「プラスチックには昔の生き物の記憶がある」次世代を担う写真家のユニークな持論
「プラスチックは、石油からできている。昔生きていた生き物の記憶を持っているんじゃないかと思うんです」。美術家の藤倉匠さん(37)は、そんなユニークな持論を語ります。誰の家にもある身近なものを撮影し、カラフルで抽象画のような作品を発表しています。
そんな藤倉さんの写真が、東京・銀座のギャラリーで開催中の「A.W.P Selection 2018ー次世代を担う写真家たち」と題された写真展で展示されています。
使い捨て文化に違和感があった
藤倉さんの写真は、じっと見つめてみても、それがいったい何であるのかよくわかりません。被写体が何かは明かしていないといいます。ヒントは「台所や机の上にある身近なもの」とのこと。こうした作品を制作する裏には、消費社会への問題意識があると語ります。
「中学生時代からゴミ問題に関心がありました。当時、使い捨て文化が当たり前だった。新しいものを使う方がいいと。でも、そういうのはおかしいのではと思っていたんです」
たとえば、使ってはすぐ廃棄されてしまうプラスチック。しかし、ずっと見つめていると、そこには「昔の生物の記憶があるのでは」といいます。そこに何が映されているのか、じっくり考え込んでしまう写真です。
展示では他にもユニークな作風の写真家の作品が展示されていました。異国の風景を撮影した写真を展示しているのは、田中紘子さん(39)。写真家を志す前の2004年、旅行先のヨーロッパの国々で撮影しました。「場所を特定するもの」は選んでいないのがこだわり。当時は技術的なことがわからず、無邪気に撮っていたといいます。写真を学んだ今見てみると「モヤっとしているのが臨場感がある」と語ります。
「ボロボロになっているものに惹かれる」
こちらは、1年の4分の1は海外にいると語る写真家の萩原よしてるさん(30)の作品。オーストラリアやイギリスなどで撮影した写真を展示しています。「古いものが好き」だと萩原さん。「真新しくて高級なものよりも、時間が経過してボロボロになっているものに惹かれます。それが暮らしの中の一部になっている。かっこいいなと感じるんです」
「写真は演出性が強く入っているメディアだと思います」。そう語るのは、佐々木俊明さん(42)。この写真は本物の花ではなく「造花」を撮影しています。人工的に作った「偽物」。眺めていると、本物の花のように感じてきます。「日本には日本庭園の枯山水のような『見立て』の文化があります。そういう文化への思いが根っこの部分ではあるかもしれません」(佐々木さん)
「東京の刺激的なごちゃごちゃ感を発信したい」。そう語るのは、Tomas H. Haraさん(30)。多重露光という複数の画像を重ねる手法を使って、新宿や渋谷の街並みを高いところから撮影しています。アルゼンチンで生まれ育ったTomasさんは6年前に日本に来ました。「東京で撮影した作品を世界に発信していきたい」と語っていました。
こちらは、青森の十和田周辺で撮影している渡邉遼さんの作品です。カメラを縦方向に動かしながらの長秒撮影をしています。じっくり見入ってしまうような幻想的な自然風景。リコーの阿部杏映さんは、渡邉さんの作品を一言で表すと「写真ならではの時間を超越した表現」だと語ります。
今回の写真展「A.W.P Selection 2018ー次世代を担う写真家たち」。一人ひとりの写真へのこだわりや想いは違っているものの、どれも既存の価値観にとらわれていない自由さを感じる作品だと感じました。
展示会の運営代表の池永一夫さんは、こう語っていました。「何のカメラでどういう撮り方をしたか。そういう技術的なことを考えるというよりも、写真を直接見ていただいて、ストレートに何かを感じてもらえたらと思います」
写真展は、デジタルカメラの販売などをするリコーイメージングが運営するギャラリー「リコーイメージングスクエア銀座」で、6月20日から7月22日まで開催されています。