還暦を迎えたみうらじゅんに聞く 「俺は趣味がないから、老後が心配だ」
「マイブーム」や「ゆるキャラ」の生みの親として知られ、その独特の世界観で人々を魅了してきた、みうらじゅんさん。還暦を迎えた2018年の1~3月には、神奈川県川崎市の美術館で、これまでの創作活動を振り返る「みうらじゅんフェス!」が開催されました。「ひとりの時間を楽しむ天才」とも思えるみうらさんに、これまで取り組んできたことやこれからの人生をどう過ごしていこうと考えているのか、じっくり話を聞きました。そのインタビューの模様を2回に分けて掲載します。
*後編「自分はないほうがいい」はこちら。
昔から人に見せるのが前提だった
――みうらさんはこれまで、「いやげ物」(もらっても全然うれしくない土産物)など色々なものを集めてきましたが、やめたくなったことはないんですか?
みうら:俺は、俺をしつけ直しているんです。「修行」みたいなもの。でも苦行じゃないんだ。修行って、思い込めば続けられるんじゃないかと。俺は無理して、みんなが欲しがらないものを買ってきた。実は、誰よりもまともなんだ。
旅先で「こんなもん、誰が買うんだ?」ってものを見つけたら、すごく気になるのよ。「こんなの作ってて、大丈夫かよ」って、大きなお世話が出るんだ。正直、欲しくもないし、いらないよ(笑)。でも、自分が欲しいものを買って人に見せるのは、「趣味の人」のやることだから。
――みうらさんは「趣味の人」じゃない?
みうら:俺、全然趣味はないんですよ。「趣味の人」の話は誰だって聞きたくないでしょ(笑)。やっぱ、それより苦しそうな話を聞いたほうが人は面白いんじゃないの?
――そう言われてみると、そんな気もしてきます。
みうら:俺、ずっと昔から「人に見せる」のが前提なの。『見せ前』人生(笑)。小学校一年生で仏像写真のスクラップブックを始めたんだけど、それも趣味でやってるつもりは全然なかった。友達がうちに来たとき喜ばすつもりでやってたんだ。友達から「このページは見にくい」とか言われたら、そのつど修正してるのよ。子どもの頃からあざといでしょ? 決してピュアじゃない。
――自分自身をどう見せると面白いか、ということも考えている?
みうら:ひらがなの「みうらじゅん」。俺は、アイツをプロデュースしてるつもりなんだ。うちの事務所の唯一のタレントだから。アイツは変な人じゃないとダメでしょ。変な人なのに、意外とマトモなことも言う。そういうキャラなんだ。還暦になったから最近では「ジジイ」ってのも使える。頑張って人前ではサングラスしてるんだけど、老眼であんまり見えないもん。もうきついっすよ(笑)。でも、きついってキャラも「売り」にはなるんじゃないかと。誰に売ってるのかわからないけどさ。
不安を「不安タスティック!」に
――みうらさんは就職しないで、ずっとフリーで活動しています。不安を感じることはなかったですか?
みうら:すごい不安ですよ。でも俺、学生時代に就職活動したことがあって。サンリオを受けたんだけど、面接で「僕はサンリオで牛のグッズが出したいです」って言ったんだ。そしたら面接官に「それは自分でやってくださいね」って言われた。正しいことを言われたんだよ(笑)。そのとき、気がついた。「そうだ、もう自分でやるしかないんだ」って。
――その後、ずっとひとりでやってきた?
みうら:フリーで自由業をやってきました(笑)。でも、ひとりでやったことはほとんどないですよ。いつも誰かと一緒にやってると思ってる。ひとりだと不安だけど、同士を見つけると「不安タスティック」になる(笑)。不安が楽しいんだって自分に言い聞かせることが大切ですよ。
――いまも不安を感じることはありますか?
みうら:はい。だって、この年だったら、みんな用意されている趣味があるでしょ? よく分かんないけどゴルフとか。俺はさっき言ったみたいに趣味がないから、老後が本当心配なんだ。
「いやらしいこと」を考え続けないといけない
――でも、みうらさんは「ひとり」を楽しむプロではないですか?
みうら:それって、オナニーばっかりしてるイメージがあるってことでしょう?(笑)でもね、オナニーとて、年をとるとなかなかしなくなるんですよ。これは本当に恐ろしい孤独だよ(笑)。みんな年をとってもオナニーだけは「やれる」と思ってるじゃない。俺もずっと思ってたよ。
――年をとったと感じたのはいつでしょうか?
みうら:ここ最近ですかね。「おや?」って思い始めた。これまで常にいやらしいことを考え続けてきたから、「俺は大丈夫!」って思ってたんだけど、体のほうがついてこない。逆に頭は冴えてて、前より全然いやらしいんだけど、残念だよね(笑)。
――エロ写真を切りはりしてノートにまとめる「エロスクラップ」はまだ続けていますか?
みうら:それは、意地でやってます(笑)。美大生のころからずっと続けてるんで。最近ちょっと肩が痛くて「やばいかな」って思ってたけど、それをやめると現役感が損なわれる気がして。俺にとって「現役」というのは、「実践」じゃなくて「スクラップ」のことですから。どんなことでもやめようとすれば、意外と簡単にやめられるでしょ。禁欲生活も始めたらできると思うんだ。だから心して、いやらしいことを考え続けないといけないと思ってますよ。
エロスクラップのため、紙媒体に頑張ってほしい
――今後も「エロスクラップ」を続けていきますか?
みうら:続けると思いますよ。いくつになっても「まだ煩悩あるのか」って言われなきゃ面白くないでしょ。いい年になってまで「どうエロ写真を再構成して人に見せるか」を考えなきゃならないのもどうかって思うけどね・・・。だから、俺が生きてるうちは、紙媒体はあってほしいと切望してます。あと20年は持ってほしいなぁ。そのあとはどうでもいいから(笑)。DANROは朝日新聞の運営って聞いたけど(取材時)、新聞社も大変だよね。今の若い人は新聞読まないでしょ。「なんで、あんなにでかいんだろう?」って思うじゃない。
――若い世代は、あまり新聞を読まなくなっているかもしれないですね・・・
みうら:特に、新聞は堅いですからね。昔、朝日で連載してたことがあるんだけど、ずっと自分の職業を「イラストレーターなど」って書いていたのに、そんな職業はないからって「など」は取られました(笑)。俺は「など」があったほうが説明がつきやすいんだけどねぇ。
――逆に、みうらさんは、紙の新聞にどんな魅力があると思いますか?
みうら:そりゃまず、弁当を包むのにいいでしょう。実は昨日、うちの子どもの小学校の運動会だったんだけど、周りを見ても、みんな弁当を新聞紙で包んでるんですよ。新聞がやっぱいいんだ。どっから仕入れてきてるんだろうと思いましたよ。
――ほかに、紙はネットと比べてどういう点がいいでしょう?
みうら:この前、ある新聞に二面見開きで、俺が寝っ転がっている写真がダーンって載ったことがありましてね。そのときの親戚のウケったらなかった。新聞の見開きって、昭和育ちとしてはものすごい威力あるんだ。もうほんと、俺がノーベル賞を取ったくらいの反応でしたよ(笑)。あのインパクトは、ネットでは出せないでしょ。担当の人は若かったけど、「これぶち抜きで二面載せますから」って言いながら、半笑いだったから。きっとそのおかしさがわかってたんだよ。
*後編「自分はないほうがいい」はこちら。