NYでジャンルを超えた表現目指す 表現師・三宅由利子さん
三宅由利子さんは、ダンス、舞台、映画とジャンルにとらわれず、「表現師(英語では、Storytellerが一番近い表現だと語っています)」として、ニューヨークを拠点に活動を続けています。近年は、オフブロードウェーのダンスパフォーマンス「CLEOPATRA Experience」に出演。2012年には、イギリスの劇団「ホール・ホグ・シアター」が映画「もののけ姫」を舞台化した作品「Princess MONONOKE~もののけ姫~」に、唯一の日本人キャストとして抜擢(ばってき)されました。ロンドン公演のほか、翌年の日本公演にも出演しました。常に「自身にしかできない表現とは何か」を問い続けています。
どんな表現もできる「表現体」になっていたい
――現在はどのような活動をされているのですか?
三宅: 10月に出演していたダンス公演「Flight: Tone like a Rose」(ニューヨーク市内とウィスコンシン州マディソンで計8公演)が終わって、今はこれから関わる二つの舞台のために動いています。一つはイギリスでの舞台で、最初にロンドンで公演して、その後に日本でも公演する予定です。11月はその関連でイギリスとニューヨークを行き来していました。まだ詳しくは言えないところがありますが、来年上半期には発表になります。
もう一つは、来年春にニューヨークで公演予定の舞台で、シェークスピアの「ロミオとジュリエット」です。演出家がずっと温めてきたもので、お芝居だけでなく、ダンスの要素をふんだんに盛り込みたいという意向があって、ジュリエット役のオファーをいただきました。
ダンスの技術が生かせるので期待していますが、同時にセリフは原作のままの英語を使うので、今から勉強を始めています。英語を使って芝居をする身としては、シェークスピア劇はやりがいがあるし、友達からは「ロミオじゃなくて?」とからかわれましたが、ジュリエットは私にとってはドリームロールの一つです。2020年はいろいろな意味で挑戦の年になりそうです。
――ご自身では、ダンサーでも俳優でもなく「表現師」という肩書を使っていらっしゃいますが、どのような意味が込められているのでしょうか?
三宅:ジャンルの垣根を超えた「表現」をしたい。例えば、オーディションで演出家や振付師から、こう歌えるか、こう踊れるか、こういうダンスを踊れるか、と求められた時、すべてに「YES」と言って、どんな表現もできる「表現体」になっていたいと思っている自分がいるんです。
私は、バージニアの大学でダンスを専攻し、卒業した後に、ニューヨークに来ました。当初は、世界中から人が集まって、表現を競うこの場所で、自分は何をやりたいのか、独自の表現は何か、ということを突き付けられました。まして、ここでは外国人になるので、ここに住んでプロとして活動するためには働けるステータスが必要になります。その取得には時間もお金もすごく費やします。そんなに大変な思いをしてまでも、この場所で何をやりたいのか、と自問自答しました。
最初にジャズダンスを始めて、もっと表現を高めたくてバレエも習いました。それ以降も常に表現の幅を広げたいと考えて、歌、芝居を学び、アメリカの大学に来てからはアフリカンダンスやカポエラを習い、ニューヨークに来てからも日舞、殺陣を習っています。そうやって、表現の幅を広げてきましたが、ここに来て、何がやりたいのかと自問自答した時に、ジャンルの垣根を超えた「表現師」という言葉が降ってきました。
自問自答して感覚をリセット
――「表現師」という言葉は、職業の形にとらわれない現代らしい働き方を表しているようにも感じます。
三宅:「何をやっているの?」とよく聞かれますが、そのたびに「いろいろです!」と答えています。今の時代、二足のわらじ、三足のわらじが当たり前になっている一方で「これ一本で食べていけたら一人前」という考えもあります。その考えはよく分かりますが、自分には当てはまりにくい。そもそも仕事はフリーランスなので、プロジェクトに参加していれば収入があるし、なければゼロです。舞台に立つ仕事以外にも、通訳や翻訳の仕事もするし、私の中では、どれも表現の一つ。自分が目指している表現の肥やしになると思っています。
――一つの役を何百人がオーディションを受けて勝ち取るという世界。そこで生き抜くために大切にしていることは何ですか?
三宅:ひとりの時間を大切にしています。心掛けているのは、自分の心の声が聞こえるようにしておくことです。小さなところでは、自分は何が好きなのかをきちんと把握しておくこと。それは食べ物でも、本でも人でも何でもいいのですが、自分が何に対して好きという感情を抱くのか、きちんと把握して、それに向かっていることを確認します。
今、何がしたいのかもそうだし、どこに向かっていきたいのか、5年後、10年後にはどうなって、人生の最後にどうなっていたいかも含め、実は心がすでに知っていることは多々あります。オーディションを受ける時や「ここぞ」という時、モチベーションがすごく必要な場面で、そうした気持ちがすごく大事になります。今やっていることが好きなことだと分かっていても、心に問い掛け続ければ、もっと好きなこと、もっとワクワクすること、さらに、素敵な物語に出会うかもしれないと思うんです。
ひとりで家にいる時は、寝ているか、ユーチューブを観たり、映画を観たり、漫画を読んでいることが多いです。これもパフォーマンスに多大なる影響を与えているんです。ユーチューブを観ていると、みんながどんなことに興味を持っていて、何にざわついているのかよく分かります。そうやって世の中のニーズを知ることができて、それを意識した上でオーディションを受けたり、自分がプロジェクトを作るときには参考にしたりしています。
映画はもちろん、漫画も出てくるキャラクターを見て、演じるならばセリフをこう紡ぎたいとか、こう動きたいと考えています。そういうことをひとりの時間にやって、感覚とか考えを自分のものに、しっかり戻すことが必要です。寝るのも大好きなのですが、それもしっかりと寝て、自分の感覚をきちんとリセットしているところがあります。
――これからの目標は何ですか?
三宅:ハリウッド映画で主演を張りたい、時代劇に出たい、というのはずっとあります。あと、物語はセリフでなくても体の動きで語ることができる、と思い付きました。「背中で語る」「目は口ほどにものを言う」と言うじゃないですが、だから、セリフを使わなくても圧倒的な表現力で物語を成立させられるようになりたいな、と最近思いました。
いつも、そうなのですが、思い付いて、パッとそこに向かっていく。「変わっているね」と、小さい頃から言われています。ある時期までは、何でそう言われるのか全然分からなくて、年齢を重ねて、だいぶ周囲を冷静に見られるようになって、言われていることを理解できるようになりました。
ただ、ニューヨークには、変わっているというか、ユニークな人が多いので、私ぐらいのユニークさなんて普通です。当たり前に溶け込ませてくれる。日本にいたら、違う生き方をしていたのかなとは思います。そして、こんなだから、ここにたどり着いたんだろうなと思っています。