「人生、つまらない」と思っている高齢者にも笑いを! 「介護エンターテイナー」石田竜生さん

施設に通所する利用者の人たちと一緒に笑う石田竜生さん(右から2人目)
施設に通所する利用者の人たちと一緒に笑う石田竜生さん(右から2人目)

「介護エンターテイナー」という耳慣れない職業の石田竜生(たつき)さんは、富山県出身の35歳。新潟医療福祉大学を卒業後、1年間作業療法士として働き、その後吉本興業のタレント養成学校「NSC」に入学。卒業後、芸人を目指しながらデイケアセンターで作業療法士のアルバイトをしていたのですが、フリーの介護エンターテイナーとしてブレイクしました。

石田さんは全国各地の介護施設で、観客である高齢者と一緒に関節を動かす運動をしながら、オーバーリアクションなどによって、高齢者から笑いを引き出します。観客と一体になった参加型のエンターテイメントで、多くのメディアで紹介されました。

「人生のラストに笑顔と生きがいを」をモットーに、全国の高齢者に笑いを届けている石田さんに「介護と笑い」の関係について聞きました。

作業療法士から介護エンターテイナーに

――NSCに入った時は、吉本興業でプロの芸人になろうと思ったのでしょうか。

石田:大学を卒業後、いったんは作業療法士になったのですが、子供の頃からお笑い芸人になりたかったので気持ちがくすぶっていたんです。お笑い芸人を目指すなら本場・大阪だと思い、NSCの大阪校に入学しました。

でも、卒業してもプロの芸人になれるわけではなく、アマからプロを目指すことになります。週6日間、デイケアセンターで作業療法士のバイトをしながら、アマチュアのライブに出たり、オーディションを受けたりしていました。その頃は、ピンでやるかコンビでやるか、特に決めていたわけではありません。

――何がきっかけで介護エンターテイメントを始めたのですか。

石田:施設では体操を取り入れたレクリエーションをしていたのですが、友人の介護施設で利用者の人たちと一緒に体操をする機会があり、ネタを考えたんです。その時、スタッフの人に「あの人の笑顔を初めて見た」とか「あんなに体を動かせるとは思わなかった」と言われて、だんだん口コミで依頼がくるようになったんです。いままでに延べ150カ所を回りました。

高齢者のヤル気を引き出す参加型エンターテイメント

家に帰っても、同じ運動を続けられる

――アマの芸人時代と介護エンターテイナーでは、笑いの質は変わりましたか。

石田:吉本の場合、お客さんが若いので、介護施設とは笑いのツボが違うんです。高齢者の場合、一方的に面白いことを言って笑わせようと思っても難しい。一緒に体を動かしてもらうと、お客さんのやる気がみなぎって笑顔が増えてきます。

高齢者の方は体が思うように動かないことが多いので、家に帰ってもあまり面白いことがない。一日中どう過ごしていいのか分からず、施設に来ても自主的に生きがいをみつけることができません。いままでできていたことができないので、心を閉ざしてしまいます。

私が教えている体操は家に帰ってもできるので、帰宅してから体を動かしてもらえますし、できないならできないなりに楽しくて笑えるんです。認知症予防に関する知識も提供しています。

自分の笑いをブランディングする

石田さんのパワーが、高齢者の元気の源に

――プロダクションに所属しているのとフリーランスでは、どんなところが違いますか。

石田:フリーだと自由に自分の時間を使えますし、発信も思い通りにできます。プロダクションに所属していると、フリーランスより仕事量は安定しているかもしれませんが、必ずしも好きな仕事ができるとは限りません。

たとえば、私は、予算が少ない施設や地域の集まりに呼ばれることもありますが、プロダクションに所属していると、おそらくそうした仕事はできないんです。

「吉本興業の石田」としてではなく、ひとりの芸人として認められたいんですね。テレビなどのメディアだけが収入源ではありませんし、自分にしかできないことを突き詰めてブランディングすれば、おのずと仕事が入ってくると思います。

家にこもっている人も体を動かして笑ってほしい

――体操だけで新しい芸を生み出す難しさはありますか。

石田:体操は関節の動きなので、斬新なアイデアがどんどん生み出せるわけではありません。でも、私にしかできないコミュニケーション、つかみや伝え方、接し方などがあります。空間や場の雰囲気を作るだけでなく、なぜやるのか、動機づけのため目的を説明しないといけません。ただの体操で終わらせたくないですね。

――YouTubeやブログでの発信やDVDの製作もしていますね。

石田:講演会やセミナーでは、その場にいる人にしか伝わらない。これからは、そこに来られない人にも笑いを届けたいんです。家にひとりでいて、やることがなくて困っている人や、歩けない、車がないといった理由で施設や地域の集まりに行けず、家でボーッとしている人もたくさんいます。

デイケアセンターで体操に参加している時だけでなく、自宅でも継続して体操してもらわないと、転倒予防や認知症予防にならないんです。

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渡辺陽 (わたなべ・よう)

大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく伝える」をモットーに医療から気軽に行けるグルメ、美容、ライフスタイルまで幅広く執筆。医学ジャーナリスト協会会員。ダイエットだけでは飽き足りず、マラソン大会出場を目指して、パーソナルトレーナー指導のもと、ひとり黙々とトレーニングに励んでいる。

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