カジノの女王「ルーレット」 ディーラーは狙った場所に玉を落とせるか?
世の中では何もかもが機械化されているが、カジノも例外ではなくなっている。
インターネットによるバーチャルなカジノはもとより、建物を構えたリアルなカジノなのに、中身は全て機械というものもある。例えばニューヨークにある「リゾートワールド・カジノ・ニューヨークシティ」。ここには人間のディーラーが一人もいない。
カジノの経営者にとっては、人件費の高い人間と比べ、機械は文句も言わずに24時間働くし、パワハラを訴えたり労働組合を作ったりする心配もない。しかも一度設置すればメンテナンス以外は放っておけばよく、手間もかからず儲けられるのだから、好都合である。
だが、そんな風潮に安易には流れないのが、ラスベガスだ。一部のカジノを除き、ラスベガスでは今も人間のディーラーが玉を投げるのが当たり前だ。
ルーレットは「カジノの女王」
ルーレットとは、赤と黒に色分けされた「1」~「36」までの数字に、ヨーロッパでは「0」、アメリカでは「0」と「00」を加えた回転盤を使って遊ぶゲームだ。ディーラーが回転盤をまわして、白い玉を投げ入れる。それがどの数字に落ちるかを、プレイヤーが当てるギャンブルだ。
ゲームのはじまりから玉が落ちるまでのドラマチックな展開や、色とりどりのチップがテーブルに咲き乱れる様子から、ルーレットは「カジノの女王」と言われてきた。主役はもちろんディーラーだ。
ルーレットは映画やドラマにも登場し、鼻持ちならぬ金持ちが天才ディーラーに転がされたり、主人公が勝たせてもらったりするのが定番だ。
もちろんドラマは作り物で、過剰な演出がなされているが、似たようなことが実際のカジノに全くないかといえば、そういうわけでもない。
「9」だけ誰も賭けていないテーブル
ラスベガスのカジノホテル「ベラージオ」に来ていた時の話である。
ベラージオは、ホテル前に作った巨大な湖で行われる噴水ショーで有名で、歌舞伎役者の市川染五郎さんもその中で興業を行ったことがある人気カジノだ。
さすがラスベガスで一、二を争う高級カジノだけあり、どのテーブルも裕福そうな人たちで賑わっていた。その中に、お客さんが鈴なりになっているテーブルがあった。
色とりどりのチップがテーブル全体を覆うほどまんべんなく賭けられ、まるで花が咲いたようになっていた。
たくさんのチップがてんこ盛りになっているため、てっきり全部の数字に賭けられているのかと思いきや、よく見ると「9」にだけ賭けられていない。なぜかと思い、それまでの結果を映す電光掲示板を見ると、一番上に赤い「9」の文字が表示されていた。
直前のゲームで「9」が出たことを意味していた。つまりこのテーブルのお客さんは、同じ数字が二度続けて出ることはないと考え、「9」を避けていたというわけだ。
ディーラーが次の玉を投げる体勢に入った。
近くで見ていると、今まさに投げようとした瞬間、彼が「9」のあたりをじっと見つめたように見えた。もしや!? と思った。
「Wait Wait!(ちょっと待って!)」
ぼくは咄嗟(とっさ)に声を掛け、「9に全部!」といって25ドルチップを1枚投げた。
「OK Fine!(よし、わかった!)」
ディーラーはぼくのチップを「9」に賭け、玉を投げた。
そして落ちた数字を見て、「Jesus!(惜しい!)」と叫んだ。
玉は「28」で止まっていた。「28」は回転板で「9」の隣の数字である。
ディーラーはぼくと目を合わせ、いかにも残念といった顔をした。その表情を見て「やっぱり狙ってくれたのでは……」と思った。
「ディーラーは狙った数字に玉を落とせるか」というのは、ギャンブラーにとって永遠のテーマだ。「そんなこと出来るわけがない」「そんなのファンタジーだ」というのが大方の意見だろう。
しかし「28」を実際に当てた人がいるのに、それを差し置き、外れたぼくに向かって「惜しい!」ということ自体、そもそもおかしい。
ぼくは思った。彼がそういうリアクションをしたのは、本当に「9」を狙ったからこそ、つい本音が出てしまったのではないか。
むろん、ディーラーにそうした技量があることの証拠を見せろと言われても無理だが、ラスベガスのディーラーが見せてくれた演出は、こんなものでは終わらなかった。
この続きは、次回のコラムで書こうと思う。