「人生を賭けてインコを追い求める」 海外で「野生インコ」を撮り続ける写真家の情熱
おしゃべりや歌が得意なインコやオウム。日本では、おしゃべり上手なセキセイインコやほっぺのチークが可愛らしいオカメインコがペットとして人気ですが、原産国の海外では過酷な自然環境でたくましく生きている「野生のインコ」が存在します。
こうした野生のインコを追い求めて、10年近く撮影を続けている人がいます。写真家の岡本勇太さん(31)です。岡本さんは野生のインコを追ってオーストラリアに渡り、その生態を10年近く観察してきました。2018年11月には、その成果をまとめた写真集『インコのびのび』(文一総合出版)を出版しました。
岡本さんは、なぜ野生のインコを撮り続けるのでしょうか。その魅力について聞きました。
「野生のインコの群れを見て人生が変わった」
ーー野生のインコを撮影しているということですが、そもそもインコに興味を持ったきっかけは?
岡本:子どものころ、恐竜が好きでした。鳥の祖先が恐竜だったと聞いて、鳥を飼うことは恐竜を飼うと同じだと思いました。飼い鳥でポピュラーなインコに興味を持ち、高校生の時にオカメインコを飼ったのがきっかけです。「コンピー」という名前で14歳になりましたが、今でも元気に暮らしています。
飼い始めたとき、インコの飼育書を読んでみたのですが、オカメインコはオーストラリアの乾燥地帯にいるという漠然とした情報しかありませんでした。野生のインコの資料もなかったので、自分で野生のオカメインコを撮影したいと思い立ったんです。
ーー野生のインコと飼い鳥のインコはどう違うのでしょうか?
岡本:野生のインコは、飼い鳥と違って、自分で生き方を選択できます。どこに行きたいとか、パートナーは誰にするとか。もちろん飼い鳥に比べ、過酷な状況ではあるのですが、その中でのびのびと過ごしたり、大空を飛び回ったりして、たくましく生きているんですよね。そこに魅力があると思っています。
ーーその後、どのようにして野生のインコを撮影することになったのでしょうか?
岡本:高校卒業後、野生動物を取り扱う専門学校に進学しました。卒業後、一度は就職したのですが、やっぱり野生のインコを見たいと思って、1年ぐらいで仕事を辞めました。そして2009年に、オーストラリアのケアンズで野生動物ガイドとして活動している方達に連絡したところ、「今年は6000羽のセキセイインコが発生しているスポットがあるから来ないか?」とお誘いを受けて、21歳の時にオーストラリアに行きました。
オーストラリアには3週間ほど滞在しました。ケアンズから2000km離れたボーリアという町に、約6000羽のセキセイインコが発生したと聞いて行ってみると、1万羽近くのセキセイインコがいました。初めて野生のインコの群れを見たときはとても感動しました。自分の中では、人生が変わった瞬間だったと思います。
資金繰りの難しさ
ーーそれからインコの撮影にのめり込むわけですね。
岡本:その後、3回ほどオーストラリアに滞在し、野生のインコを撮影しました。そして2011年には、野生のインコたちの写真をまとめた、僕にとって初めての写真集を出版しました。おそらく、日本初の「野生のインコ」の写真集ではないかと思います。
しかし、オーストラリアに一度滞在するだけで数十万円近くのお金がかかります。資金的に野生のインコの撮影を続けていくのが困難になりました。そのため、活動をストップしていた時期もありましたが、科学雑誌「ニュートン」に僕の写真が掲載されたのをきっかけに、自分の中でくすぶっていたものが再燃し、もう一度やってみようと活動を再開したんです。
ーーお金の不安はどのように解消したのでしょうか?
岡本:ワーキングホリデー制度を活用してオーストラリアに滞在することにしたんです。やはり、1~3週間程度では、野生のインコがどのように暮らしているかが分からないんですよね。「撮影した場所にインコがいた」という写真になってしまい、野生のインコの生態までは理解できなくて。ワーキングホリデーなら、滞在の問題も資金の問題も解決できると思ったんです。
ーー現地ではどのような仕事をしていましたか?
岡本:平日はバナナファームで働いていました。バナナファームでは、バナナにカバーをかける仕事をしていました。雨季のスコールが大変でしたね。大雨の中で作業するので、車のタイヤが泥に埋まって動かなくなってしまったこともあります。あと、暑さが厳しかったです。汗疹(あせも)ができることもよくありました。肌は真っ黒になりましたね。
ただ、時給は良くて、22豪ドル(日本円で約1700円)でした。色々な国から出稼ぎに来ている人もいました。日本人でも出稼ぎでオーストラリアに渡る人が増えるかもしれませんね。
野生のインコを撮影する魅力
ーーオーストラリアのどこを中心にインコの撮影をしていましたか?
岡本:ケアンズやマリーバを中心に活動していました。ケアンズ市街にはキバタン(オウムの一種)の巣があり、マリーバにはアカオクロオウムやハゴロモインコなどがいて、都市部で暮らすオウムの生態を撮影していました。週末にはセキセイインコやオカメインコを撮影するために、500kmほど離れたアウトバック(乾燥地帯)に行って、撮影をしました。
ーー撮影で苦労したことについて教えてください。
岡本:車のトラブルは多かったです。時速100キロメートルくらいで車を走らせていたら、タイヤが破裂してしまって…。携帯電話も通じない無人地帯だったので、自分でタイヤを交換しましたが、このときはヤバいなと思いました(笑)。その他にも、数千キロの旅の末、せっかくオカメインコやセキセイインコを見つけても、一夜の雨で群れがいなくなってしまったこともありました。
ーー野生のインコを撮影していて、よかったと感じた時は?
岡本:オカメインコやセキセイインコを撮影しているところは無人地帯で、自分とインコだけで向きあえる距離感がいいんですよね。自分が群れの一部になるイメージで、インコがリラックスしている様子を撮ることができました。
撮影中に交尾を始めたり、お昼寝したりして、のびのび過ごしている姿を写真に収められたのは嬉しかったですね。インコが幸せそうにしていると、僕も幸せな気持ちになります。他にも、オカメインコやセキセイインコは生息地が広大なので、見つけた時の感動があります。宝探ししているような感覚なので、会えるととても嬉しいんです。
ーーそんな岡本さんが出版した写真集『インコのびのび』ですが、どんなところが見どころですか?
岡本:この『インコのびのび』はタイトルの通り、オカメインコやセキセイインコがのびのびしている写真を掲載しています。動物写真は目線がカメラに向かっているものが多いですが、僕は緊張しているインコの写真があまり好きではないので、リラックスした姿を撮影することを心がけました。食事をしているところや水を飲むところ、羽繕いする姿は、緊張していると見せてくれないんですよね。野生のオカメインコやセキセイインコのたくましさを見せつつ、のびのび暮らしているところを見てもらえたらと思っています。見た人のインコに対するイメージや世界観が変わるきっかけになれば嬉しいです。
ーー最後に今後やりたいと考えていることを教えて下さい。
岡本:セキセイインコの大群にまた会いたいですし、オカメインコの子育てもしっかり見てみたいです。また、鳥類の研究者と一緒に野生化が問題になっているワカケホンセイインコを撮影していますが、こちらも続けていきたいです。賛否両論あると思いますし、もしかしたら悲劇的な結末を迎えるかもしれませんが、日本の環境にインコがちゃんと適応して生きているということは、私にとって感動的なことなんです。
そして、3冊目の写真集を出したいですね。キバタンやモモイロインコなどオーストラリア全域で生息するインコやオウムたちを撮りに行きたいと思っています。いずれは南米でコンゴウインコを撮影したいですね。世界中のインコとオウムが野生でどのように暮らしているのか、人生を賭けて追い求めたいと思っています。