「“楽したい願望”の逆をいけば人は強くなる」Voicy社長の「ひとりランチ」

緒方さんの「ひとりランチ」は自分の席で(撮影:中村英史)
緒方さんの「ひとりランチ」は自分の席で(撮影:中村英史)

「誰かと一緒に食べるときは美味しいものを食べたい。だから、ひとりで食べるときはできるだけカロリーと脂質を減らしたい」。緒方憲太郎さんは、コンビニのとろろソバをすすりながら、そう語ります。緒方さんは、音声配信サービス「Voicy」(ボイシー)を運営する会社の代表取締役CEOです。

社長がひとりで昼食をとるとき、どんな店で、どんなものを食べているのだろう? 誰にも教えていない名店でゆっくり食べる社長もいれば、栄養ドリンク1本で済ませる社長もいるでしょう。そこから、その人の考え方や個性が見えてくるのではないでしょうか。

株式会社Voicyは、2016年に創業。現在、東京・渋谷にあるオフィスでは約30名の社員が働いています。取材したこの日、緒方さんのランチは、オフィス隣のビルにあるコンビニで買った半熟玉子のとろろそば(税込460円)とサラダチキンロースト(税込198円)でした。

ひとりランチはインプットの時間

会社近くのコンビニを出た緒方さん(撮影:中村英史)
会社近くのコンビニを出た緒方さん(撮影:中村英史)

緒方さんはふだん、できるだけ社員と一緒にランチをとるようにしているといいます。会社として昼食の時間を決めてはいませんが、新入社員が他の社員と一緒に食べる「ランチバトン」の制度があるそうです。

「でも、日に日にみんな誘ってくれなくなって。(自分が)『忙しそうだな』っていうのもあるんでしょうけど、『ご飯一緒に行く人!』って言っても、なかなか手を挙げてもらえない。個別に声をかけると、もしかしたらパワハラって言われる時代もくるかもしれないからね(笑)」(緒方さん)

ひとりランチの際、緒方さんはオフィスの自分の席で食べています。緒方さんの机の上にはモニターが3つ、さらにタブレット端末とスマホが置かれていました。インプットの時間に充てているといいます。

机のうえにはモニターが並んでいた(撮影:中村英史)
机のうえにはモニターが並んでいた(撮影:中村英史)

「だいたいいくつも同時にやっちゃうんです。画面をたくさん見ながらいろいろ考えたり、ご飯を食べながら、たまにメールを返したり。ひとりで食べるときは別に豊かに食べなくてもいいかなぁと思っているので。できるだけ時間を短く、かつ、健康でカロリーを摂りすぎないようにして」(緒方さん)

ネットではおもに、経済やベンチャー企業の動向を伝える記事、音声メディアの情報を伝える海外のサイトなどを見ているといいます。一方で「社員のみんなと話せる時間が少ないので、暇そうにして『(自分に)声をかけてほしいな』っていうのもあります」と、寂しがり屋の一面をかいま見せます。

緒方さんが考える「面白さの基準」

そもそも緒方さんはなぜ、音声配信サービスを作ろうと考えたのでしょうか?

「次の時代に音声がくる、と。情報を得るために、人がわざわざ画面の前に立ち止まったり座ったりしないといけないっていうのは、たぶん未来の人が見たら、すごく気持ち悪いんです。『情報を得るために生活を全部止めなきゃならなかったの?』って。歩いていたり運転していたり、情報って好きなときに得られるのが当たり前だよねっていう時代がくるんじゃないかと思ったんです」(緒方さん)

「動物の身体の一部が人間につくとしたら何がいいか」考えるという(撮影:中村英史)
「動物の身体の一部が人間につくとしたら何がいいか」考えるという(撮影:中村英史)

世にスマートスピーカーが出る前から、そんな風に考えていた緒方さんは2015年、会社を辞め、エンジニアの窪田雄司さんと共にVoicyを立ち上げました。現在は「過渡期を楽しんでいる時期」といいますが、サービスの会員数は年々増加しているそうです。「社会のインフラになることが目標」というVoicyは、Amazonのような会社を目標としつつ、緒方さんには決めていることがあります。

「自分たちが世の中にどれだけのものを生み出せるかってことを考えたいんです。他社とパイを取り合ったり、ユーザーは幸せじゃないけど会社はお金を得られるといったことはしないと決めているんです」(緒方さん)

「そのコンテンツがあった時となかった時、そこにハッピーな差が生まれているか」が、緒方さんにとっての「面白さ」の基準だといいます。

Voicyの音声配信アプリは、配信者が一発で録音する必要があり、編集できないようになっています。これも「面白さ」を重視する緒方さんの方針です。

「編集するとどんどんこだわりだして、内容よりも見せ方に労力を使うようになる。暇な人ほど得することになってしまう。だから、忙しくても面白い人ほどパフォーマンスを出せるようにしているんです」(緒方さん)

会社には「同じ競技をしたい」という人が集まってやればいい

「仕事って趣味だと思うんです。生きていること自体も、そもそも趣味。どうせ死ぬんですから。そのなかで会社って『みんなで何かを作る』っていう団体競技をしているんだと思っているんです」という緒方さん。「同じ競技をしたいという人が集まってやれればいい」と話します。

そんな緒方さんに影響を与えたのは、意外にもSNS「mixi(ミクシィ)」だったそうです。

「誰も作ってなかったものを作って、日本に文化ができた。いろいろと楽しむ人がいて、結婚する人もいた。新しいコミュニティを作って人をつなげたっていう、すごい羨ましかったし、そういうことをビジネスでやっていいんだって感じましたね。

新聞で読んでいたニュースがネットで見られるというような便利になるものはあっても、それまで新たな生活とか生き方が示されたっていうのはなかったので、衝撃でしたね。自分たちもそれがあったおかげで生活が変わったり、人生が変わったりする人たちが出るような、そういうものが作れたらいいなと思っています」(緒方さん)

緒方憲太郎さん(撮影:中村英史)
(撮影:中村英史)

そのために緒方さんは、いくつもの仕事を並行して進めることが習慣になっているといいます。

「人間って燃費が悪くて、1日に3回も飯を食わないと死ぬんですよ。しかも毎日寝る。1日の3分の1近くは動かない状態になって。商品だったら絶対に使いたくない(笑) こんなに効率の悪いやつはどこにパフォーマンスを生むのかなって思ったら、やっぱり脳みそで考えることに使ってるんだろうなと。

なのに人間には、できるだけ脳みそを使わない、楽したいっていう願望まであるのはすごいなと。そうなると、『楽したい願望』から逆にいけば、人間ってどんどん強くなるのは間違いないんです。脳みそを使いすぎてケガした人なんていないんですから」

「ひとりランチ」の時は「豊かに食べなくていい」と語る緒方さんの根本には、こうした独自の考え方があるようです。

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土井大輔 (どい・だいすけ)

ライター。小さな出版社を経て、ゲームメーカーに勤務。海外出張の日に寝坊し、飛行機に乗り遅れる(帰国後、始末書を提出)。丸7年間働いたところで、ようやく自分が会社勤めに向いていないことに気づき、独立した。趣味は、ひとり飲み歩きとノラ猫の写真を撮ること。好きなものは年老いた女将のいる居酒屋。

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