座れる通勤電車は「ひとり」で集中できる恰好のワーキングスペース

(イラスト・古本有美)
(イラスト・古本有美)

家には家族がいるし、会社にも当然人がいるので、日々の生活でひとりになれる時間は案外少ないものです。しかし、ひとりきりで考えごとをしたり、何かしらの作業をしたりする時間は、私の人生においてなくてはならないものです。そのため、毎日の通勤電車でどう過ごすかが非常に重要となっています。

通勤電車ではとにかく座るように

毎日の通勤時間は長い方だと思います。大学で上京した頃からずっとこの距離感を往復しているのでもはや慣れてしまっているのですが、それでもやはり長いです。だったらこの時間を有効に使おうと、今はなるべく当駅始発の電車に乗るようにしています。

幸いなことに通勤の最寄り駅がターミナル駅なので、当駅始発の電車がわりとよく出ます。通勤時間帯だと、電車が着く前からホームに並んでいないと席が埋まってしまうので、その分時間が多くかかってしまうのですが、それを上回るほどの恩恵があることも確かです。

電車の席に座り、イヤホンで好きな音楽を流せばそこはひとりだけのワーキングスペースに様変わりします。隣に態度の悪い人でも座らない限り、物を書いたり本を読んだり、パソコンで作業したりする程度のゆとりは生まれます。

朝の電車だとぐうぐうと寝ている人も多いですが、私はほとんど寝ることもなく、仕事に関係のない本を読んだり、文章を書いたり、あるいは間に合っていない仕事をしたりと、普段なかなかできない活動をする時間に充てています。

電車では不思議と集中力が高まります。もしかすると電車の揺れがちょうどよい影響を与えているのかもしれませんが、「制限時間」という要素が大きいのではないかと思います。当たり前ですが通勤電車の場合、降りる駅が決まっているので乗車時間が固定されています。この限られた時間をいかに有効に使うかを常に意識しつつ、あたかも試験問題を解くときのように制限時間と戦っているから、自ずと集中力が高まるのではないかと考えています。

実際、最後のひと駅の頃には試験終了間際のごとく、残り数分で作業を完了し、ぎりぎり滑り込みセーフといった綱渡りの行動をとることも多いです。間に合わずに、あとちょっとのところで駅に着いてしまうと、ホームのベンチに座って残りを仕上げることもたまにあります。

電車内における作業環境の構築が重要

こうなってくると電車の座席でいかにスムーズに作業できるか、環境づくりが重要となってきます。自ずと膝の上での作業に適した道具を選ぶようになってきました。

かばんは膝(というか腿)の上に置いても安定感のある形態が良いので、ふにゃふにゃしたナイロン製のものよりもかちっとした素材で、しかも側面がでこぼこしていないものを持ち運びがちになっています。

ノートPCも大きすぎると幅をとるし何となく周囲に圧迫感を与える気がするので、もともとは13インチだったのを買い替えのタイミングで12インチのMacBookにしました。たった1インチの差ですがこの微妙な差はけっこう大きいと感じます。これ以上画面が小さいと作業しづらくなるので、私にとってはこのサイズがちょど良い大きさです。ただしこの頃はMacBookよりも新型iPadを持ち歩くことが増えました。こちらの方が持ち運びやすいし、起動も早いので電車ワークにはもってこいなのです。

ノートや手帳の類いも膝の上で広げやすいかが基準となってくるので、広げた時にせいぜいA4サイズに収まるA5サイズ前後のノートや手帳へと移行していくことになりました。また最近では硬めのバインダーにA4の紙を挟み込んで使うこともしています。これだとバインダー自体が硬めの下敷きとなって書きものがしやすいのです。

また、集中するためには音楽を聞くことが重要なので、イヤホンは欠かせないアイテムです。コードが絡まったり、ショルダーバッグやら冬はマフラーやらとこんがらがったりするのに嫌気がさして、ワイヤレスに変えました。AppleのAirPodsも良いのですが、もう少しいい音で聴きたくて試行錯誤をくり返し、ようやく納得のいくワイヤレスイヤホンを手に入れました。

こうして環境も整い、電車の中はかなり集中して作業のできる自分ひとりのワークプレイスへと変貌しました。会社への往復にかかる1時間超の時間はいまやかけがえのない時間となっています。

思い立ったが大船へ

ある日、午後の時間が空き、さてどこで過ごそうかと思った時、ふと電車で大移動することを思いつきました。やらねばならない仕事はたくさんあったのでどこかのカフェでも、と初めは考えたのですが、いや待てよ、電車でやった方が集中できるのではないかと思い直し、やや長距離を移動することにしました。その時は新橋か浜松町あたりにいたので、京浜東北線に乗って大船まで行くことにしました。

京浜東北線というのは埼玉の大宮駅から東京駅を抜け、横浜駅を通り終点の大船まで片道で2時間ほどの道のりを走る電車です。正確には横浜駅〜大船駅間は根岸線と呼ばれます。停車駅も多く、都内では田端から品川まで山手線と同じ駅を通ります。急いでいる人にはあまり向かない電車かもしれませんが、揺れも少なく音もうるさくないので、作業をしながらのんびり行きたい時にはうってつけの電車なのです。

そういうわけで京浜東北線に乗って終点の大船を目指します。品川から先は山手線と袂を分かち、蒲田、川崎を過ぎ横浜へと進んでいきます。ふと目を上げると、やたらと傾斜のきつい街並みが窓外に広がってきて、これを見ると神奈川へと足を踏み入れたことを実感します。横浜を過ぎて電車はさらに進み、ついに終点の大船へ着きました。ここまで来ると鎌倉駅ももう少しです。

大船駅で降り、しばしあてもなくぶらつきます。大船と言えば、大船観音寺にある巨大な白い観音像がインパクトあります。駅西口から徒歩で5分ほどなので、大船に来たらぜひご覧いただきたいものです。さて、ここらで居酒屋にでも入ってちょいと一杯といきたいところですが、残念ながらまだ仕事が残っています。後ろ髪を引かれながらも上りの京浜東北線に再び乗り込み、集中モードへ。

横浜を過ぎ、徐々に東京に近づくにつれ乗客も増え、何だか気ぜわしくなってきます。どうも東京というのはあわただしくていけない、などと知ったようなことをつぶやきつつ、電車は山手線エリアへと突入していくのでありました。

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松本宰 (まつもと・おさむ)

編集者。住まいのマッチングサイト「SUVACO(スバコ)」とリノベーション専門サイト「リノベりす」の編集長。住宅に限らず、己が心地良い居場所を探し求めてさまよう日々。好きなものはお酒と生肉とラーメン。

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