黒猫のネクタイピンとスープストックの共通点「ちょっとしたことを面白がる心」

数年前に買った黒ネコのネクタイピン
数年前に買った黒ネコのネクタイピン

好きなアイテムの一つに変わり種のネクタイピンがある。本当に「ちょっとしたもの」だが意外とおもしろい。ネクタイをつける機会は会社員をやめてからというもの本当に少なくなってしまったのだが、ネクタイをつけたときの背筋がぴんと伸びる感覚は嫌いではない。

最近といっても数年前になってしまうのだが、ネコ好きなので黒ネコのタイピンを思わず買ってしまったことがある。誰かに自慢したくなるような素敵な買い物だったので、ツイッターに写真をアップしたところ思わぬ反応があった。

タイピンを作っている「giraffe(ジラフ)」というブランドの広報から、ツイッターをみたこと、僕の本を買って読んでいたこと、記事も読んでいるといった感想が書かれたメールが送られてきた。よければ今度の展示会にこないかという誘いも入っていた。

不思議な縁が重なる取材

giraffeを展開しているのは、社長の遠山正道さん率いるスマイルズという会社で、一番有名なのはSoup Stock Tokyoというファストフードチェーンだ。いろんなところに入っているから「あぁ、あのスープのところ」という人は多いだろう。彼はスープに始まり、ネクタイ屋、リサイクルショップと多様なビジネスを展開している。

一体、なぜ飲食と衣類、それも儲けだけ考えたら大きな収益にもならなさそうなネクタイを作るのか。前々から気になっている変わり種の経営者であり、会社だった。

変わっているといえば、彼らが作るネクタイもかなり変わっている。リバーシブルで使える両大剣タイ、明るいチェックやグリーン、レッドといったポップな色を多用すること、テーマにあわせて遊び心たっぷりのタイ——。もちろんベーシックなものもあるのだが、よくある主流のネクタイとは一線を画していた。

展示会で、連絡をくれた広報に会ったときにgiraffeのネクタイを何年も前から愛用していること、遠山さんの経営哲学に興味があるといった話をした。そこから話はどんどんと広がり、なんと数日後、たまたま出先で一人で飲んでいた遠山さんに合流する形で飲みに行くことになり、さらにインタビューの約束もそこで取り付けることができた。

ネコのタイピンをアップしてからほんの数日である。だいたい、不思議な縁が重なる取材はうまくいくという経験則がある。こんなことは滅多にないが、ちょっとした縁が重なっておもしろくなるぞと僕は思った。

ちょっとしたことを大事にする

予感通り、遠山さんのインタビューはとてもおもしろくなった。彼はこんなことを言っている。

《世の中のほうが右や左に動いていくじゃないですか。それを追いかけて右往左往するんじゃなくて、これからは簡単には流されない、自分たちらしさが大事になる。そんな時代になってほしい、と思っていたんです。》

《普通のことやって、売れてもいいんですよ。それなら上司も喜ぶし、株主も喜ぶし、みんなも喜ぶかもしれない。でも、さっきも言ったように世の中のほうが流れるわけです。最初はうまくいっても、ずっとうまくいくわけじゃない。八方塞がりになったときどうします?》
https://www.buzzfeed.com/jp/satoruishido/2018-giraffe

取材で接するビジネスパーソンをあえて分類すれば3種類にわけられると思っている。(1)言われた仕事をこなす人、(2)自分が突き詰めたいことを仕事にする人、(3)アイデアを形にする人だ。

(1)は世の中の流れを読むことに長けている。(2)は職人肌。(3)は内在的な動機を大事にできるタイプと言い換えることができる。

遠山さんはマーケティングから仕事を始めることはない、と言っていた。世の中にあわせるよりも、自分にとってちょっとした引っかかりであったり、ふと思いついたアイデアを大切にする。明らかにアイデアを形にすることを原動力にするタイプだ。

だからこそ、一見するとなんの関係もないスープとネクタイを結びつけて考えることができる。もう一つ付け加えると、「ちょっとした縁」も大切にしている人だと思うのだ。

良い感じで日本酒を飲んでいた飲み屋に僕が押しかけても、嫌な顔ひとつせずに受け入れ、インタビューでも用意してきた回答を話すのではなく、その場でじっくり考えながら予定の時間を超過しても話を続けていた。

ネクタイピンというちょっとしたアイテムが、ちょっとしたつながりを生み、ちょっとしたことをおもしろがる社長との出会いから話が広がっていく。

ちょっとしたことを大事にするということは、思わぬ方向に話が転がっていくのを楽しむ力があるということだ。ちょっとしたこと、言い換えれば偶然をおもしろがる精神は思わぬ出会いや楽しみを生むものだ。

ビジネスも僕が生きているニュースの世界もそれは同じだと思う。どちらも予定調和ほどつまらないものはないのだから。

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石戸諭 (いしど・さとる)

記者/ノンフィクションライター。1984年東京都生まれ。2006年に毎日新聞入社。大阪社会部、デジタル報道センターを経て、2016年にBuzzFeed Japanに移籍。2018年4月に独立した。初の単著『リスクと生きる、死者と生きる』が読売新聞書評欄にて「2017年の3冊」に選出される。

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