「焼き鳥屋で他人を演じる」 女優・山谷花純さんのひとり時間の過ごしかた
今年のマドリード国際映画祭で最優秀外国語映画主演女優賞を受賞し、国内外で注目を集める女優の山谷花純さん(22)。評価された主演作「フェイクプラスティックプラネット」では、東京でネットカフェ暮らしをする貧困女性を演じました。
これまで多彩な役柄を演じてきた山谷さん。出演作にドラマ「手裏剣戦隊ニンニンジャー」(モモニンジャー役)、映画「劇場版コード・ブルー」(末期ガンの女性役)などがあります。
そんな山谷さんですが、休日はひとりで過ごすことが多いそうです。愛猫と映画を見たり、ひとりカラオケに行ったり。焼き鳥屋のカウンターに座って、自分とは違う人物を演じて、お店の人と会話することも好きなのだとか。
演技について「自分の人生でできないことができる場所」と語る山谷さんに、演技への思いやひとり時間の魅力を話してもらいました。
映画を猫と一緒に見る
ーー山谷さんはひとりの時間を過ごすのが好きだそうですね。
山谷:好きですね。基本ひとりです(笑)。お仕事で人と接する時間が多いので、休みの時は気持ちのリセットをするために、ひとりの時間をなるべく作るようにしています。
去年猫を飼い始めたんですけど、本当に可愛くて、余計ひとりで家に籠るようになりました。それまでは仕事が終わった後に「ちょっと友達に連絡して飲みに行こうかな」と思うこともあったんですけど、今は一目散に家に帰るようになりました。
ーーどんな猫を飼っているんですか?
山谷:ミヌエットというマンチカンとペルシャのミックス猫です。男の子で名前はまるちゃん。よく「鬼ごっこしよう」って誘ってくるんですよ。まるちゃんにタッチをしたら私が逃げて、私にタッチしたらまるちゃんが逃げる。そんな追いかけっこをやってます。
ーー猫のどんな所に魅力を感じますか?
山谷:マイペースで気まぐれなのが凄くいいなと思って。関係性もあまりしつこくないというか、距離感があるところがかわいいです。あと自分もよく「猫っぽい」って言われてたんですよね。目の形が猫目で、性格もマイペースなので(笑)。
ーー映画を一緒に見るそうですね。
山谷:休みの日はずっと部屋に籠もって、動画配信サービスで映画やドラマを見て過ごしてます。ひとりで見ていたら隣にきて一緒に見てくれるんですよ。
ーー山谷さんは映画好きとのことで、インスタグラムでは見た映画の感想を沢山アップしていますね。
山谷:今年は1年間で映画を250本見ようって目標を立てちゃって。でも今になってちょっと後悔してるんですよね(笑)。半分以上はいったんですけど、もう今年もあまり残っていないので。最近は駆け足で見ています。
ーー今年だけで100本以上も見ているということですよね。どんな映画を見るんでしょう?
山谷:毎月自分の中で見たい作品の系統が変わるんです。9月は邦画を凄く見たい気分で、10月は「ボディガード」のような洋画の名作を見ています。名作を見ていると気づくことが多くて。「なんか知ってる曲だな」と思ったのが、元々はその作品の中の曲だったり。あとは年配の役者さんで若い頃の姿を見ると凄く新鮮だったり。
ーー演技の参考にしたりするんですか?
山谷:そうですね。もちろん趣味でもあるんですけど、仕事柄、演技に目を向けてしまいます。主人公にスポットが当たっている後ろで演じている人たちを見たりします。「グレイテスト・ショーマン」が凄い好きで、主演のヒュー・ジャックマンがバーで歌っているシーンがあるんですけど、その後ろのバーテンダーの動きに目がいってしまったり。「背景に馴染むような自然な動きとはどういう演技だろう」って考えながら見ています。
役者ならではのひとり焼き鳥!?
ーーひとりで焼き鳥屋に行くことも好きだそうですが、店に入るのに抵抗はないですか?
山谷:焼き鳥屋とか居酒屋とか全然ひとりで行きます。家の近くのお店にひとりでふらっと入ってカウンターの席に座るんです。店員さんと一緒に話しながらお酒を飲むのが楽しいんですよね。焼き鳥は砂肝、軟骨、ぼんじりとかが好きで、東北出身なのもあって濃い味が好きなので、タレを頼みますね。
ーーどんな会話をするんですか?
山谷:お店では自分とは違う人物像を演じながら会話するんですよ。店員さんに「何のお仕事をされてるんですか」って聞かれると、なかなか自分の職業を言うのは気が引けますし、話を発展させるのも難しいので。お店に入る前に「今日はこの職業でいこう」と決めて演じます。
「自分じゃない人になりたいな」と思う時もあるじゃないですか。そういう時は「もう違う人になっちゃえばいい」という考えなんです。相手には凄く申し訳ないんですけど、嘘を作って会話をするのが面白いです。
ーーこれまでにどういう人を演じました?
山谷:髪の色が明るい時もあるので、OLさんだとちょっとおかしいなと思って、コールセンターやアパレルのお仕事をしていると言ったりしました。アパレルの店員さんを演じている時は「お店の売り上げのノルマが大変」「ゴールデンウィーク中は本当に忙しくて」みたいな話をしたり。そういう会話をしながら「この料理に合うお酒は何ですか」と聞いたりする。不思議な関係性の時間です。
ひとり旅にもチャレンジしたい
ーー他にもひとりカラオケが好きだそうですね。
山谷:カラオケは人と行くよりもひとりで行く方が多いかもしれません。高校生の時に家の近くにカラオケがあってよく行きました。上手くなくても人を気にしなくていいですし、歌う曲や順番で気をつかわなくていい。友達と行く時のために練習をすることもあります。ストレス発散になるので、今でも仕事の合間にひとりで行ったりしています。
ーーどんな歌を歌うんですか?
山谷:浜崎あゆみさんの「M」「BLUE BIRD」や倖田來未さんの「walk」などを歌います。特に「walk」は思い入れがあって。曲には「夢を諦めなかったらかなうよ」というメッセージが込められているんです。よくオーディションの前に聞いていました。少し落ち込んだような時に歌って「よし頑張ろう」と思います。
ーー今後ひとり遊びでチャレンジしたいことはありますか?
山谷:今一番したいのが、国内のひとり旅行です。去年、知り合いがいるLAに行かせていただいて、その道中にプチ一人旅行を味わって、凄くドキドキして楽しかったんですよ。まだひとりで海外旅行は怖いので、京都や北海道とか国内旅行から始めて、どんどん広げていけたらなと思っています。
あと最近、御朱印集めを始めたんですよ。もともとスタンプラリーやパスポートに出入国スタンプを押してもらえるのが好きで。御朱印帳も季節によって色が変わったりするのが楽しいです。神社の参拝もできるし、風貌の違いを楽しむこともできます。旅の目的になりますね。
いつか歩いてみたい舞台
ーー山谷さんにとって「演技」とは?
山谷:自分の人生でできないことができる場所です。役の人生を借りて自分が本当にやりたいことをやったり、言いたいことを言うことができる。「もう一人の自分」なのかなと思います。
ーー今年はマドリード国際映画祭で賞を獲得した山谷さんですが、今後の目標はありますか?
山谷:私は初めて出演した映画が中島哲也監督の「告白」という作品だったんですが、日本アカデミー賞で最優秀作品賞に選ばれました。その時に初めてテレビで日本アカデミー賞を見て、自分が関わった作品が選ばれた時は凄く嬉しくて、テレビの前でジャンプして喜んだんです。いつかテレビの画面を通してでなく、あの舞台を自分の目と肌で感じながら、歩きたいなというのが目標です。
ーーどんな役者を目指していきたいですか?
山谷:どちらかというと主役として輝くというよりは、真ん中にいる人を引き立てる役の方が自分には合っていると思っています。演じるのもそういう二番手・三番手のほうが楽しくて。だから印象が濃く残るわけじゃなくても、「どの作品にもあの子いるよね」という風に、うっすらと印象に残るような役者になりたいと思っています。
山谷花純(やまや・かすみ)さん・プロフィール
1996年12月26日、宮城県生まれ。「手裏剣戦隊ニンニンジャー」(2015年)や「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」(2018年)での演技が高く評価され注目される。2019年8月には主演作「フェイクプラスティックプラネット」で、「マドリード国際映画祭2019」最優秀外国語映画主演女優賞を受賞した。ほかにも今年は映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」やドラマ「リカ」に出演するなど幅広く活躍中。来年には舞台「ヘンリー八世」(2020年2月上演)出演が決定している。