日本一高齢化した街「夕張」の映画を作る伊藤詩織さん「自分が失いかけていたホームを提供してくれた」

夕張を舞台にしたドキュメンタリー映画を制作中の伊藤詩織さん(撮影・萩原美寛)
夕張を舞台にしたドキュメンタリー映画を制作中の伊藤詩織さん(撮影・萩原美寛)

ジャーナリストの伊藤詩織さんが、新作ドキュメンタリー映画『ユーパロのミチ』を撮影中です。舞台は、北海道の夕張。日本一の高齢化・財政破綻・人口減少で知られる街です。性被害の告発で多くの人に知られることになった伊藤さんですが、じつは2015年から夕張を取材してきました。

美容院を切り盛りする女性や元炭鉱夫、前夕張市長などとの交流を主軸に、短いニュース報道だけは知ることのできない夕張の実像を描いています。撮影は、今年の秋まで続けられる予定で、今、追い込み作業中です。なぜ、夕張を舞台に選んだのでしょうか。

『ユーパロのミチ』予告編

孤独死は「つながり」が切れたときに起きる

「2015年、ちょうど自分の人生の中で色んなことがあって、当時の事件の話になっちゃんうんですけど・・・警察に行ったら、日本のメディアでは働けないと言われて、海外のメディアとどういう風に仕事をしていこうかなと考えたんですね。

ちょうどそのとき、ロイター通信で孤独死の取材をしていて3分のニュース映像で届けるという形だったんですけど、もっと長いフォーマットでじっくりと問題を見つめるものをやりたくて。それにはニュースではなくドキュメンタリーが最良だと思ったんです。

海外の報道から注目を集めている日本の問題が、高齢化社会や地方消滅、孤独死などのテーマなので、そのアングルで夕張の話が出てきたんです。そこで、初めてその年に夕張を訪れました」

伊藤さんが、長年夕張に通って感じたことは、日本が抱える諸問題の本質的なことが夕張にあるのではないか、ということでした。

「日本の孤独死は、高齢化の問題ではなくて人のつながりの問題だと、取材を通して学びました。孤独死は、リタイヤや熟年離婚が増える年代に多く見られます。その観点で夕張を見たら、コミュニティーでの繋がりが強く、そこが魅力的だなと思って、気づいたらもう5年目になっていました」

「自分が変えようとしなければ何も変わらない」

彼女自身の人生が揺れ動く中で、夕張の人たちは、取材だけでなく、彼女にとってとても大きな存在になっていきました。

「仕事だけでなく、自分のホームとして、この場所(東京)で暮らせなくなるかもしれないという不安がありました。そんなとき、夕張に行くと、『うちでご飯食べていきなさい、泊まっていきなさい』と、自分が失いかけていたホームを提供してもらって」

自分の告発の反響が大きく、日本では暮らしづらいと感じたときでも、夕張の人々は「おかえり」と言ってくれました。そこには、ご飯を食べて、ビールを飲んでという日常がありました。

「ドキュメンタリーを撮らせていただいているうちに、いつの間にか、助けてもらっていたというか」

夕張には、そのフィールドを自分ごととして受け止め、自分が変えようとしなければ何も変わらないという気持ちを促す力がある。伊藤さんはそう話します。そのような考えは、自分が世の中に何かを発信していくにあたって大きな影響を受けたとも語りました。

「夕張に地方医療をしに来た医師の家族がいたんです。でもこの前、奥さんに会ったら、婦人科の先生だったのに保育園の園長先生になっていたんです。話を聞くと、自分が好きだった里山保育をしている保育園が、園児が足りなくて閉園してしまった。なんとか、存続させたいと、勉強して保育士の免許をとって開園したというんです。

東京だと当たり前のように何でも便利な環境でそのなかで心地よく生活できますが、夕張では、不便な分、自分で考えて作っていかなきゃいけない。それがかえって、人をすごく元気に活動的にしているんです。」

「死ぬことを学んでいる街」

現在撮影中のドキュメンタリー映画『ユーパロのミチ』のサブタイトルには「MY BEAUTIFUL DYING CITY」とあります。これはいったいどういう意味を持つのでしょうか。

人間にも生と死があるように、街にも生と死があります。死にゆく街を美しいと思えるかどうか。その感性はそれぞれの人に委ねられています。

「取材を初めた当初、『Yubari Japan: a city learns how to die』というタイトルが付けられていたガーディアンの記事を目にしました。死ぬことを学んでいる街。この言葉が衝撃的だったんです。その英語がすごく頭に残っていて。

確かに、人には寿命があるし、夕張は人口が減っているけど、変わらないものがある。だから、あのサブタイトルは、そういった現状はあるけれど愛おしい、ガーディアンの記事のタイトルのように呼ばれる一方、それでも変わらない美しさがあるという意味を込めました」

5年間の取材の集大成として、完成間近のこの映画。でも、5年と言わず、夕張の人々をこれからもずっと定点観測し続けてほしいものです。

この映画は、モーションギャラリーで、クラウドファンディングを実施中。目標は500万円で、現在まで約100万円の支援金が集まっています。

※クラウドファンディングは、目標金額を達成し、2019年7月3日23:59に終了しました

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