普通のサラリーマンが始めた手作り「野外フェス」が8年目
野外で開かれる音楽フェスというと、フジロックやロックインジャパンのように、国内外の有名アーティストが出演して、数万人の観客が熱狂する大規模なイベントを想像するかもしれません。一方で、参加者が100人ほどの手作り感あふれる野外フェスもあります。
9月29〜30日に神奈川県南足柄市の夕日の滝キャンプ場(ezBBQ COUNTRY)で開催される「口笛キャンプ」は、そんな手作りフェスの一つ。ふだんはメディアやアパレルなど、音楽以外の業界で働いている3人の男性が中心となって2011年にスタートし、今年で8年目となりました。
運営代表の本間晋さん(39)は「音楽を聴いたり踊ったりするだけではなく、皆でゆるくまったり、場を楽しんでほしい」と話しています。
家族で楽しめる「フェス」を目指す
口笛キャンプは、その名前からわかるように、自然の中で寝泊まりしながら音楽を楽しむ「キャンプ型」の野外フェスです。ハウスやアンビエント、ジャズといったジャンルのDJパフォーマンスやバンドなどのライブがあるほか、親子で参加できるキャンドル作りや絵本朗読のワークショップも開かれます。ナイフとフォークで食べる熟成肉やサードウェーブコーヒーなどの飲食店も出店するなど、食にもこだわっています。
本間さんは家族連れで気軽に参加できるような雰囲気づくりを意識したそうです。誰にでも開かれた「フェス」を目指しています。
「フェスを始めた当時は30代前半で、結婚して子どもがいる友達も多かった。家庭があると、クラブやフェスから足が遠ざかりがちです。タバコの煙がモクモクしているクラブのような場所ではなくて、子どもを安心して連れて来られる自然の中で開催できたらと思いました」
「会社員」だから続けられた
運営する3人は全員が会社員として働きながら、休日や夜間など仕事の空き時間を使ってフェスの準備をしています。イベントの企画や出演者の交渉、地元の人への挨拶まで、何から何まで自分たちで担当しています。なぜ、自分たちでフェスをやろうと思ったのでしょう?
「90年代にフジロックなど大規模なフェスが流行った後に、2000年代前半からは100人規模の手作りのフェスが増え、自分の友人も開催してました。この規模であれば、自分たちでも出来るのでは?と思っていました」
そんな時に出会ったのが2010年発売の『野外フェスのつくり方』という本でした。フェスを始めるための心構えやハウツーなどを学んだといいます。「地元の人に挨拶をするときは、日本酒を持っていくなど、実践的なことが書いてあるんです」
さらに、2011年に起きた東日本大震災の経験が大きかったと振り返ります。
「あの日、東京都心のビルの27階で仕事をしていたんですが、すごく揺れてビルもバキバキ鳴って、本当に死ぬかと思って。自分の人生、やりたいことをやらないと、後悔するなと思ったんです」
赤字が出た場合は複数で分担
そんなきっかけで始まった口笛キャンプも、今年で8年目。本間さんはフェスを続けるコツは「頑張りすぎないこと」だと語ります。
「フェスを続けていくのは大変です。何かにこだわれば費用は膨らむし、半年ほどかけて準備をしても、お客さんがあまり来なければ10万円以上の赤字になります。友達のフェスでは長続きしない例が多くありました。自分たちは責任者を複数人にして、仕事を分担し、赤字が出た場合の負担を分散させました。いかに無理をせずにフェスを続けるかが重要だと思っています」
「口笛キャンプは繋がりを提供する場にしたい」と語る本間さん。震災後、人と人の「繋がり」の重要性を認識したからだそうです。今年の開催を前にして、次のように語っていました。
「あくまで日常の延長のフェスです。わいわいとキャンプを楽しんでもらえたら嬉しいです。フェスって、音楽マニアだけが集まる、排他的で恐いところなんじゃないか。そう思っている方も、ぜひ安心して来てもらえたらと思います」