花びらで作り上げる参加型アート「インフィオラータ」 花絵師が語るユニークな魅力
地面一面に彩られた模様は、すべて生の草花。「花の絨毯」と言える「インフィオラータ」は、大地をキャンバスにして花びらで描く絵です。市民を巻き込んで作り上げるアートというところが特徴。総合監修を務めるイベントプロデューサーであり「花絵師」の藤川靖彦さんは、イベントにひとりで参加する人が多いと話します。その魅力はどこにあるのでしょうか。藤川さんに聞きました。
「インフィオラータ」は自分が主人公になれる場
インフィオラータは、イタリア語で「花を敷き詰める」という意味です。もともとはイタリアやスペインで、宗教的な儀式の後に行われることが多かったといいます。
1枚の絵の大きさはおよそ30平米。使用するのは主に花びらです。バラをはじめ、日持ちするカーネーションなどを使い、他に草や砂を使うこともあります。藤川さんは、テーマ設定のほか、どの場所でどんな絵を作り、どのような配色にするかなどをデザイナーなど関係者と共に考えます。
「インフィオラータの最大の特徴は市民が作り上げること。国内の開催はこれまで350回を超します。『東京インフィオラータ』の開催は今年で3回目になりますが、毎回、事前に参加者の募集をしています。全国各地から老若男女の方が参加してくれて、リピーターの方もいらっしゃいます」
午前中に1時間半ほど、草花から花びらを取り分ける作業をし、昼休みをはさんで午後からは絵に添って花びらを敷き詰めていきます。1枚の絵を30~35人で取り組み、2時間強ほどで完成するとのことです。
「1人が作る範囲は1平米ほどなので、作成中は全体像が見えません。すべて完成して、1つの絵として見た時、みなさん感動されますね」
一緒に作業をすることから仲間意識が生まれる
とはいえ、花は生き物。屋外の作品もあるため、ハプニングもつきものです。一昨年前、東京・天王洲キャナルイーストで作成した300平米の花絵が、台風の影響で一夜にしてすべて消えてしまったこともありました。その時は、10人がかりで4日間かけて作り直したそうです。
藤川さんが「インフィオラータ」の1番の魅力と考えるのは、市民とアーティストがコラボレーションし、プロ並みの作品を作り上げるという点です。どのグループも最初は会話もなく、よそよそしい雰囲気。しかし一緒に作業をしたり、昼食を食べたりするうちに、徐々に打ち解けていくそうです。
「完成した際、集合写真を撮ったり、連作先を交換し合ったりして、またみんなで参加しようという雰囲気になる。そうやって、人との交流が生まれることが何よりの喜びです」
まずは自分が面白いと思えるか
藤川さんは大学卒業後、音楽や映像の仕事を経て、イベントプロデューサーの仕事に就きました。バブル時は羽振りがよかった一方、バブル崩壊後から徐々に仕事が減り、1998年はどん底だったと振り返ります。
当時、何かを企画する際はコンセプトを煮詰め、分厚い資料を作り、プレゼンテーションに臨んでいましたが、ある時、クライアントは資料などほとんど見ていないことに気づきました。
「それがわかった瞬間、資料作りがバカバカしくなって。その時から、どうやったら面白いか、どうしたら人が来るのかに加え、まずは自分が面白いと思えることを企画の前提としました。話す時にも自ずと熱が入るようになり、その結果、プレゼンでほとんど負けなくなりました」
イベント企画を探している中で「インフィオラータ」に出会いました。「日本でもやってみたい」という一心で、本場のイタリア・ゼンツァーノ市長に面会アポイントを取った藤川さん。ノウハウを教えてもらえないか交渉した結果、快諾してもらい、日本での開催が実現しました。
苦しい30代を乗り越えたからこそ、見えるようになった景色があると振り返ります。今やプレゼンで用意する資料は10枚ほど。その分、空いた時間はすべてアイディア作りにあてています。
40代でのスタートがベストだった
藤川さんは、年齢を重ねるごとに人のネットワークが広がっていったからこそ、挑戦の幅が広がったと振り返ります。
「インフィオラータ・マエストロとして活動し始めたのは、40歳を超えてからでした。物事を始めるのに若い方がいいとは思いません。自分にとっては、ある程度年齢を重ね、人脈ができた40代でのスタートがベストだったと感じています」
今後は、花絵を日本文化にし、ゆくゆくは世界遺産にすることが一番の夢だと話します。
「すでにイタリア、スペイン、メキシコと組んで進めていくという話が出ています。僕一代では難しいかもしれませんが、世界遺産登録への布石を作っていきたい。残念ながら、僕の後継者が今のところいないので、誰か名乗り出てくれたらいいなと思っています」