バイトに落ちたライター未経験女子、ひたすら物件を愛でる…謎の不動産エンタメサイト「物件ファン」編集長インタビュー

「物件ファン」のサイトから
「物件ファン」のサイトから

「あけまして、シンプルな部屋。」

お正月に更新されたとおぼしき、賃貸物件の紹介記事のタイトルです。こんなちょっとへんてこな不動産に関する記事が集まるサイト「物件ファン」を知っていますか?

ひとクセある物件が集まっているのはもちろんなんですが、でもそれだけじゃありません。その物件を説明する文章が、これまたなんとも言えないユニークさを放っているんです。

ハローハロー!
マイスイートルーム!
どうしてこんなに
チャーミングなんだい?!

特別な魔法なんて
かけた覚えは全く無いよ。
でもね、
寝室スペースへの区切り、
ここだけちょっと特別で、
そう、とんがってるの。

「物件ファン」のサイトから
「物件ファン」のサイトから

こんな書き出しもあれば、

ほんとにいい夢だったなぁ。
幸せなところで覚めてしまって、
続きが見たくて、もう一回毛布をかぶった。

といったふうに、ライターさんの妄想が爆発したストーリー仕立てのものもあります。

「物件ファン」のサイトから「どこをとってもチャーミング」
「物件ファン」のサイトから

さらには、マンションポエムならぬ、賃貸ポエムとも呼べるような、もはや孤高の域に達しているものまで・・・。物件に関する説明的な情報が最小限に抑えられているのも特徴だと言えます。

でも、エンタメ度MAXで面白く読んじゃううえに、住みたくなっちゃうんですよ、これが。「本来の不動産物件の常識を覆す革命的なサイトだ!」と大興奮した僕は、物件ファンさんに思わず取材を申し込んでしまいました。

すると編集長(以下、物件ファンさん)から返事が返ってきました。

「喜んでお引き受けします」

物件ファンさんのお話を通じて、不動産エンターテーメントサイトを標榜する「物件ファン」の魅力が少しでも伝われば嬉しいです。

「物件ファン」のトップページ
「物件ファン」のトップページ

――まず僕が驚いたのが、一般的な不動産屋のサイトと比べて、基礎的な情報量が少ないですよね。それはわざと取り払っているんですか?

物件ファンさん:ライターってそもそも専門家じゃないので、不動産の知識がないじゃないですか。それに物件を見に行っているわけでもない。そのうえで何を書くかですよね。一方で、家って誰でも知っていますし、想像を働かせる触媒としては誰にとってもいじりやすいんです。

今、メインで執筆しているのは、最初から書いているアーティストの森岡友樹と、⼥性ライター3⼈です。彼⼥たちは、全員ライティング経験のない⼈たちです。アルバイトの⾯接に落ちて、「わたしはプリンも売れないんだ」なんて⾔ってる、そんな時に声をかけたんです。

彼女たちの強みは夢想力。夢想して、物件をひたすら愛でること。例えば、3人のうちの2人は、今、実家暮らしなんですけど、一人暮らしの部屋の写真を渡して、自由に書いてっていうと、勝手にイメージが膨らんでいってとても楽しくいい原稿が書けるんです。

最初は「部屋が広い」「うれしい」みたいなキャプションだったんですけど、だんだんと深く夢想のなかに入り込んでいって、ストーリーみたいになっていったんです。だから、僕がディレクションしたわけでもないんですよね。

「物件ファン」のサイトから「最高の山岡さん物件あらわる!」
「物件ファン」のサイトから

――ライターさんが書くとき、心がけるように伝えていることはありますか?

物件ファンさん:今はメンバーが固定化してきて、新しく頼むことは減ってきているんですけど、去年は積極的に書き手を増やそうと思っていました。そのときに言っていたのは、「物件ファン」という名前の通り、ファンなんだから、基本は愛でる。悪口を言わないってことです。

例えば、「お風呂だといいな」と思っていた物件が、じつはシャワールームだったっていう事案にあたったとき、それを肯定的に捉えられないといけないと思います。あえて、それを愛でる。そこで必要なのが、さっきも言った夢想です。シャワールームだったら、どんないいことがあるだろうって、夢想するんです。そんなことのできるライターさんがいたら、ぜひ仲間になってほしいですけどね。

――これは僕の意見ですが、読んでいるとき、ライターさんの趣味に気づくと結構楽しいですよね(笑)。

物件ファンさん:性癖を晒しちゃうみたいな(笑)。出ちゃうんですよね。僕が原稿を見ていても、なんでここばっかりに惹かれるんだろうっていうのはあるんです。L字型の間取りに凄く惹かれたり。ドライエリアという地下1階の上から光の入る部分があると、まずドライエリアについて書いちゃうとか。

あと、お酒が好きな子がバーにしたがるんですよね。あらゆるスペースを見つけては、自分のバーがここにつくれる、みたいな。そこに酒飲みの人が反応して。物件っていうよりも、お酒が飲めるっていうことに反応しているんじゃないかって(笑)。

「物件ファン」のサイトから「いつもと逆のギャップ萌え!」
「物件ファン」のサイトから

――でも、バイトに落ちた感じの女の子が、趣味もダダ漏れで物件を愛でている感じが、SNSをやっている普通の人たちの共感を得て面白がってもらえているのは、なんとなくわかる気がします。

物件ファンさん:そういう人たちが書いているからこそ、物件についても、「僕たちもこういうところに住めるんだなあ」って思ってもらえると思うんです。あと、家という題材は凄く偉大だと思っています。ロマンがあるんです。誰にとっても自分ごとじゃないですか。家を紹介することで、その人の考え方をずらすことすらできるかもと思っているんです。

たとえば、大分にある2万8000円の1LDKの物件があるとして、力を込めて書いたところで、誰が得するんだと思うじゃないですか。もし仲介⼿数料が⼊った としても、⼤きなお⾦になるわけじゃない。だけど、そういう物件を思い入れたっぷりに書いてみると、思いがけず文明批判みたいになることもあるんです。「東京がなんぼのもんだ?」みたいな。大上段から言うのではなく、あくまで物件を愛でてたらそうなったっていうことですけど。

今までは、ソーシャルメディア上で、物件を愛で合うほんわかしたコミュニティができあがっていましたが、これからは、リアルな物件もつくりたいという「物件ファン」さん。それはどんな物件で、そこにどんなコミュニティが生まれるのでしょうか。

その物件には、漫画「美味しんぼ」に登場した「山岡さん物件」みたいな感じで、キッチンがあってほしいと切に願う筆者でした。

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