。

深刻ぶって聞こえるかもしれないけど、やってみて分かったが、人と対話を重ねていくって意外と難しい。

友達だってそうでしょう。最初からお互いを信頼して、深い話なんてできない。今日は何した昨日は何したみたいな話から始まり、やがて深く互いの本質に触れる部分を語り合えるようになる。それには両者ともに、ある意味、勇気や覚悟がいる。

イラスト・和田靜香

国の代表者である国会議員の小川さんと、国の主権者である私の場合は、さらに難しかったと思う。実際、小川さんは私との対話が過酷だったことから、「デスマッチ」と呼んでいた。

そもそも私はインタビュアーとして、「こんなこと聞いちゃっていいのかな?」とか、すぐに遠慮して引いてしまうヘタレで、その根底には自分でもホトホト嫌になる自信のなさ、みたいなものがある。おどおどビクビク。勝手にひとり葛藤してる間に終わっちゃう、みたいな。

でも、本が完成した後で、小川さんから「(質問することに)何の不安も抱かなくていい」という言葉を聞き、そうだったのか、と知った。小川さんも対話している間は、私がそこまで恐れていたことを知らなかったのだ。

対話を重ねることは容易ではない。人と人が信頼を築くということは、さらに難しい。ことに「政治家」と「主権者」という今回の対話の関係性においては、さらに難しい。政治の対話は下手すれば、お互いにマウンティングし合う不毛なものにもなりがちだからだ。

それでも「対話」こそが民主主義なんだ!

「じゃ、それで、何か社会が変わったの?」

そう問われたら、何も変わってないんだけれど、でも、決して無意味でもない。

「これは、主権者がその代表である国会議員と『対話』する本だ。たとえそこに意見の食い違いや対立があっても、『対話』は何かを生むのだと、希望を感じさせてくれる。最終的に、この『対話』こそが民主主義だと、筆者は気づくのだが、その過程で読者も、お上にお任せ的な政治ではない、一国の主権者としてのふるまいとはどういうものか考えさせられる」

これは、中島京子さんが毎日新聞(9月4日)に書いてくれた私の本の書評。中島さん、ありがとうございます。ほんと、そうなんです。

今(9月中旬)、連日のようにテレビやネットなどからは「自民党総裁選」というニュースなのか、噂話なのか、よくわからない政治の在り様が流れてくる。私たちはすっかり蚊帳の外だ。

その様子を見ていると、政治家と信頼関係を結ぶとか、対話するとか、絶対に無理!とあきらめ、うんざりし、知らん顔をしたくなる。どうせ変わらない、どうせ誰がやっても同じ、私たちには関係ない。アッカンベー、みたいな。

でも、でも、でも、あきらないで、うんざりしないで、思いきり顔を政治に向けて、変えていこうとすること。自分が選びたい誰かを能動的に選び、全力で関係していくことが大事だと、私は大声で言いたい。

だって、私は、小川さんとの「対話」を通じて、そう実感してきたのだから。政治は私が作るもの。誰かにお任せして、知らん顔するものじゃない。私が考えて、話し合い、私が決める。

骨身にしみて感じたそれを、何度も何度も、しつこいほど本に書いた。どうしても、それを伝えたかった。

ああ、だからなのだ。だから、だから、だから、私は泣きたいほど本を売りたい!

私は私の本を広めたい! 一人でも多くの人に読んでもらいたい!

本を読んで、私が骨身にしみたことを追体験してもらいたい!

もうじき、大きな選挙がある。衆議院選挙。11月頭とも末とも言われている。お願いです。本を読んで感じてほしい。そして、選挙に臨んでほしい。

「いやいや、本は読まずとも、和田さんの気持ちは、もう、よぉ~く分かった。政治の当事者になって、自ら考え、選挙にも行くから安心してよ」

あ、いや、そうですか? まぁ、そうおっしゃっていただけるなら、別に、ええ、読んでいただかなくても。でも、他のことも色々書いてあるので読んでいただけたら、ごにょごにょごにょ‥‥‥。

私は泣きたいほど本を売りたい!

タイトルは『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』と、ちと長い。長いけど、なんとか、読んでほしい。

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