「中二病の黒歴史」さらけだした 「孤独とセックス」著者が18歳だったころ

現役での東大合格を目指し、高校ではクラスメイトと一度も会話することなく勉強に打ち込んだという坂爪真吾さん(36)。しかし、いざ迎えたセンター試験の当日にとった行動は、「答案用紙を白紙で提出する」というものでした。そこには、真の勝負を避けることで「ちっぽけなプライドを守ろう」という思いがありました。

坂爪さんは現在、障害者の性の問題に取り組む一般社団法人ホワイトハンズの代表理事を務めています。「性の健康と権利を守る」という指針を掲げて、障害のある男性の射精介助サービスを行ったり、風俗店で働く女性向けの法律相談を開いたりしている団体です。坂爪さんは講演会や研修で進行役を担うなど、先頭に立って活動しています。

しかし、その青春時代は「まさに暗黒だった」といいます。著書『孤独とセックス』には、現在の姿からは想像できない鬱屈とした日々が描かれています。いま振り返って、「18歳だったころ」をどのように捉えているのでしょうか。また、坂爪さんが考える「孤独」とは、どんなものでしょうか。

著書で孤独な学生時代をふり返った坂爪真吾さん

高校を「倒す」には「東大に受かればいい」

ーー東大合格を目指しておきながら、大事なセンター試験で答案を白紙のまま出すというのは、どんな気持ちでしたか?

坂爪:すっきりしましたね。白紙で出した、その瞬間だけでしたけど……。いろんな呪縛から解放された感じがありました。でも振り返ったら、ダメですね。台なしにしちゃったなぁと。ずっと東大を目指していたけど、センター試験の1カ月くらい前に「どうせ受からない。白紙で出そう」と思った。そこですべてが止まったんです。そう思った瞬間に、もう負けですよね。

ーーそもそも、なぜ東大にこだわったのでしょうか?

坂爪:高校の授業がすごくつまらなくて。やめたいと思ったこともあるんですけど、やめるって「逃げ」だなと。高校を「倒す」には、学校の授業を全部無視して、東大に受かればいいと考えたんです。発想が、完全に「中二病」でした。「自分は特別なんだ」と思いたい年頃なんですよね、思春期って。周りの人間は全員バカだと思いがち。あとは、地方という環境ですよね。地方から見て、東京への憧れもありました。東大を宗教みたいな感じで捉えていて、そこに入れば人生が変わると思っていたんです。

ーー高校時代はどのように過ごしたのですか?

坂爪:朝、学校に行ったら、誰ともしゃべらないまま授業を受ける。休み時間はひとりでいるのが辛いので、トイレで音楽を聴いて過ごす。昼休みも誰ともしゃべれないのが辛いので、体育館の裏で浜崎あゆみとかを聴きながら弁当を食べて。放課後は、図書館で勉強して帰るという毎日でした。

『孤独とセックス』の帯イラストは、漫画家・日本橋ヨヲコさんが担当した

ーーかなり暗い日々ですね。

坂爪:なかでもファッション関係ではトラウマがありまして。片手に手錠をつけて学校に通ってたんですよ。後期の「黒夢」だとか「BLANKEY JET CITY」あたりの影響だと思うんですけど、そういうのをカッコいいと思っていて。孤高な雰囲気は出ていたと思いますが(笑)

ーー著書『孤独とセックス』には、そんななか「セックスしさえすれば救われると思っていた」という描写がありますね。

坂爪:「誰からも認めてもらえない」という思いがあったから、そう思ったのでしょう。でも、男性がそれで「救われる」と思っても、女性からすれば「はぁ?」って感じですよね。そこに至るまでにいっぱいステップがあるのに、そこを吹っ飛ばしていこうと思っても無理じゃないですか。出会って、コミュニケーションして、信頼関係を作って、友達になってという。そこを男性は吹っ飛ばしがちですよね。それは怖い。

セックスという「ものさし」があると思い込んでいる

ーー同じ男性として当時を振り返ると、「童貞のままじゃ死ねない」という思いはたしかにありました。

坂爪:社会にセックスという「ものさし」が存在すると、勝手に思い込んでいるんですよ。経験の有無によって階級が作られると思い込んでいる。体験の時期や人数も含めて。誰もそんなことを言ってないのに、頭のなかで作った基準や壁にぶつかっているんです。

ーーなぜ、そうなってしまうのでしょうか。

坂爪:そういう教育がないんですよね。性に関してもそうですが、恋愛についても。他人とどう出会って、どういう風にコミュニケーションをしていくというのがまったくわからない状態。いってみれば、運転免許がないまま、みんな車を運転してるような状況です。それでは事故が多発しますよ。

浪人を経て東大に合格。当時の日記には「東大とセックスしてやったぜ! どうだ‼」と書いた

ーーご自身は「孤独」とどのように向き合っていたのですか?

坂爪:孤独な人は、自分が孤独だって思っていないんじゃないですかね。孤独にとらわれているというか、孤独であることが自分の価値みたいになっている。「群れないで単独行動をしている俺、すげー」って感じで。向き合うというよりは孤独に「逃げる」。そういう感じがあったと思います。人間関係を築いたりあれこれやったりというのを避けて、自分の殻に閉じこもって、ある意味、安全領域に閉じこもる。完全に「逃げ」だったと思います。

ーー「逃げ」だとすると、どうすれば、そこから抜け出せますか?

坂爪:ネットワークとかコミュニティというのは、無限に存在していると思っています。あとは、どれを選ぶかという話だと思うんです。たいていは「友達に誘われて」というつながりが多いと思うので、その前段階として、情報を集めることが大事だと思います。情報を集めていけば、おのずと付き合いが生まれてくる。自分の中で興味のある範囲の情報を集める。その情報量を増やすことが、行動の第一歩かな、と。興味があるものや好きなものを洗い出すんです。

ーー坂爪さんの場合は、どのようにして抜け出したのでしょうか。

坂爪:高校生のころ、社会学者の宮台真司さんに「どハマり」しまして。当時は「酒鬼薔薇事件」など学校の問題を取り上げていたので、本の内容を暗記するくらい読みました。大学に入ってからは、都立大学(現・首都大学東京)の宮台ゼミに潜り込んで、話を聞いてました。そういったところから人と話すようになりました。

ーー18歳のときの暗い日々は、現在の活動にどのような影響を与えていますか?

坂爪:「社会を変えたい」という思いを持つのは、孤独な人が多いんじゃないでしょうか。ひとりになって、頭のなかで観念的なことを考えるようになっていく。『孤独とセックス』のテーマのひとつに「孤独が社会性を育む」というのがあるんですけど、やはりそういう社会に対する思いは、孤独のなかから出てくるんじゃないかなって思います。

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土井大輔 (どい・だいすけ)

ライター。小さな出版社を経て、ゲームメーカーに勤務。海外出張の日に寝坊し、飛行機に乗り遅れる(帰国後、始末書を提出)。丸7年間働いたところで、ようやく自分が会社勤めに向いていないことに気づき、独立した。趣味は、ひとり飲み歩きとノラ猫の写真を撮ること。好きなものは年老いた女将のいる居酒屋。

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