「トイレ写真」インスタグラマー 外国人に人気のワケ

インスタグラムといえば、美しい景色やかわいい食べ物などの「インスタ映え」する写真を連想する人も多いでしょう。しかし、なかには一風変わった写真を投稿する人がいます。カメラマンの中村英史さん(53)もそんなインスタグラマーの一人です。

中村さんが投稿しているのは、公園などにあるちょっと変わった形の「公衆トイレ」の写真。昨年1月に投稿を始めて、いまでは4600人のフォロワーがいます。特に外国人から人気があり、フォロワーのおよそ9割は外国人だといいます。

投稿を始めた当初は、ほとんど反応がありませんでしたが、いまではイギリスの「ガーディアン」やアメリカの「CNN」など世界数カ国のメディアで紹介されるようになりました。トイレ写真の何が人々を惹き付けているのか。その不思議な魅力について聞きました。

インスタグラムアカウント「toilets_a_go_go」にトイレ写真を投稿している中村英史さん

――なぜトイレの写真を投稿しようと思ったのでしょうか。

中村:知り合いがインスタグラムをやっていて、自分もやってみたいと思ったんです。ただ、「どこかに行った」とか「何かを食べた」というのを紹介するのは面白くないと思って、何かテーマを持ってやりたいと思いました。そこでもともと建築物に興味があったので、公衆トイレを撮ったら面白いかもしれないと思い立ったんです。インテリアや便器の形など、トイレの内部には興味がなかったので、外観というか、建築物としての公衆トイレを撮ることにしたんです。

――投稿するトイレはどのように選定しているのですか。

中村:特に選んではないですね。公園があれば公衆トイレがあるじゃないですか。なので、地図で公園を探してから撮影に行くようにしています。仕事やプライベートで遠方に行ったときも、時間があればちょっと公園をのぞいて撮ったりもしますね。自宅から写真スタジオまでバイクで通っていて、その途中で公衆トイレを探しながら来ていましたが、ほとんどのトイレを撮り尽くしてしまいました。色々と気づくこともあって、基本的にトイレの管理は区が行っているんですけど、杉並区の場合、トイレの形は一緒でも前面の装飾に色々なパターンがあるんですよ。

杉並区のトイレ カラフルな木々のデザイン
杉並区のトイレ 鳥と子供とシャボン玉のデザイン

――撮影をするときに意識していることは。

中村:構図ですかね。周りの景色を入れたほうがいいのか、入れないほうがいいのか。入れる場合は、ちょっと引いて撮ったり、右・左・正面、ちょっと高さを変えて撮ったりと、何枚か撮ります。基本的に曇っているときに撮影するようにしています。天気がいい日は陰影がつきすぎて、建物自体のディテールが出にくかったり、逆光になったりしてしまうんですよ。たまたまいいトイレを見かけてしまった場合は別ですけどね。

外国人に人気のトイレ写真

初めてインスタグラムに投稿した写真

――どのくらい続けているのですか。

中村:投稿を始めたのが2017年の1月なので、1年半くらいですね。最初に投稿したのは、近所のトイレでした。お祭りがあって、トイレの前に提灯がぶら下がっていたんですね。その構図が面白いと思って。最初は全然反応がありませんでした。テーマがトイレじゃないですか。しかもインスタグラムで(笑) フォロワーを増やすのが目的じゃなかったので、面白いと思ってくれる人がいればいいと思っていました。だからフォロワーが増えたいま、むしろ少し戸惑っているんですよ。

――フォロワーが増えたきっかけは何かあったのですか。

中村:1年ほど前のある日、急に増えたタイミングがあったんです。それまで一度もなかったので驚きました。ページを見るたびにフォロワーが増えていったんですよ。調べてみると、海外の建築関係のメディアが、インスタの写真を勝手に取り上げていたんです。それ以来、他の海外メディアが載せるということが何度かあったようで、その都度フォロワーが増えるんですよね。「ああ、またどこかに載せられたな」って。これまで、アメリカ、イギリス、ドイツ、ロシア、中国など30以上の海外メディアに取り上げられました。

――外国人に人気があるんですね。

中村:フォロワーの9割は外国人ですね。この前、築地市場のトイレ写真を投稿したんですけど、アメリカ人から「そのトイレに行ったことあるよ」っていうメッセージがきました。「フィッシュマーケットの近くだろう」って。「そうだ」って答えたら、築地に行ったことがあると言ってました。外国人は、日本には変わった形のトイレがあるという風に見ているんだと思います。海外のメディアから、「記事にトイレの写真を載せていいか」って問い合わせがあるときは、だいたい「アートな顔のトイレ」や「切り株のトイレ」など風変わりなものが多いですね。

アートな顔のトイレ
切り株のトイレ
アルファベットのトイレ
竹のトイレ

――中村さん自身は、どんなトイレが好きなんでしょうか。

中村:古くて綺麗に残っているものが好きです。仕事で山形に行った時に、たまたま通った道で古いトイレを発見して、大喜びしました。バス停とトイレが一体化していて、「すごい!」って。しかも漢字で「公衆便所」って。なんか「すごみ」を感じたんですよ。トイレのたたずまいや雰囲気がいいんです。トイレの「わびさび」というか、単純に形が風変わりというものではないんですよ。そういう感性は、海外の人とは違うと思いますね。

トイレにも「わびさび」がある

フリーを続けていく上で大切なこと

「物撮り」をする中村さん

――中村さんはカメラマンとしてどんな写真を撮られているんですか。

中村:雑誌やパンフレットに掲載する「物撮り」が多いですね。ミニカーの写真とか、アウトドアグッズ。ウェアや登山ギア、テントなどの山に関わる道具も撮ります。あとは、建築関係の竣工(しゅんこう)写真ですね。公共事業は、プロのカメラマンによる竣工写真の提出が義務付けられているようです。

――モデルなどの人物写真は撮らないんですか。

中村:人を撮るのが苦手なので人物はあまりないですね。モデルに対してコミュニケーションがうまく取れなくて。「いいよ、いいよ」みたいなことが言えないんです。篠山紀信さんは、そういうコミュニケーションがずば抜けて上手だと聞きますね。もちろん有名なカメラマンでも一切喋らない人はいるようですが。

中村さんの写真が掲載されている雑誌

――中村さんはフリーで活動していますが、フリーの魅力ってどんなところにあるんですか。

中村:フリーなところですよね(笑) 時間に融通がきくし、自分でやりたい仕事を選ぶこともできますしね。でも実はあまり自由でもないんです。営業が大変で・・・。フリーのカメラマンは、写真が上手くても、営業ができないと厳しいところはあります。僕は営業が得意ではないので、どちらかというと組織にいた方がいいかもしれない、と思うときはあります。

――営業以外で大変なことはどんなところでしょうか。

中村:何も保証がないところですね。撮影料がどんどん安くなって、大変な思いをしています。ネット関係の仕事だと、信じられない金額の仕事があります。ネット通販に出す商品の物撮りで、数百円とかの仕事もあるみたいですね。フリーになってから、今が一番しんどいですね。

――そんな中、長い間フリーを続けてきました。そのコツを教えて下さい。

中村:運が良かったというのもあるでしょうけど、できる限り精いっぱいやる。下手なものを納品したら次は無い。いくらでも代わりがいるので。そういうことを意識していますね。僕の師匠はとても職人気質な人で、絶対に手を抜かなかった。例えば、「切り抜き」で使う商品を撮る場合でも、「切り抜き」だから商品の周辺はどうでもいい、ということはしない。周辺も含めてきれいに撮影するんです。そうやって、細かいところも手を抜かずに仕事をすることで、リピートしていただく。長く続けていくには、そういうことが大事だと思います。

――これからもトイレ写真の投稿を続けていくのでしょうか。

中村:続けていきたいと思っています。投稿を続けていく中で、見たことのないトイレに出会う喜びというか、自分がいいと思えるトイレにあった時の感動があって、とても楽しいと思っているんです。それで、写真をみてくれた人が、「いいね」「面白いね」と思ってくれれば、なお嬉しいですね。

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